設計思想
1. ハイエンドへの挑戦という文脈
2016年のバーゼルワールドで、セイコーは1本のプラチナ製手巻きスプリングドライブを発表した。Ref.SBGD001、通称「Spring Drive 8 Day Power Reserve」と名付けられた本機は、その時点でグランドセイコーが世界市場に対して打ち出していた、もっとも明確なハイエンドへの宣言であった。当時グランドセイコーは依然としてセイコーの一コレクションとして位置付けられており、海外では2010年の本格的なグローバル展開以後、徐々に認知を広げつつある段階にあった。クレドール・エイチIIや源(みなもと)の伝統で培われた工芸時計の領域に、グランドセイコーの名前を持ち込む試みが、9R01を搭載する1本として結実したのである。
2. SBGD001からSBGD201へ
2017年、グランドセイコーはセイコーから独立した自社ブランドへと再編された。文字盤に記される表記は「Seiko」から「Grand Seiko」へと改められ、それに伴いSBGD001は名称を継承する形で本機SBGD201へと置き換えられた。仕様の本体に変更はなく、両者は事実上、同一の時計の前期型・後期型として区別される。このリブランディングは単なる名称変更ではなかった。マイクロアーティスト工房の手による最高峰群を束ねるマスターピースコレクションという新たな枠組みの起点として、SBGD201は再定義された。同コレクションの中で、本機はもっとも視認しやすい入口に位置する1本である。
3. 派生Refと9R01の系譜
同年6月には兄弟Refとして、18Kローズゴールドケースに黒の「Stardust」ダイヤルを組み合わせたSBGD202が発表された。素材と文字盤のみを違え、ケース寸法とムーブメントを共有する関係にある。その後、9R01を共有する派生として、ダイヤモンドとサファイアを散りばめた宝飾モデルSBGD205(2020年)、緑のマザーオブパールで御射鹿池を表現したSBGD207(2021年)が加わった。いずれも生産数は極めて限定的であり、SBGD201は派生群の中で最も基本的な、それでいて最も入手機会の多い1本という位置付けで継続している。
意匠分析
ケースはプラチナ950を採用し、径43mm、厚13.2mm、ラグからラグまで51.8mmという堂々たる体躯を持つ。プラチナは本来軟らかく、シャープなエッジを残した研磨が難しい金属とされる。SBGD201ではマイクロアーティスト工房が新たに開発したザラツ研磨法と、素材を高密度化する冷間鍛造を併用することで、これまでのプラチナケースでは実現が困難であった鏡面と稜線の鋭さを得ている。
ダイヤルは「ダイヤモンドダスト」と呼ばれる複合仕上げの白文字盤である。塩尻に近い諏訪地方の冬の朝、気温と湿度の条件が揃ったときにのみ空中で氷晶がきらめく現象を意匠として翻案したものとされる。視認性を確保する平面性と、光に応じて煌めく粒状感を両立させるため、複数層の処理を重ねて作られる。針とインデックスはダイヤモンドカットによる多面構造で、文字盤の輝きと呼応する鋭い反射を持つ。
風防は両面に無反射コーティングを施した二重曲面のボックス型サファイアクリスタルである。ストラップはクロコダイル革で、プラチナ製の三つ折れプッシュ式クラスプが組み合わされる。
裏蓋はネジ込み式のシースルー仕様で、キャリバー9R01の意匠を視認できる。56石・307部品で構成されるこの手巻きムーブメントは、通常1つしか持たない香箱を3つ直列に連結することで192時間のパワーリザーブを確保する。ムーブメント側に配されたパワーリザーブインジケーターは1から8の目盛りで残量を示し、機構の全面を覆う一枚橋の意匠とともに、裏面から見ることを前提に設計されている。一枚橋の輪郭は、塩尻市の高ボッチ高原から望む富士山の稜線をかたどったものと公式に説明されており、ルビーは諏訪市の灯り、グライドホイールは太陽、パワーリザーブインジケーターは諏訪湖の形を象るとされる。
防水は10気圧、耐磁性能は4,800 A/mを備える。
系譜と歴史
マイクロアーティスト工房は、2000年にセイコーエプソン塩尻工場の信州時計工房内に設立された専門工房である。クレドールの最高峰モデルを手掛けてきた同工房が、グランドセイコー向けに開発した最初のキャリバーが9R01であった。
2016年3月、バーゼルワールドで前身となる Ref.SBGD001 が発表された。プラチナ950ケースに「Seiko」表記のダイヤルを備え、欧州希望小売価格は60,000ユーロとされた。当初は一部市場のみへの限定供給であったと伝わる。
2017年、グランドセイコーがセイコーの傘下コレクションから独立した自社ブランドへと再編されたことを受け、SBGD001は文字盤の表記を「Grand Seiko」へ改めた本機SBGD201として継承された。仕様の本体に変更はない。
同年6月には兄弟Refとして、18Kローズゴールドケースに黒の「Stardust」ダイヤルを組み合わせたSBGD202が発表された。日本国内価格は税込4,752,000円、欧州価格は52,800ユーロであった。
その後、9R01を共有するマスターピースコレクションの派生として、2020年にダイヤモンドとサファイアを散りばめた宝飾モデルSBGD205、2021年には緑のマザーオブパールで御射鹿池を表現したSBGD207が登場した。
SBGD201は2026年時点でも継続生産されており、グランドセイコー公式の日本国内希望小売価格は8,305,000円(税込)である。