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CALIBER · GRAND SEIKO

9R01

スプリングドライブ Spring Drive Analog

2016年、マイクロアーティスト工房から生まれた、3連香箱で8日を駆動する手巻きスプリングドライブ

9R01
movement · 9R01
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

キャリバー9R01は、2016年にグランドセイコーが発表した手巻きスプリングドライブである。長野県塩尻のマイクロアーティスト工房が初めて手掛けたグランドセイコー専用ムーブメントとして知られ、3つの香箱を直列に連結することで約192時間(8日間)のパワーリザーブと、平均月差±10秒(日差±0.5秒相当)の精度を併せ持つ。56石、307パーツから構成され、諏訪湖の風景を意匠化した一体型ブリッジが視覚的特徴となる。マスターピースコレクションのSBGD001、SBGD201、SBGD202などに搭載され、現行ラインアップでも特別な位置を占める。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerGrand Seiko
Reference9R01
TypeSpring Drive
DisplayAnalog
Jewels56 石
Power reserve192 h
HandsHours, Minutes
AdditionalPower Reserve Indicator
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. スプリングドライブという系譜

スプリングドライブの構想は、1977年に諏訪精工舎(現セイコーエプソン)の技術者・赤羽好和によって生まれた。機械式の主ゼンマイから駆動エネルギーを得ながら、クォーツの精度で時を刻むという複合機構の発想である。1978年に基本特許が出願され、1982年に最初の試作が完成するが、エネルギー効率の壁を越えるのは容易でなかった。試作は600個を超えたと伝わり、商品化までに約20年を要した。1999年、初代スプリングドライブとしてCal. 7R68搭載モデルが発売される。赤羽は同年、発表を見届ける前に世を去ったという。

グランドセイコーがスプリングドライブを採用したのは、構想開始から27年後の2004年である。自動巻きのCal. 9R65が、同ブランド初のスプリングドライブとして登場した。以後、GMT機能を備えたCal. 9R66、クロノグラフを内蔵するCal. 9R86など、9R系として展開されていく。

2. マイクロアーティスト工房と8日駆動への挑戦

Cal. 9R01は、2016年のバーゼルワールドで発表された。手巻きスプリングドライブで、約8日間(192時間)のパワーリザーブと、平均月差±10秒の精度を併せ持つ。重要なのは、これがマイクロアーティスト工房から世に送り出された、グランドセイコー専用の最初のムーブメントだったことである。

マイクロアーティスト工房は2000年、長野県塩尻のセイコーエプソン事業所内に設立された少数精鋭の組織である。技能五輪国際大会の優勝者を中心に、機械式高級時計の技能継承を目的として組織された。それまで同工房はクレドール「叡智」やソヌリ、ミニッツリピーターといった超高級モデルを担ってきたが、グランドセイコー名義での専用ムーブメント開発はCal. 9R01が嚆矢となる。

8日駆動の実現にあたり、開発チームが採った解は香箱を3つ直列に連結する方式であった。香箱の容量を拡張するとともに、香箱間に置かれる中間車を省略することで、エネルギー伝達効率を約10%高めたとされる。輪列の各部品は精密加工と研磨が徹底され、摩擦による損失を抑え込む設計が貫かれた。

3. 後続の系譜

Cal. 9R01の発表から3年後の2019年、マイクロアーティスト工房は二作目となる手巻きスプリングドライブCal. 9R02を発表する。こちらは香箱を1個に絞り、デュアルスプリング・バレルとトルクリターン・システム(TRS)で約84時間のパワーリザーブを得る薄型設計で、ドレスウォッチへの搭載を念頭に置いたものである。Cal. 9R01とCal. 9R02は、同工房が手掛ける双璧として位置づけられる。

2020年には自動巻きの次世代旗艦Cal. 9RA5が登場し、量産レンジでも月差±10秒水準の精度が達成されるようになった。それでもなお、3つの香箱を備え、塩尻の自然を装飾意匠に織り込むCal. 9R01は、マスターピースコレクションの中核として独自の存在感を保ち続けている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

スプリングドライブの動作原理

スプリングドライブは、機械式ムーブメントの主ゼンマイ動力と、水晶振動子による電子調速を融合させた独自の駆動方式である。主ゼンマイの動力は通常の機械式と同じく輪列を経由するが、最終段で脱進機の代わりとなるのが「グライドホイール」と呼ばれる回転体である。グライドホイールには磁石が埋め込まれ、コイル内を毎秒8回転で回る。発生する誘導電流が水晶振動子と集積回路を駆動し、回路が出した制御信号を電磁ブレーキとしてグライドホイール自身に作用させることで、回転速度が一定に保たれる。

この機械的駆動・電気的発電・電子的制御の三者が連動する仕組みを、グランドセイコーは「トライ・シンクロ・レギュレーター」と呼ぶ。テンプと脱進機を持たないため、機械式に特有の刻み運針はなく、秒針が無音のまま滑らかに動き続けることが視覚的な特徴となる。

3つの香箱と一体型ブリッジ

Cal. 9R01の最大の構造的特徴は、3つの香箱を直列に連結した動力部にある。一般的な機械式ムーブメントが1〜2個の香箱を持つのに対し、9R01は3個の香箱を直結することで、合計約192時間のパワーリザーブを実現している。香箱と香箱の間に置かれることが多い中間車を省略し、エネルギー伝達効率を約10%向上させた点も特筆される。

地板上に複数の小ブリッジを配する通常の構造に代えて、9R01は一体型の大型ブリッジを採用した。厚さは他のスプリングドライブのおよそ3倍に達するという。この単体ブリッジは耐衝撃性を高めると同時に、複数の歯車軸を高い精度で一体的に支持する。一体型である分、加工精度の要求は厳しく、マイクロアーティスト工房の精緻な手仕事が不可欠となる。

仕様と仕上げ

主要諸元は、手巻きスプリングドライブ、56石、約192時間パワーリザーブ、平均月差±10秒(日差±0.5秒相当)、独立時針調整機能付き。構成部品は307点に及ぶ。

仕上げに関しては、ブリッジ表面に直線的なヘアライン仕上げが施され、その縁には凸面状の面取り(コンベックスベベリング)が手作業で適用される。装飾意匠は塩尻の風土と諏訪湖周辺の景観に題を取ったもので、大型ブリッジの稜線は富士山の輪郭を、グライドホイールは富士の背後に昇る太陽を、ルビー受石は諏訪市街の灯りを、パワーリザーブインジケーターの形状は諏訪湖そのものをかたどっている。焼き入れによるブルースクリュー、磨き上げられた角部などが組み合わさり、機構と装飾が分かちがたく一体化した一個の工芸品を成す。

精度とその位置

スプリングドライブは機械式クロノメーター規格の対象外であるため、Cal. 9R01もCOSC等の外部認定は受けていない。一方でグランドセイコーは自社規格として平均月差±10秒(日差±0.5秒相当)を保証しており、これは標準のスプリングドライブ(平均月差±15秒)からおよそ50%向上した値となる。機械式と石英式の中間というより、機械式の精度水準を独自の方式で大きく上回るカテゴリーに位置づけられるムーブメントである。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 2 本のリファレンス

This caliber appears in 2 references