設計思想
1. 完成した構成を、次の機械へ
126655が発表されたのは2019年、前任116655の登場から4年後のことである。116655は、エバーローズゴールドのケースに黒のセラクロムベゼルを合わせたRefだった。オイスターフレックスを初めて採用したモデルの一つでもある。金を黒で引き締めるその構成は、短い期間でヨットマスターの新しい顔として定着していた。
126655の役目は、その構成を改めることではなかった。2010年代後半、ロレックスは日付表示付きの3針機をCal.3135から新世代のCal.3235へ切り替えつつあった。2019年はヨットマスター 40がその対象となり、40mmの各Refは揃って「126」で始まる番号へ切り替わる。本機もその一つとして、完成した意匠を次の機械へ受け渡した。
同じエバーローズゴールドとオイスターフレックスの37mm、268655は、このとき番号を変えていない。2015年の登場時から新世代のCal.2236を積んでいたとされる。2019年の世代交代が機械のためのものだったことを、裏側から示唆する事実である。
2. 変わらなかった外観、変わった中身
外から116655と126655を見分けるのは容易ではない。40mmのケース、ベゼル、文字盤、ブレスレットの意匠はそのまま連続している。発表から4年の意匠に手を入れる必要は薄かったと読める。
断絶は内側と手元にある。パワーリザーブは約48時間から約70時間へ延び、金曜の夜に外しても月曜の朝まで動き続ける計算になった。複数の時計を使い分ける持ち主にとって、この差は小さくない。もう一つの変化はクラスプの延長機構で、コマで長さを調整できないオイスターフレックスの制約に手当てが施された。どちらも写真では伝わりにくいが、日々の使い勝手を確実に変える改良である。
3. 42mmの陰で、基準点として
2019年のバーゼルワールドで主役を務めたのは、ホワイトゴールドの42mmケースを持つ新作226659であった。黒のセラクロムベゼルとオイスターフレックスの組み合わせは、116655が切り開いたものである。本機は、自らの構成が上位の新作へ展開される年に、その陰で静かに世代を改めたことになる。
この構成は、のちにイエローゴールドの226658にも受け継がれた。貴金属のケースをオイスターフレックスで締める系統は、いまやヨットマスターの柱の一つとなっている。そのうち40mmを担うのは本機だけである。ロレゾールとロレジウムの40mmは、金属ブレスレットで並ぶ。その中で126655は、ケース全体を金で作る唯一の40mmとして、この系統の基準点に立ち続けている。
意匠分析
126655-0002を形づくる色は、エバーローズゴールドと黒の2つに限られる。ケース、ベゼルの外周、リューズ、クラスプを金が担い、ベゼルインサート、文字盤、ブレスレットを黒が受け持つ。同じ40mmでも、鋼とプラチナの銀色を基調とするロレジウムとは対照的な配色である。
ケースは、ロレックスが自社の鋳造所で作る18ctピンクゴールド合金、エバーローズゴールド製である。2005年に導入されたこの合金は、プラチナを加えることで色の褪せを抑えるとされる。金のケースに金のブレスレットを合わせれば、重さと華やかさはともに増す。黒いブレスレットを選んだことで、本機は貴金属の時計でありながら日常に寄せた佇まいを得ている。
両方向回転ベゼルには、マットブラックのセラクロムインサートが収まる。数字と目盛りはセラミックに浮き彫りで成形したうえで研磨されるとされ、艶消しの黒地から磨かれた面だけが光を拾う。傷や紫外線による退色に強いセラミックは、ラバー系ブレスレットで気兼ねなく使う時計の性格にも合う。
文字盤はロレックスが「インテンスブラック」と呼ぶ黒である。三角、丸、長方形のインデックスとメルセデス針はエバーローズゴールドで縁取られ、内側のクロマライト夜光が暗所で青く光る。刷り文字も金色で入るとされ、ロレジウムの青文字盤のような赤の差し色は置かれない。6時位置の「SWISS」と「MADE」の間の王冠マークは、新世代機を積む文字盤の目印と伝わる。
オイスターフレックスは、チタン・ニッケル合金の柔軟なメタルブレードを高性能ブラックエラストマーで覆った構造である。ブレードがケースとクラスプに直接つながり、内側には縦方向のクッションが走って時計を手首の中央に保つ。前任からの目に見える変更はクラスプにある。116655では約5mmのイージーリンクだった延長機構が、グライドロックに置き換えられた。工具を使わず、約2.5mm刻みで最大約15mm調整できる。コマの抜き差しができないこのブレスレットでは、その幅がそのまま装着感の余裕になる。
内部には自社製のCal.3235が収まる。特許を持つクロナジー・エスケープメントを備える。ヒゲゼンマイは磁気の影響を受けにくい常磁性のブルーパラクロム製で、パラフレックス耐衝撃装置と組み合わされる。精度はケーシング後に日差±2秒で認定される。
系譜と歴史
126655の起点は、2015年3月のバーゼルワールドで発表された前任116655にある。エバーローズゴールドの40mmケースに黒のセラクロムベゼルを載せ、オイスターフレックスで腕に留める構成は、このとき確立した。同じ会場では37mmの268655も披露されている。
116655はおよそ4年で役目を終えた。2019年3月のバーゼルワールドで、ロレックスはヨットマスター 40の各Refを新世代のCal.3235へ移行させる。ロレゾールの126621、ロレジウムの126622とともに、エバーローズゴールドの本機も126655として番号を改めた。同年の会場では、42mmのホワイトゴールドケースを持つ226659が初めて姿を見せた。WatchBaseは本機の生産開始を2019年4月としている。
黒文字盤の標準仕様には枝番0002が与えられた。同じRefには、文字盤全面にダイヤモンドを敷き詰めた126655-0005も存在する。ただしその投入時期は公式発表で確認できず、2026年9月時点の公式サイトにも掲載はない。
生産開始以降、このRefについて文字盤やケースの仕様変更を告げる公式発表は確認できていない。2026年4月のWatches and Wondersでは、カタログ外のイエローゴールド製126678SAJOR-0003が登場したと報じられた。40mmケースにオイスターフレックスを合わせる構成を、カーネリアンの文字盤と褐色のブレスレットで仕立てた一本である。126655-0002は2026年の公式カタログにも掲載が続いており、2026年9月時点で現行モデルである。