設計思想
1. 限定版から定番へ
オメガはクロノグラフやアニュアルカレンダーを持つ一方、複雑機構を前面に出すブランドとは見られてこなかった。その印象を揺さぶったのが、2017年に登場したプラチナケースのワールドタイマー、Ref. 220.93.43.22.99.001である。87本の限定生産で、金の針とインデックス、手作業のエナメルで描いた世界地図を備えていた。構想は評価されたが、万人が手に取れる時計ではなかった。
220.10.43.22.03.001は、その構想をステンレススチールで通常生産へ移したRefである。限定版の文字盤構成を保ちながら、素材と加工法を量産に適したものへ置き換えた。ここに本機の出発点がある。
2. 受け継いだもの、変えたもの
継承されたのは43mmのケース径と、外周の都市リング、回転する24時間リング、中央の地図という三層構成である。変わったのは地図の表現、外装の素材、装着部の規格だ。地図はエナメルからレーザー加工のチタンプレートへ移り、装着部はアクアテラ共通の3連ブレスレットと一体型ラバーストラップに整理された。
専門誌Monochromeは、限定版の仕立てがやや過剰だったと指摘したうえで、通常版は外観の面で受け入れやすくなったと評している。オメガが限定版への反応を踏まえて調整したと読める変化である。
3. 旅をスポーツウォッチの側に置く
アクアテラは本来、日常と水辺を行き来する3針とGMTの系列である。そこへワールドタイマーを加えたことで、シリーズは「旅」という主題をはっきり持った。ワールドタイマーはドレスウォッチの文法で作られることが多い。本機は150m防水とねじ込み式リューズを備え、この機構をスポーツウォッチの側に置いた点に独自性がある。
同時に、本機はオメガの定番カタログに複雑機構の常設枠を作った。限定版で一度きりに終わらせず、継続生産の品として維持したことが、後の展開の前提となった。
4. 派生の起点として
発表時、本機はラバーストラップ仕様の220.12.43.22.03.001と対をなしていた。その後、セラミックベゼルを持つグリーン仕様、チタンケース仕様、サマーブルー文字盤の仕様が加わる。いずれも43mmケースとCal.8938を共有しており、本機が系列の基準点であることを示す。研磨仕上げのスチールベゼルと、都市名を赤・銀・青の3色で刷り分けたリングは、通常生産化された当初の姿を最もよく伝えている。
意匠分析
ケースは2017年に刷新されたアクアテラの意匠を踏襲し、径43mmで仕立てられた。同時期の3針モデルの主力である41mmより一回り大きい。都市リング、24時間リング、世界地図を一枚の文字盤に収めるための選択と読める。ラグは手首側へ落とし込まれ、ラグ・トゥ・ラグは50.30mmにとどまる。14.12mmの厚みも、ワールドタイマー機構を積む時計としては抑えられた部類である。
文字盤は三層で構成される。外周はサンブラッシュ仕上げの青で、ヨットのチーク材の甲板を思わせる縦縞が入る。その内側に24都市を並べたリングがあり、都市名は3色で刷り分けられている。赤は基準となるGMT、シルバーは夏時間で1時間進む都市、青は夏時間を採らない都市を示す。オメガの本拠地ビエンヌがGMT+1の代表都市に選ばれている点に、ブランドの署名が読み取れる。
その内側では、昼を淡い青、夜を濃い青で塗り分けた24時間リングが1日1回転する。中心の世界地図はグレード5チタンのプレートにレーザーアブレーション(レーザー照射で表層を除去する加工)を施したもので、海の青と大陸の色は照射による化学反応で自然に生じるという。限定版のエナメルが平面の絵であったのに対し、本機の地図は大陸が浮き上がる起伏を持つ。
操作はすべてリューズで行い、ケースサイドにプッシャーはない。時針はホームタイムを保ったまま1時間単位で前後に単独調整でき、渡航先での時差合わせが容易である。
搭載するCal.8938は、オメガ自社製の89xx系に属する自動巻きである。コーアクシャル脱進機(摩擦を減らし注油間隔を延ばすオメガ独自の脱進機)とシリコン製ヒゲゼンマイを備え、毎時25,200振動(3.5Hz)で動く。2つの香箱により60時間のパワーリザーブを確保し、スイス連邦計量・認定局(METAS)の基準によるマスタークロノメーター認定と15,000ガウスの耐磁性を持つ。ゴールド版が金製のローターとテンプ受けを持つCal.8939を積むのに対し、スチールの本機は8938である。
ブレスレットはアクアテラ共通の3連リンクで、バタフライクラスプを組み合わせる。専門誌はケースをポリッシュとブラッシュの併用と記しており、光沢面と艶消し面の対比が、情報量の多い文字盤を外装の側で受け止めている。
系譜と歴史
アクアテラ ワールドタイマーの系譜は、2017年のバーゼルワールドで発表されたプラチナケースの限定版Ref. 220.93.43.22.99.001に始まる。生産数は87本で、中央の地図はエナメルで描かれていた。220.10.43.22.03.001は、この限定版を通常生産へ移すかたちで生まれた。
2019年3月のバーゼルワールド会期中、オメガはステンレススチール版とセドナゴールド版を、報道陣に先立って取引先へ非公開で披露したと伝わる。一般への発表は同年5月中旬で、主要な時計専門メディアが相次いでスチール版を報じた。このとき同じ青文字盤を青のラバーストラップに組み合わせた兄弟Ref. 220.12.43.22.03.001も発表された。ゴールド版はCal.8939を積むセドナゴールドケースで、ブレスレット仕様の220.50.43.22.02.001と、ストラップ仕様の220.53.43.22.02.001が並んだ。
店頭への入荷は2019年秋から冬にかけてとされる。英国では10月発売とする報道があり、別のメディアは12月の入荷見込みを伝えていた。地域によって時期に幅があったとみられる。
2023年5月には、43mmケースとCal.8938を共有する新たな派生が発表された。グリーンのセラミックベゼルと文字盤を持つステンレススチール版(ブレスレット仕様220.30.43.22.10.001、ラバー仕様220.32.43.22.10.001)と、グレード2チタンケースに黒のセラミックベゼルを合わせた220.92.43.22.99.001である。同年はシーマスター誕生75周年にあたり、淡いブルーの文字盤を持つサマーブルー仕様の220.10.43.22.03.002と220.12.43.22.03.002も加わった。裏蓋には1956年のシーホースロゴと現行ロゴを並べた記念刻印が施されている。
こうした派生の追加後も、220.10.43.22.03.001は大きな仕様変更の報告がないまま生産が続いている。2026年9月時点で、オメガ公式サイトに現行モデルとして掲載されていることを確認した。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 シーマスター アクアテラ 150M 220.10.43.22.03.001
- 02 専門メディア Introducing The New Omega Seamaster Aqua Terra Worldtimer 2023 Editions
- 03 専門メディア 2023 Seamaster Aqua Terra GMT Worldtimer
- 04 専門メディア Omega 220.10.43.22.03.001 : Seamaster Aqua Terra 150M Master Chronometer 43 Worldtimer Stainless Steel / Blue / Bracelet