設計思想
1. 貴金属だけの42mm
ヨットマスター 42は、2019年にホワイトゴールドの226659として生まれた。黒のセラクロムベゼルとオイスターフレックスを合わせる構成は、2022年のイエローゴールド226658にも引き継がれる。42mmはこの時点まで、シリーズの中で貴金属に限られたサイズであった。
その陰で、ロレックスは別の方向を試していた。オリンピックのセーリング競技で4大会連続の金メダルを得たサー・ベン・エインズリーに、チタン製の42mmを託したのである。エインズリーは、わずかな軽量化の積み重ねが艇の速さにつながると語り、この時計を歓迎したと伝わる。ロレックスは後に市販版を、競技セーリングの要求に特に適した時計と位置づけている。
2. 226659から受け継いだもの、改めたもの
226627が226659から受け継いだのは、時計としての骨格である。42mmのオイスターケース、マットブラックのセラクロムを嵌めた両方向回転ベゼル、Cal.3235、100m防水。いずれも2019年の仕様から動いていない。公式発表も、本機が2019年のオリジナルの美学に忠実であることを強調している。
改められたのは、素材とそれに連なる要素である。ケースは鏡面の貴金属から艶を抑えたチタンへ、ストラップはエラストマーから3連の金属ブレスレットへ置き換わった。一方でエインズリーの試作機と比べると、市販版には日付表示と同素材のブレスレットが加わっている。競技の現場で試された道具を、カタログの基準に沿って整え直したRefと言える。
3. 日常の寸法で作られたチタン
ロレックス初のチタン製量産モデルは、本機の半年足らず前に登場したディープシー チャレンジ(126067)である。ただし径50mmの超深海ダイバーズは、日常の腕に載せる時計とは言いがたい。226627は同じRLXチタンを、手首に収まる42mmで初めて量産に移した。複数の専門誌が本機を、実質的に最初の着用しやすいチタン製ロレックスとして受け止めたのはそのためである。
姉妹ブランドのチューダーは、2012年からチタン製のペラゴスを展開してきた。試作と超深海モデルという段階を踏み、ロレックスはこの素材を主力の寸法に持ち込んだことになる。シリーズ史の中でも、この選択には連続性がある。1999年のロレジウム、2015年のエバーローズゴールドとオイスターフレックスと、ヨットマスターは素材で節目を刻んできた。本機はその流れを、貴金属の華やかさとは逆の軽さと実用性へ振った最初の例である。
4. 兄弟Refを持たない一本
226627には、2026年9月時点で色違いも素材違いもない。インテンスブラック文字盤の-0001が唯一の仕様である。42mmの系列では226659にファルコンズアイ文字盤の仕様が加わったとされるが、チタンの系譜は本機一本にとどまる。
本機の登場後、他のサイズや他のシリーズへのチタン展開を予想する声は根強かった。しかし2026年のWatches and Wondersでも、RLXチタンの新作は現れていない。同年のロレックスは新世代のヨットマスター II(126680、126688)を投入し、洋上計時への関心を改めて示した。RLXチタンの軽さを日常の寸法で示す役割は、いまも本機が単独で担っている。
意匠分析
226627を他のヨットマスター 42から分ける第一の要素は、仕上げの配分である。ホワイトゴールドの226659は、ケース側面とラグに光を集める鏡面主体の造形だった。本機はケース側面、ブレスレットのリンク側面、クラスプカバーの側面を、粒子の目が見えるサテンで覆う。RLXチタン製のロレックスに固有の、テクニカルサテンと呼ばれる仕上げである。
ケースで鏡面仕上げが施されるのは、ラグ上縁の面取りと一体型のリューズガードである。チタンはオイスタースチールより色味が暗く、面取りに走る細い光が輪郭を描く役を担う。ラグ上縁を磨く手法はディープシー チャレンジにも見られ、チタン製ロレックスに共通する語法と読める。ミドルケースはRLXチタンの塊から削り出される。ロレックスによれば、この合金は強度が高いぶん加工が難しく、採用には専用の製造工程を要した。
ベゼルは2019年の意匠を受け継ぐ。マットブラックのセラクロムに数字と目盛りを成形してから研磨し、最初の15分だけを1分刻みとする。サテンのチタンと艶消しのセラミックの中で、磨かれた浮き彫りの数字が数少ない光の点となる。
文字盤はインテンスブラックと名付けられる。その質感は光沢を抑えたものと紹介される一方、光沢のある黒と記す専門誌もある。少なくともケースとベゼルは、そろって反射を抑える方向にある。アワーマーカーは三角・丸・長方形の単純な形で、幅広の針とともにクロマライト夜光を充填し、暗所では青く光る。
ブレスレットは、ヨットマスター 42として初の金属製である。先行する金無垢の2本はオイスターフレックスを採り、長さ調整にグライドロックを備えていた。本機はRLXチタン製の3連オイスターブレスレットを備え、オイスターロック・クラスプと約5mmのイージーリンクを持つ。目を引くのはリンク内部で、ピンの周囲にロレックスが設計し特許を得たセラミック製インサートが組み込まれる。早期の摩耗を防ぎ、手首でのしなやかさを高めるためと、ブランドは説明する。ピン周りでチタン同士が直接擦れ合わない構造と読める。
ムーブメントは226659と同じ自社製Cal.3235である。ニッケル・リン合金製のクロナジー・エスケープメント(効率が高く磁気に強い脱進機)を備える。Ref番号末尾の「7」は、ディープシー チャレンジで初めて使われたチタンの符号である。
系譜と歴史
226627の前史は、市販に先立つ一本の試作機にある。2020年10月、サー・ベン・エインズリーは雑誌の取材で、ロレックスからチタン製のヨットマスター 42を贈られたと語ったと伝わる。その個体は日付表示を持たず、布製のNATOストラップを合わせていた。2021年1月のプラダカップや同年4月のSailGPで着用が確認され、同年9月に複数の専門誌が報じている。素材はRLXチタンであったとされる。
2022年11月、ロレックスはRLXチタン製の50mmダイバーズ、ディープシー チャレンジ(126067)を発表した。同社初のチタン製量産モデルであり、ケースとブレスレットの双方をRLXチタンで仕立てていた。
226627は、その約5か月後の2023年3月、ジュネーブのWatches and Wondersで発表された。発表時、ロレックスは当面の生産量を限定的なものにするとの意向を示したと報じられた。チタンの部品を多数、精密に仕上げる必要があることが理由とされる。
発売以降、外装や文字盤の仕様変更を告げる公式発表は確認できない。2026年、ロレックスはスーパーラティブ・クロノメーター認定に、耐磁性、信頼性、耐久性の3基準を加えた。同社は強化後の認定も全ウォッチに共通するものと説明しており、本機もその枠組みに入る。226627-0001は同年の公式カタログにも掲載が続いており、2026年9月時点で現行モデルである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 New Perpetual Padellone: When times align
- 02 専門メディア Rolex Yacht-Master 42 in RLX Titanium
- 03 専門メディア Rolex Reintroduces Yacht-Master II with New Movement and Simplified Regatta Function
- 04 専門メディア Rolex Yacht-Master 42 Gets Full RLX Titanium Treatment
- 05 専門メディア First Look: Rolex Yacht-Master 42 Watch In RLX Titanium, Reference 226627