設計思想
Biver体制が描いた「新しいカレラ」
2014年末にJean-Claude Biverが暫定CEOとしてTAG Heuerの舵を取った直後、ブランドはアイデンティティの再定義を迫られていた。創業以来のレーシング・クロノグラフという軸は揺るがないとしても、世代交代する顧客に届く視覚的言語が新たに必要とされていた。その第一弾として2015年バーゼルワールドに登場したのが、母体リファレンスCAR2A1Z.FT6044である。スケルトン化したダイヤルと、素材や色を自在に組み合わせられる12部品のモジュラー構造のケースを軸に、Cal.1887 を基にした新しい自社キャリバー Heuer 01 を積んだ。
2016年、ストラップで拡張された家系
CAR2A1Z.FT6051が世に出たのは、その翌年のバーゼルワールド2016である。同時期には赤ラバーのCAR2A1Z.FT6050、青ラバーのCAR2A1T.FT6052(Blue Touch)、スチール・ブレスレット仕様、グレー・ファントム呼称のチタン仕様、そしてブラック・セラミック仕様も発表された。本機の差別化要素は文字通りストラップの色にあり、本体側のケース・ダイヤル・ムーブメントは親リファレンスCAR2A1Z.FT6044を踏襲する。
モジュラー設計が許容したラインアップ拡張
BiverとSémonが掲げたモジュラー構造の利点は、この家系拡張に現れる。12個に分解できるケース・アーキテクチャは、塗装色や素材を入れ替えるだけで派生型を産み出す前提で設計されていた。同じ45mmのモジュラー・ケースは、カレラ クロノグラフ トゥールビヨンにも用いられている。開いた日付ディスク、赤いコラムホイール、レーシングカーのステアリングを思わせる黒いローターといった意匠は、どの派生でも共通する。本機の白ラバー仕様は、「カレラを切り分ける軸」が時計本体ではなくストラップ側にも置かれ得ることを示した派生群の一角に位置する。
意匠分析
ケースアーキテクチャ
ケース径45mmの本体は、12個の独立部品を組み合わせる「モジュラー構造」を採る。可視化されたラグは無垢ステンレススチールにブラッシュ仕上げとポリッシュ仕上げを交えた地金そのままの色味であり、その内側に位置する中央ケースなどには、黒いコーティングを施した部品が組み合わされるとされる。固定ベゼルにはグレーのタキメーター目盛りが刻印される。リューズはステンレス地に部分的なラバーグリップ、クロノグラフプッシャーはチタンカーバイド・コーティングのベースの上にステンレスのヘッドを乗せる。サファイアクリスタルは前面と裏側両方に配され、Heuer 01の機関部を上下から覗かせる。
ダイヤルと針
ダイヤルはスケルトン化され、12時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンド、6時位置に12時間積算計、3時と4時の間に日付窓が並ぶ。インデックスはロジウム・コーティングのアプライドで、赤いドットがあしらわれる。クロノグラフ秒針は赤、時分針はポリッシュとサンドブラスト仕上げを併用したアプライドハンドで、ともにスーパールミノヴァが充填される。中央に渡された開放的なクロノグラフ・ブリッジ越しに、赤く塗られたコラムホイールが視認できる。
ストラップが担う差別化
FT6051を親リファレンスCAR2A1Z.FT6044と分けるのは、ストラップ色のみである。白い穿孔ラバーストラップが装着され、デプロワイヤントバックル(プッシュボタン安全装置付き)で留められる。ダイヤル側に白の色挿しは入らず、赤いアクセントとロジウム色のインデックスは親リファレンスから維持される。ホワイトを軸にした視覚演出はストラップに集約され、本体側の構造には変化を与えない。
系譜と歴史
本機の物語は、親リファレンスCAR2A1Z.FT6044の登場とともに始まる。2015年3月のバーゼルワールドで、Jean-Claude Biver体制下の最も重要な新作としてCarrera Calibre Heuer 01が発表された。黒ラバーストラップ仕様のCAR2A1Z.FT6044(自社製キャリバーHeuer 01搭載、12部品モジュラー構造の45mm鋼ケース)が出発点である。
CAR2A1Z.FT6051は、その翌年2016年3月のバーゼルワールドで家系拡張の一環として正式発表される。同時期にはCAR2A1Z.FT6050(赤ラバー)、CAR2A1T.FT6052(Blue Touch、青ラバー)が同じ親リファレンスからのストラップ違いとして加わり、さらに初のスチール・ブレスレット仕様CAR2A1W.BA0703、チタン仕様CAR2A8A(Grey Phantom)、ブラック・セラミック仕様CAR2A90も同時発表された。機能部品には常にスチールを用いて100m防水を確保する構造も、素材違いの展開を支えた。
その後、Heuer 01 を積むカレラは43mm ケースにも展開された。本機の生産終了の時期は確認できていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。