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腕時計史 · MILESTONE — 第5章 クォーツ革命とクォーツショック
1975

国産 飽和潜水ダイバーズの開発

技

ヘリウムを逃がすのではなく、入れない——一通の手紙から7年をかけ、セイコーは飽和潜水の時計に別の解を示した。

§ 00 Overview

1975年、セイコーは600m防水のプロフェッショナルダイバーズ(6159-7010)を発売した。発端は1968年、広島県呉市の飽和潜水ダイバーから届いた一通の手紙である。水深300mを超える作業では多くの時計が壊れる、という訴えだった。徳永幾男を中心とする技術陣は約7年をかけ、チタン製のワンピースケース、L字型断面のパッキン、本体を覆う外胴を組み合わせた。ヘリウムを逃がす弁に頼らず、ケース内への侵入そのものを抑える設計である。後に「ツナ」と呼ばれる系譜の起点となった。

§ 01 Background

1960年代、海洋開発の広がりとともに、深い水深で長時間働く潜水作業が増えていた。その手段となったのが飽和潜水である。飽和潜水では、ダイバーは加圧された居住区や潜水カプセルの中で、ヘリウムを含む混合ガスを呼吸しながら長期間を過ごす。作業を終えると、数日をかけて減圧する。このとき時計に問題を起こしたのが、分子の小さいヘリウムだった。ヘリウムはパッキンをすり抜けてケース内に入り込み、減圧の際に外へ抜けきれず、内側から風防を押し上げてしまう。

1960年代後半、これは時計メーカーに共通する課題となっていた。スイスではロレックスが、ケース側面にヘリウムを逃がす一方向弁を設ける構想で1967年に特許を出願している。セイコーは1965年に150m防水の62MAS、1967年に300m防水のダイバーズを世に出していたが、飽和潜水に耐える時計はまだ持っていなかった。

§ 02 The Event

1968年、セイコーに一通の手紙が届いた。差出人は広島県呉市を拠点とする飽和潜水のダイバーで、潜水カプセルを用いて水深300mを超える現場で働くと、ほとんどの時計が壊れてしまうと訴えていた。これを受けて、徳永幾男を中心とする技術陣が開発に着手する。

技術陣が選んだのは、ヘリウムを逃がすのではなく、入れないという方針だった。ケースは裏蓋を持たないワンピース構造とし、風防は表側から組み込んで、断面がL字型のパッキンで固定した。押しつぶされて変形する円形断面のパッキンより密閉性が高く、弁を設けずにヘリウムの侵入を抑えられる。ケースの外側にはチタン製の外胴(プロテクター)を4本のねじで固定し、衝撃から本体を守った。チタンは加工の難しい素材で、ダイバーズウォッチのケースに用いたのはこれが初めてとされる。

約7年の開発を経て、1975年にプロフェッショナルダイバーズ600m(6159-7010)が発売された。毎時36,000振動のハイビート自動巻きキャリバー6159を搭載し、ケース径は約51mmに及ぶ。手首の太さの変化に追従するアコーディオン式のストラップも、このとき特許とともに導入されたと伝わる。外装の造形には、デザイナーの田中太郎が関わったとされる。完成した時計を、徳永は手紙の差出人であるダイバーのもとへ届けたと伝わる。

§ 03 Significance

この時計は、ヘリウム対策のもう一つの答えとなった。スイス勢が一方向弁でガスを逃がす方式を採ったのに対し、セイコーはガスの侵入そのものを抑える方式を選んだ。セイコーによれば、1982年に海洋科学技術センター(現在の海洋研究開発機構、JAMSTEC)が行った水深300mの飽和潜水試験で、同社の600m防水機は他社製品に比べ最大で約10倍ヘリウムを通しにくかったという。

系譜はその後も続く。1978年には同じ600m防水でクォーツ式の7549-7009が登場し、飽和潜水用のクォーツダイバーズとしては初めてとされる。1986年には外胴をセラミックとした1000m防水機が加わった。外胴で本体を包む円筒形のケースは、その形から愛好家に「ツナ」(ツナ缶)と呼ばれ、現行のプロスペックスにも受け継がれている。現場のダイバーの声から出発し、日本のメーカーが飽和潜水という過酷な用途に自前の解を示した点に、この時計の意味がある。

Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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  2. 02 報道 The history of Seiko's iconic Diver's watch collection 報道 · DIVE Magazine · 2026.10.08 閲覧 DIVE Magazine · 2026.10.08
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