Calibre Heuer 01
Cal.1887を再構築し2015年に登場した、TAG Heuer自社製コラムホイール・クロノグラフ
Cal. Heuer 01は、TAG Heuerが2015年のバーゼルワールドで発表した自動巻クロノグラフ・キャリバーである。2009年に登場したCal.1887を母体とし、コラムホイールを赤に着色しローターを黒コーティングに改めるなど、装飾と仕上げを大幅に刷新した派生世代にあたる。直径29.3mm、振動数28,800vph(4Hz)、石数39石、パワーリザーブ50時間。垂直クラッチとコラムホイール制御を備えた本格的なクロノ機構を持ち、Carrera Heuer 01 45mmを皮切りに43mm版や限定モデル群へ展開された、2010年代後半のTAG Heuerを象徴するキャリバーである。
| Maker | TAG Heuer |
|---|---|
| Reference | Calibre Heuer 01 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 39 石 |
| Power reserve | 50 h |
| Movement ⌀ | 29.3 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel |
系譜と歴史
1. Cal.1887という出発点
Cal. Heuer 01の物語は、2009年に発表されたCal.1887に遡る。これはTAG Heuerが自社初の量産マニュファクチュール・クロノグラフとして送り出した機械で、当時CEOのジャン=クリストフ・バビンが主導した開発である。ただし、その素性については発表直後から議論が起こる。Seiko Instruments Inc.が1997年に出願したTC78プラットフォーム(Seiko 6S37と同系)を基盤としており、TAG Heuerは2006年に欧州での独占製造権を取得していたためである。バビンはこの経緯を公式に認め、TC78を踏まえつつも独自の改修(石数の増加、KIF耐震機構の採用、プレート径の拡大等)を加えた上でスイス・シェヴネ工場で製造することを説明した。Cal.1887が「自社製」と呼ばれうるかは観点によるが、素材調達から組立まで自社が責任を負うクロノグラフであることは確かである。
2. 2015年、再生としてのHeuer 01
2014年末にジャン=クロード・ビバーがTAG Heuerの暫定CEOに就任すると、ブランドの製品戦略は一気に動的になる。翌2015年のバーゼルワールドで発表された「Carrera Heuer 01」は、その象徴的な投影であった。45mmのモジュラーケース、サファイアダイアル越しに機構が透けるオープンワーク設計、そして赤く着色されたコラムホイールが視覚的な核となる。搭載されたCal. Heuer 01は、構造的にはCal.1887と多くを共有しつつ、ローターの再設計と黒コーティング、コラムホイールの赤色仕上げ、クロノグラフブリッジの形状変更によって、見るためのムーブメントへと変貌した。Cal.1887の「実直な道具」という性格は、Cal. Heuer 01では「見せる機構」へと再構築されたとも言える。
3. シェヴネ製造と派生展開
Cal. Heuer 01は、ジュラ州シェヴネのTAG Heuerムーブメント工場で製造される。同工場はCal.1887から受け継がれた製造ラインを基盤としつつ、後年のCal. Heuer 02、トゥールビヨンを内蔵するCal. Heuer 02T(CH80派生)の生産も担うようになる。Cal. Heuer 01は、エアトン・セナ追悼モデル、マンチェスター・ユナイテッド版、レッドブル・レーシング版など、コラボレーションや限定モデルの心臓部として広く用いられた。現代TAG Heuerが目指した「ストーリー性を持つ量産マニュファクチュール」の象徴的な役割を果たしている。
4. Cal. Heuer 02への世代交代
2017年、TAG Heuerは長年開発を続けてきたCH80(原型は2014年公表のCal.1969)をCal. Heuer 02として正式リリースする。80時間のパワーリザーブ、垂直クラッチ、3-6-9のトライコンパックス・レイアウトを持つ新世代機は、2018年から43mm Carreraに搭載が拡大し、Cal. Heuer 01の後継としての位置を明確にしていった。Cal. Heuer 01は段階的に主役の座を譲るが、Cal.1887から続く一連の系譜は、2010年代TAG Heuerが自社製クロノグラフ機を量産レンジで確立した記録として残る。
技術解説
1. 基本構造
Cal. Heuer 01は、直径29.3mm(13リーニュ)、厚さ7.30mmの自動巻クロノグラフ・ムーブメントである。クロノグラフ機構をベースキャリバーに後付けするモジュラー構造ではなく、設計の段階からクロノグラフ機能を組み込んだインテグレート構造を採る。これはCal.1887から受け継がれた特徴で、モジュール式に比べてケース厚を抑えやすく、各機構の連動も直接的になる利点を持つ。香箱は単一(シングルバレル)で、振動数は28,800vph(4Hz)、石数は39石。パワーリザーブは時計のみで約50時間、クロノグラフ作動時で約40時間とされる。
2. コラムホイールと振動ピニオン
Cal. Heuer 01のクロノグラフ制御は、コラムホイールが担う。コラムホイールとは円柱状のカム部品で、プッシャー操作時に各レバーの動きを精密に制御する機構である。安価なカム式に比べ、プッシャーのフィーリングが滑らかで、起動時のクロノグラフ秒針の跳ねも少ない。Cal.1887ではコラムホイールが青く着色されていたが、Cal. Heuer 01ではこれが赤く塗装され、ムーブメントの視覚的な象徴となっている。
四番車との連結にはオシレーティング・ピニオン(振動ピニオン)が採用される。これは1887年にエドゥアール・ホイヤー(TAG Heuerの創業者)が特許を取得したクロノグラフ連結機構の一形式で、垂直に揺動するピニオンを介して動力をクロノグラフ機構に伝える方式である。コラムホイール制御と組み合わせることで、起動・停止・リセットの動作精度を高められる。Cal.1887・Cal. Heuer 01の双方が、社名に冠された「Heuer」のクロノグラフ史を機構面で受け継ぐ象徴的な意匠でもある。
3. 仕上げと装飾
シェヴネで組立てられるCal. Heuer 01は、機械的な高級仕上げよりも視覚的なインパクトに重きを置く。ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ波模様)が施され、ローターは黒色コーティングと「CAL. HEUER 01 SWISS MADE」の刻印を備える。香箱からローターへ動力を伝える中間車には青のカラーリングが入り、赤いコラムホイールと並んでムーブメント全体に色彩のリズムを生む。耐震機構にはスイス製のKIFが採用され、ベースのTC78プラットフォームが用いていたセイコー製ダイアフレックスから置き換えられた点も、TAG Heuer版としての改修要素である。
4. ダイアル側のレイアウト
Cal. Heuer 01は6-9-12の3カウンター・レイアウトを採用する。12時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンド、6時位置に12時間積算計が並び、3時方向に日付窓を持つ。スケルトン化されたサファイアダイアル越しに、レバーや車列が動く様子を確認できる構造は、Cal.1887には存在しなかった本キャリバーの大きな個性である。認定面では、同キャリバー自体にクロノメーター認定(COSC)は付与されておらず、後の自社製キャリバー群が取得するMETAS認定等の枠組みからは独立した位置にある。