1904-PS MC
2010年登場、ツインバレルと双方向爪巻き上げを備えた、カルティエ初の量産自社製自動巻キャリバー
1904-PS MC は、カルティエが2010年に発表した自社製の自動巻きキャリバーである。型番の「1904」はルイ・カルティエが飛行家サントス・デュモンへ腕時計を仕立てた年に由来し、「PS」はスモールセコンド、「MC」はマニュファクチュール・カルティエを指す。振動数28,800vph (4Hz)、27石、パワーリザーブ約48時間。2つの香箱を直列に配したツインバレルと、双方向に巻き上げる爪式自動巻機構を備える。カリブル・ドゥ・カルティエで初搭載され、タンク MC やドライブ ドゥ カルティエにも展開した。
| Maker | Cartier |
|---|---|
| Reference | 1904-PS MC |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 27 石 |
| Power reserve | 48 h |
| Movement ⌀ | 25.6 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. ETA依存からの脱却
1904-PS MC は、カルティエが量産を前提に自社開発した最初の自動巻きキャリバーである。2008年にジュネーブシール認定のフライング・トゥールビヨン Cal. 9452 MC を発表していたが、これは少数生産の高級複雑機構であった。日常使用を担う基幹ムーブメントの内製は、2010年のジュネーブ・サロン (SIHH) を待つことになる。
背景には、業界全体の構造変化がある。汎用ムーブメントの最大供給元であった ETA が、グループ外ブランドへの供給を段階的に絞る方針を示していた。リシュモン傘下のカルティエにとって、ムーブメントの内製化は経営上の要請でもあった。1904-PS MC の外径が ETA 2892 とほぼ同一に設計された点は、この文脈を端的に示す。既存の設計を置き換えやすい寸法が、移行を現実的にした。
2. ツインバレルと爪式巻き上げ
技術的な核は、2つの香箱を直列につないだツインバレルにある。主ゼンマイの放出を平準化し、約48時間にわたってトルクの変動を抑える狙いである。巻き上げ側では、従来のリバーサー (切替車) を廃し、V字形の爪による双方向巻き上げを採用した。ローターの回転を効率よく主ゼンマイへ伝える構造で、その原理はセイコーのマジックレバーに近いと評される。ローターはセラミック製ボールベアリングで支持され、耐衝撃性と耐久性を高めている。
3. 拡張するベースムーブメント
1904-PS MC は、当初から派生を見込んで設計された汎用基盤である。2012年にはコラムホイール式クロノグラフの Cal. 1904-CH MC が加わった。2014年の Cal. 1904-FU MC はレトログラード式セカンドタイムゾーンと昼夜表示を、2017年の Cal. 1904-LU MC はムーンフェイズを備える。スケルトン化された Cal. 9616 MC や、クラッシュ用に変形した Cal. 9618 MC も同じ系譜に連なる。複雑機構モジュールを背負わせれば永久カレンダーにも展開でき、応用範囲は広い。
4. 内製基盤としての位置
カルティエのムーブメント開発は、2005年から2020年までキャロル・フォレスティエ=カサピが統括した。1904-PS MC は、その時期に築かれた自社製基盤の出発点といえる。2015年には創業年に由来する Cal. 1847 MC が登場し、より薄型で日常向けの入門基幹を担った。スモールセコンドや複雑機構の土台としては 1904 系が引き続き用いられ、両者は役割を分けて併存した。
技術解説
基本構成
1904-PS MC は外径25.6mm (11½リーニュ)、厚さ4mmの自動巻きキャリバーである。構成部品は186点、石数は27石。振動数は28,800vph (4Hz) で、1秒間に8回テンプが振れる現代的な高振動設計をとる。表示機能は時・分・スモールセコンドと日付に絞られ、汎用基盤として簡潔にまとめられている。
ツインバレル
動力源は2つの香箱を直列に配したツインバレルである。香箱とは主ゼンマイを収める部品で、ここから歯車列を経て脱進機へ動力が送られる。単一の香箱では巻き上げ直後と終盤でトルク差が生じやすいが、2個を直列に連ねることで放出特性を平準化する。結果として約48時間のパワーリザーブ全域で、テンプへ供給するエネルギーの安定を図っている。
双方向爪式自動巻
自動巻機構では、ローターの両回転を巻き上げに変換する双方向方式を採る。ETA系に多いリバーサー (切替車) ではなく、V字形の爪 (クリック) で動力を一方向に整流する点が特徴である。部品点数を抑えつつ巻き上げ効率を確保する設計で、その作動原理はセイコーのマジックレバーと類似する。ローターの軸はセラミック製ボールベアリングで支持され、注油への依存を減らし耐衝撃性を高めている。
脱進機と調速
脱進機はスイスレバー式で、ガンギ車とアンクルを介してテンプの等時運動を維持する。テンプは振動体であり、その振れの周期が時間の基準となる。高振動の採用は姿勢差を抑える方向に働き、日常使用での精度安定に寄与するとされる。竜頭を引くと秒針が止まるストップセコンド (ハッキング) 機構を備え、秒単位の時刻合わせを可能にする。緩急の微調整は、第2世代でカルティエ独自のC字形レギュレーターによって行われる。
仕上げと世代差
仕上げは、ブリッジとローターにコートドジュネーブ、地板にサーキュラーグレイン (ペルラージュ) を施す。ビスの頭は研磨され、シースルーバックから一定の装飾性が確認できる。地板のサーキュラーグレインはブリッジに隠れて視認できないが、量産基盤としての堅実な作り込みを示す。なお初期型 (v.1) と改良型 (v.2) には差異があり、v.1 は ETAChron 系のレギュレーターと厚さ3.86mmを、v.2 はC字レギュレーターと厚さ4mm、整備性を高めるため分割したブリッジ構成を持つとされる。鋼およびSS×金の初期個体に v.1 が、金無垢には当初から v.2 が搭載され、後に v.2 へ統一されたと伝わる。