設計思想
1. 2016年、ダイバーに差した「青」
カリブル ドゥ カルティエ ダイバーは、2014年のSIHHでドレスウォッチの家が放った本格潜水時計として登場した。当初の文字盤は黒、ベゼルはADLCを施したスティールで、全体に禁欲的な配色でまとめられていた。
その色調が一変したのが、2016年のSIHHである。カルティエはダイバーに「ブルー」の装いを与え、文字盤とベゼルをそろえて青に染め直した。WGCA0009は、この一群のうち18Kピンクゴールドのケースをまとう最上位の仕様にあたる。鋼のWSCA0010・WSCA0011、鋼とピンクゴールドを組み合わせたW2CA0008・W2CA0009と並び、貴金属で全身を構成する一本として位置づけられた。
2. 前任ピンクゴールド仕様からの差分
WGCA0009の直接の前任は、2014年に登場した黒文字盤のピンクゴールド仕様W7100052である。ケース径42mm、厚さ11mm、300m防水という骨格、そして自社製キャリバー1904-PS MCという心臓部は、そのまま受け継がれた。
変わったのは色と素材である。黒の文字盤は深いブルーへ、ADLCを施したスティール製ベゼルはブルーのセラミック製ベゼルへと置き換えられた。セラミックは退色や傷に強く、ADLCとは異なる均質な発色を生む。針もまた、鋼仕様のロジウム調に対し、ケースと同じピンクゴールド調で統一された。道具としての仕様はそのままに、表情だけを大きく入れ替えた更新である。
3. シリーズ終盤に置かれた一本
WGCA0009は、カリブル ドゥ カルティエというシリーズの晩年に属する。同じピンクゴールドでも、ストラップや仕上げの異なるWGCA0010が併存し、ブルー系全体では鋼から貴金属までひと通りの選択肢が用意された。
ただしシリーズ自体は、需要の鈍化を背景に2018年ごろから整理が進み、2020年を待たずにカタログから姿を消した。直接の後継機は用意されていない。本機は、丸型スポーツという実験に貴金属とセラミックで彩りを添えた、終盤ならではの一本として残った。
意匠分析
WGCA0009の設計を特徴づけるのは、貴金属とセラミック、そしてブルーという三つの選択である。
ケースは18Kピンクゴールドの無垢。径42mm、厚さ11mmという寸法は、300m防水の潜水時計としては薄手で、潜水器具よりも腕元の塊として振る舞う。逆回転防止の回転ベゼルには、コインエッジ状の刻みを施したピンクゴールドのリングに、ブルーのセラミック製インレイをはめ込む。前任のADLCスティール製ベゼルと比べ、セラミックは色の深さと均質さで勝り、退色にも強い。インレイの指標にはスーパールミノバが充填され、暗所での視認を確保する。
文字盤は深いブルー。白いローマ数字とバーインデックスを混在させ、6時位置にスモールセコンド、3時位置に弧を描く日付窓を配する。針はケースと色を合わせたピンクゴールド調の剣型で、鋼仕様のロジウム調とは異なる、暖色でまとめた統一感を生む。竜頭はねじ込み式で、頂部にはファセットを施したカボションを戴く。
仕上げは、ラグやケースサイドのサテン(梨地)と、面取り部のポリッシュ(鏡面)を切り分け、貴金属の質感を陰影で立ち上げる。張り出した竜頭ガードと幅広のラグは、42mmという実寸以上の存在感を腕に残す。ストラップはラバーで、貴金属ケースに対してあえて軽快な素材を合わせた。ピンクゴールド・ブルー・黒系という配色は、ドレスとスポーツのあいだに居場所を求めたこのRef固有の輪郭を、色そのもので描き出している。心臓部の1904-PS MCは、シリーズを通じて変わらぬ自社製自動巻きである。
系譜と歴史
カリブル ドゥ カルティエ ダイバーは、2014年のSIHHで初めて公開された。黒文字盤とADLCベゼルを基調とする初期の構成には、鋼、鋼とピンクゴールドの二素材、そしてピンクゴールド無垢(W7100052)が用意された。
WGCA0009が属する「ブルー」系は、2016年のSIHHで発表された。文字盤とベゼルをそろえて青に染めたこの一群には、鋼のWSCA0010・WSCA0011、二素材のW2CA0008・W2CA0009、そしてピンクゴールドのWGCA0009・WGCA0010が含まれる。WGCA0009は、このうちラバーストラップを組み合わせるピンクゴールド仕様にあたり、W7100052の系譜を色だけ入れ替えて引き継ぐ位置にある。
なおWatchBaseは本Refの製造年を2013年と記すが、これはダイバー系全体の起点を指す表記とみられ、ブルー文字盤・ピンクゴールドというこの個体の登場は2016年と考えられる。
その後、カリブル ドゥ カルティエのコレクションは需要の鈍化を背景に整理が進み、2018年ごろから縮小、2020年を待たずにカルティエの公式カタログから姿を消した。本Refにも直接の後継機は設定されていない。