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ROLEX · SERIES

Yacht-Master

ヨットマスター

潜るためでなく海上で使うために生まれた、ロレックス唯一ロレジウムを擁する航海時計の系譜

掲載モデル 40 mm – 42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Yacht-Master(ヨットマスター)は、1992年にロレックスが発表した航海をテーマとするラグジュアリースポーツウォッチである。潜水に特化したサブマリーナーに対し、本作は海上で時を計る「トップサイド」の時計として構想された。現行はステンレスと950プラチナを組み合わせるロレジウムを中核に、Everoseゴールドやチタンの40mm・42mm、そしてレガッタ計時に特化した別系統のYacht-Master IIへと枝分かれする。ロレックスが半世紀ぶりに投入した新ファミリーであり、素材で個性を語る稀有なシリーズでもある。

02 — STORY · 物語

Yacht-Master(ヨットマスター)、これまでの軌跡

The story of this series
01

海とロレックスの距離

ロレックスと海の関係は、ダイバーズウォッチのサブマリーナーより前にさかのぼる。1958年、同社は名門ニューヨーク・ヨット・クラブと関係を結び、帆走の世界に足場を築いたとされる。1966年から翌年にかけては、フランシス・チチェスターがヨット「ジプシー・モスIV世」で単独世界一周を成し遂げた際、その腕にロレックスのオイスターがあった。

一方で「Yacht-Master」という名そのものは、製品より四半世紀ほど早く現れていたと伝わる。1960年代後半、デイトナに似たクロノグラフの文字盤に同名を記した試作が存在したとされ、ケース径は当時のデイトナより大きい39.5mm前後だったという。ただしこの個体の真贋には議論があり、ロレックスは公式見解を示していない。確かなのは、海上計時の構想がブランドの中で長く温められていたという事実である。

02

1992年、海上の時計として

シリーズが正式に始まるのは1992年。Ref. 16628は40mmのオイスターケースを18Kイエローゴールドで仕立て、白文字盤にCal. 3135を収めた一本だった。ロレックスが新ファミリーを起こすのは1964年のデイトナ以来で、実に28年ぶりの出来事である。

設計の出発点はサブマリーナーに近い。回転ベゼル、メルセデス針、オイスターケース——道具としての文法は共有している。しかし防水は100mにとどめ、素材は貴金属のみ。潜水具ではなく、デッキの上で使う上質な時計という位置づけが、素材と佇まいの両面ではっきりと打ち出された。プロフェッショナル系で初めて貴金属専用として登場したモデルでもある。

03

サイズとロレジウム

1992年の単一モデルは、まずサイズで裾野を広げる。1994年に35mmのミッドサイズ(Ref. 68628)と29mmのレディース(Ref. 69628)が加わり、プロフェッショナル系で標準径より小さいケースが用意されたのはこのときが初とされる。1996年にはステンレスと18Kゴールドを組み合わせる二色仕様も展開された。

転機は1999年に訪れる。ステンレススチールに950プラチナのベゼルを合わせる「ロレジウム」のRef. 16622が登場した。プラチナを実用スポーツの素材として用いる構成は他のロレックスに例がなく、現在に至るまでYacht-Master固有の識別子であり続けている。サブマリーナーの影から抜け出す最初の足がかりが、潜水性能ではなく素材だった点は示唆的である。

04

Yacht-Master II — レガッタという別系統

2007年、ロレックスはまったく性格の異なる派生を投入する。44mmのYacht-Master IIは、レガッタのスタート前カウントダウンを計時するための機械式クロノグラフであった。イエローゴールド(Ref. 116688)とホワイトゴールド(Ref. 116689)で始まり、新開発のCal. 4160——デイトナ系Cal. 4130を基礎とすると伝わる——を搭載した。

核心は、1分から10分まで任意に設定でき、機械式メモリーで記憶するプログラム式カウントダウンにある。設定はケース外周のリング・コマンド・ベゼルが担い、ベゼルとムーブメントが連動する仕組みだった。ロレックスはこれを当時「世界初」と称している。2013年にはステンレス(Ref. 116680)が加わり、機械はCal. 4161へ更新された。海上計時という1960年代の構想が、ここで一つの完成形に結実したとも読める。

05

2015年、独自路線の確立

主役の三針モデルが自らの顔を得たのは2015年である。Ref. 116655は、ロレックス独自のEveroseゴールドケースに黒のセラクロム(セラミック)ベゼルを合わせ、さらに同社初のラバー系ブレスレット「オイスターフレックス」を採用した。金属ブレード上をエラストマーで覆うこの構造は、貴金属の時計に運動的な軽快さを与えた。同年に刷新された「スーペラティブ・クロノメーター」基準を満たした点でも節目となる。

