3235
2015年登場、クロナジー脱進機と70時間PRを得たCal.3135後継、ロレックスの新世代基幹自動巻
ロレックスが2015年に発表した第三世代の自動巻自社製キャリバーで、約30年にわたり基幹を担ったCal.3135の後継機となる。直径28.5mm、31石、毎時28,800振動(4Hz)、約70時間のパワーリザーブを備え、独自のクロナジー脱進機、パラクロム・ヒゲゼンマイ、パラフレックス耐衝撃機構を搭載する。COSC認定に加え、ロレックス独自の「スーペラティブ・クロノメーター」基準により日差-2/+2秒を保証。Pearlmaster 39を皮切りに、Datejust、Sea-Dweller、Submariner Date(Ref.126610LN)など現行デイト・モデルの基幹を成す。
| Maker | Rolex |
|---|---|
| Reference | 3235 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 31 石 |
| Power reserve | 70 h |
| Movement ⌀ | 28.5 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date |
| Additional | Chronometer |
系譜と歴史
1. Cal.3135の後継として
1988年に登場したCal.3135は、サブマリーナー・デイトやデイトジャストをはじめロレックスの大半のデイト・モデルを駆動し、約30年にわたりブランドの基幹を担ってきた。28.5mmという径、毎時28,800振動(4Hz)、約48時間のパワーリザーブといった基本仕様は20世紀末の標準を体現するもので、その安定性と修理性の高さは評価が定着している。一方で2010年代に入ると、業界全体でパワーリザーブの長時間化と耐磁性能の強化が共通課題となり、ロレックスもまた次世代の基幹ムーブメントの開発に向かう。
2. 32xxファミリーの誕生
新世代キャリバーの最初のお披露目は、2015年バーゼルワールドにおけるDay-Date 40(Cal.3255搭載)であった。Cal.3255はクロナジー脱進機、約70時間のパワーリザーブ、14件の特許といった新要素を体現し、これを基本設計とする派生の最初の一機が、同年に発表されたPearlmaster 39用のCal.3235である。日付機能のみを残し、構造の約9割を3135から刷新した本機は、その後Datejust 41(2016年、Ref.126333系)、Sea-Dweller 43(2017年、Ref.126600)、Datejust 36(2018年、Ref.126200系)、Yacht-Master 40/42(2019年)へと順次採用範囲を広げ、2020年には現行サブマリーナー・デイト(Ref.126610LN-0002)にも搭載された。Cal.3135からの世代交代は、約5年をかけて段階的に進行したのである。
3. 32xxファミリーの体系
Cal.3235は、ロレックスの基幹ムーブメント体系の一部として位置づけられる。同じ基本設計の上で、曜日機能を加えたCal.3255(Day-Date 40)、第二時間帯を加えたCal.3285(2018年登場、GMT-Master II搭載)、日付機能を省いたCal.3230(2020年登場、Submariner No-Date Ref.124060ほか)が派生し、4桁の末尾「30/35/55/85」がコンプリケーション構成を示す体系である。各派生は脱進機・ヒゲゼンマイ・テンプ・自動巻機構といった調速および動力系を共通化する一方、必要な表示機構を加減することで、ライン全体の整合性と部品標準化を両立させている。
4. 業界文脈での位置
2010年代半ばは、複数のスイス・日本のメーカーが「効率・長時間パワーリザーブ・耐磁性」を機軸として基幹キャリバーを刷新した時期にあたる。オメガはコーアクシャル脱進機を核に耐15,000ガウス対応のMaster Chronometer規格を整備し、ETAはPowermatic 80で80時間PRを商品化、グランドセイコーは2020年にCal.9SA5(80時間PR、デュアル・インパルス脱進機)を発表した。クロナジー脱進機を核とするロレックスのアプローチは、伝統的スイス・レバー脱進機の幾何形状を最適化するという、保守的かつ精緻な道を選んだ点に特徴があり、各社の設計思想の差異を映し出している。
技術解説
Cal.3235は、直径28.5mm、31石、毎時28,800振動(4Hz)、パワーリザーブ約70時間の自動巻機械式ムーブメントである。中央指針による時・分・秒と、3時位置の瞬間日送り(インスタント・デイト)を備え、ストップセコンド(秒針停止)機構を搭載する。クロノメーター精度はCOSC(スイス公式クロノメーター検定協会)による認定に加え、ケーシング後にロレックス自身が再検査する「スーペラティブ・クロノメーター」基準で日差-2/+2秒を保証する。これはCOSC規格(日差-4/+6秒)の約2倍に相当する厳格な基準である。
クロナジー脱進機
Cal.3235の最大の刷新は、ロレックスが開発した「クロナジー(Chronergy)・エスケープメント」の搭載にある。脱進機(エスケープメント)は、香箱からの駆動力をテンプ(振動体)へ間欠的に伝える機構で、伝統的なスイス・レバー式は構造の単純さと信頼性で業界標準となってきた。一方、ガンギ車からテンプへ伝わるエネルギー効率は約3割強に留まるとされる。クロナジーは、レバー(アンクル)とガンギ車の幾何形状を非対称に再設計することで、エネルギー効率を約15%改善した。素材にはニッケル燐合金が採用され、磁気の影響を受けにくい。さらにガンギ車は肉抜きの透かし構造とされ、レバー爪の厚みは半減し、その分接触面は倍化することで、慣性低減と摩擦特性の最適化が図られている。微細部品の製造には、半導体製造から派生した電鋳プロセスであるLIGA(リガ)が用いられる。
パラクロム・ヒゲゼンマイとテンプ機構
調速機側には、ロレックスが2000年代初頭から自社製造を開始した「ブルー・パラクロム・ヒゲゼンマイ」が組み込まれる。ニオブ、ジルコニウム、酸素を主成分とする常磁性合金で、磁気・温度変化・衝撃に対する安定性が高い。終端には端末曲線(ロレックス・オーバーコイル)が施され、姿勢差による誤差が抑制される。テンプは慣性可変式で、テンプ輪の縁に配された4本の金製マイクロステラ・ナットによって調整される仕組みである。緩急針を持たないフリースプラング構造とすることで、衝撃や経年による調速ずれを最小化している。テンプ受けはトラバース・ブリッジ(2点支持の橋構造)を採り、片持ち式に比べ衝撃に対する位置安定性を高めている。
香箱・自動巻機構・仕上げ
約70時間というパワーリザーブは、香箱(主ゼンマイを収納する円筒部品)の外径を従来と同寸に保ったまま、内壁の肉厚を約半分に減じることで実現された。これにより、より長く強い主ゼンマイを収容できる構造としている。自動巻機構は両方向巻上げのモノブロック・ローターを採用し、ボールベアリングを介して回転することで、巻上げ効率と長期耐久性を両立する。耐衝撃機構にはロレックス自社開発の「パラフレックス」が用いられ、テンプ軸を緩衝する。本機は計14件の特許を含むとロレックスは公表しており、その基本設計はCal.3255(Day-Date搭載)、Cal.3285(GMT-Master II搭載)、Cal.3230(無日付仕様)へと展開する32xxファミリー全体の基礎を成している。