設計思想
2017年の世代刷新が要請した一本
Seamaster Aqua Terraは、2002年に初代が登場した、ダイバーズに振り切ったSeamasterラインのなかで「装飾性と日常性に寄った」位置づけのシリーズである。2010年以降の第二世代(231系列)は、Cal.8500の自社製ムーブメントと縦縞のティーク文字盤、そして38.5mm/41.5mmという独自のサイズ感で支持を得たが、設計言語そのものはすでに7年を経ていた。本Refは、2017年3月のBaselworldで公表された新世代コレクションの3モデルのうち唯一の38mmケース径として、41mm × 2点とともに世代刷新の起点を担った一本である。
旧231系列からの変更点
変わったものは多い。ティーク模様の縞は縦から横へ向きを変え、デイト窓は3時位置から6時位置へ移設された。6時位置デイトについてOmega公式は、1952年Seamaster Automatic Calendarへのオマージュであると説明している。ケースはクラウンガード付きの非対称形状から左右対称の輪郭へ改められ、リューズは新設計の円錐形となった。ムーブメントはCo-Axial Master Chronometer認定のCaliber 8800へ刷新され、METAS基準による15,000ガウスの耐磁性能が付与された。一方で変わらなかったものもある。ティーク模様自体、ヨットのデッキを参照した意匠の方向性、150m防水、サファイアの透明ケースバック、そして「装飾性と日常性のあいだ」というシリーズの基本性格は引き継がれている。
38mmという選択の意味
新世代の38mmは、前世代の38.5mmに代わる「やや小径」枠として設定された。Omega公式は本Refの紹介に際し、ブレスレットを「より細い手首にも合うよう新設計した」と明言している。事実、本Refはケース径の縮小と並行してブレスレットそのものを刷新しており、ケース径だけでなくケース・ブレスレット一体の装着寸法が見直されている。本Refはこの設計思想の体現として、ステンレス × ブルー横ティークというAqua Terraの中核イメージを38mm径で提示する役割を担った。
起点としての位置
発表以降、同じ38mmケースの枠内では、革ストラップ仕様(220.13.38.20.03.001)・ラバーストラップ仕様(220.12.38.20.03.001)が用意され、また色違いとしてブラック(.01)・シルバー(.02)・グリーン(.10)などが順次拡張された。2022年から2023年にかけては、サンブラッシュ単色文字盤を展開するAqua Terra Shadesが38mm/34mmで派生し、シリーズの色彩語彙はさらに広がっている。本Refはその拡張の出発点として、2017年以降カタログに継続する基準のRefとしての位置を保っている。
意匠分析
ケースは38mm径、左右対称の新形状を採る。前世代のクラウンガード付き非対称ケースに対し、6時側と12時側の輪郭が左右で揃う設計に改められた。素材は316Lステンレススチール。ラグ上面と側面はサテン仕上げ、稜線にはポリッシュのベベルが入り、ベゼルは固定式・全面ポリッシュとなる。リューズは新世代を象徴する円錐形デザインで、つまみやすさを優先した形状である。ラグ幅は19mm、ラグ間距離は約45mmと、前世代Skyfall(Ref. 231.10.39.21.03.001、38.5mm径)とほぼ同じ装着寸法を保ちながら、ケース径自体は0.5mm縮小されている。ラグの幾何そのものも、対称化されたケースに合わせて再設計されている。
ダイヤルはサンブラッシュ仕上げのブルー。横方向のティーク模様が刻まれ、線条は前世代の縦縞から90度向きを変えた配置となっている。アプライドインデックスとハンドはロジウム仕上げで、白色Super-LumiNovaが充填される。6時位置にデイト窓を備え、外周にはアラビア数字のミニッツトラックを置く。前世代まで文字盤に刻まれていた「Seamaster 150m / water-resistance」の表記からwater-resistance表記が削除され、その情報はケースバック側へ刻印される構成へと整理された。文字盤上の情報密度は明確に整理され、視覚的なノイズが減らされている。
ブレスレットは外側リンクがブラッシュ、中央リンクがポリッシュという三連リンク構造を採り、Aqua Terraに通底する意匠を継承する。ただし本Refの38mmケース寸法に合わせて、エンドリンクの形状とリンク幅が細身に再設計されている。Omegaが本Refを「より小径の手首向け」と位置づけた根拠の一つは、このブレスレット側にある。バックルはバタフライ式の二重折プッシュボタン展開クラスプ。
ケースバックはサファイアクリスタルの透明バックで、外縁が波形に縁取られる「wave-edge」意匠が新世代の象徴となる。内部のCaliber 8800(コーアクシャル脱進機・シリコン製ヒゲゼンマイ・自由テン輪・両方向自動巻・55時間パワーリザーブ、毎時25,200振動)が観察できる。地板とローターにはアラベスク文様のジュネーブ波が刻まれ、ロジウム仕上げが施される。
系譜と歴史
2017年3月、Baselworldにて新世代Seamaster Aqua Terraコレクションが発表された。発表時に公表された3モデルは、41mmステンレス × 18Kセドナゴールド組み合わせ、41mmステンレス × シルバー文字盤にオレンジを差し色とした構成、そして本Ref(38mmステンレス × ブルー文字盤)である。本Refはこの3点のうち唯一の38mmケース径として導入された。市場投入は同年夏期からとされる。
発表以降、同じ38mmケースの枠内で派生が順次追加された。ストラップ違いとして、革ストラップ版220.13.38.20.03.001、構造化ラバー版220.12.38.20.03.001が設定された。文字盤色違いとしては、ブラックダイヤル220.10.38.20.01.001、シルバーダイヤル220.10.38.20.02.001、グリーンPVDダイヤル220.10.38.20.10.003などが順次追加された。2022年からは、サンブラッシュ単色文字盤を展開する一群がコレクションに加わり、2023年にAqua Terra Shadesとして正式に呼称・整備された(38mm/34mmの2サイズで、Atlantic Blue・Bay Green・Sandstone・Saffron・Terracotta等を含む)。本Refと同番台ではAtlantic Blueに相当する220.10.38.20.03.003がShadesに含まれる。
本Ref自体は機構・意匠の大きな改訂を経ずに、2017年の発表時仕様のまま現行カタログに継続している。