この一本以降、Yacht-Masterはサブマリーナーの派生ではなく、素材と質感で語る独立した系譜として認識されていく。29mmと35mmは整理され、37mmへと置き換えられた。

06

42mm、チタン、そして新生II

2019年、シリーズ最大の42mmが登場する。ホワイトゴールドのRef. 226659は黒セラクロムベゼルとオイスターフレックスをまとい、Yacht-Master初のホワイトゴールドとなった。同時に40mm系はCal. 3235へ移行し、Chronergy脱進機と約70時間のパワーリザーブを得た。

2023年にはRef. 226627が、ロレックスがRLXチタンと呼ぶグレード5チタンで仕立てられる。ディープシー・チャレンジに続く同社2例目のチタン製であり、貴金属一辺倒だった42mmに実用的な軽さが加わった。一方Yacht-Master IIは2024年にいったん全廃される。そして2026年、新世代のIIがCal. 4162とともに復活した。カウントダウンの操作はリング・コマンドからプッシャー式へと改められ、減算する針は反時計回りに動く——ロレックスとして初の試みである。海上で時を計るという最初の動機は、形を変えながらいまも更新され続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Yacht-Masterの設計を貫くのは、「海上で使うための航海時計」という一点である。サブマリーナーが水中での安全のために逆回転防止の一方向ベゼルを持つのに対し、Yacht-Masterのベゼルは双方向に回る60分計だ。潜水中の経過時間を厳格に管理するのではなく、ブイ間の所要時間など、デッキ上で自在に時間間隔を計るための機構である。この一点に、両者の思想の違いが凝縮されている。

ベゼルの意匠もシリーズの顔を決めている。サンドブラスト仕上げの下地に、研磨された立体的な数字と目盛りを浮かび上がらせる手法は、刻印に色を流すサブマリーナーのベゼルとは異なる質感を生む。貴金属やセラミックの素材感を前面に出すこの処理が、Yacht-Masterを遠目にも識別させる。

意匠の骨格そのものは、オイスターケース、メルセデス針、立体的なインデックスというロレックス・スポーツの共通言語に立っている。にもかかわらず別物に見えるのは、磨きの比率と素材選択の差による。Yacht-Masterは道具的な道具らしさよりも、光を受ける面の豊かさを優先してきた。同じ文法を、より華やかな声量で読み上げる時計だといえる。

そして最大の設計言語は素材である。ステンレスに950プラチナを合わせるロレジウムは他のロレックスにない構成であり、Everoseゴールドや近年のRLXチタンも含め、Yacht-Masterは「何でできているか」で世代を語ってきた。ケース径やムーブメントの刷新以上に、素材の選択がこのシリーズの個性を規定する。視認性最優先という道具の規律を守りつつ、潜水具にはない上質さを纏う——変えなかったのは目的、変え続けたのは素材という二層構造が、誕生から三十余年を経てもなお一貫した「顔」を保たせている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1992-2019
Cal. 3135
三針デイトの自社製自動巻。サブマリーナー系の基幹機。
2007-2024
Cal. 4160 / 4161
II専用のレガッタクロノ。Daytona系4130に連なる。
2019-現在
Cal. 3235
Chronergy脱進機採用。約70時間のパワーリザーブ。
2026-現在
Cal. 4162
新生II専用。プッシャー式カウントダウンへ刷新。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1992-2011

初代イエローゴールド

16628
40mm・18Kイエローゴールド。シリーズの原点となる一本。
1999-2019

鋼とプラチナのロレジウム

16622
ステンレスに950プラチナベゼル。YM固有の素材構成。
2007-2024

Yacht-Master II

116688 116689
44mmレガッタクロノ。プログラム式カウントダウン搭載。
2015-2019

エヴァローズと独自路線

116655
Everose×黒セラミック×オイスターフレックスで独自路線へ。
2019-現在

白金とチタンの42mm

226659 226627
ホワイトゴールドとチタンの42mm。Cal.3235世代。
2026-現在

新生Yacht-Master II

126680 126688
Cal.4162搭載。プッシャー操作のII系として復活。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Watches - Rolex 公式 · Rolex · 2026.08.15 閲覧 Rolex · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Rolex Movements Explained 専門メディア · Bob's Watches · 2026.08.15 閲覧 Bob's Watches · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 3 モデル

3 references in archive