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CALIBER · TUDOR

MT5602

自動巻 Automatic Analog

2016年、Black Bayを自社製クロノメーターへ進化させたTudorの基幹自動巻

MT5602
movement · MT5602
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

Cal. MT5602は、2016年のバーゼルワールドでTudor Heritage Black Bay Ref.79230に初搭載された、Tudor自社製の自動巻きキャリバーである。振動数28,800vph (4Hz)、25石、約70時間のパワーリザーブを持ち、シリコン製ヒゲゼンマイと可変慣性テンプ、両端固定の横断ブリッジを特徴とする。COSC認定を受け、2023年にはMETASマスタークロノメーター認定の派生Cal. MT5602-Uも登場した。Kenissi社が製造を担い、Black Bay 41を中心とする3針モデル群の中核を成すムーブメントである。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerTudor
ReferenceMT5602
TypeAutomatic
DisplayAnalog
Frequency28,800 bph (4 Hz)
Jewels25 石
Power reserve70 h
Movement ⌀31.8 mm
HandsHours, Minutes, Seconds
AdditionalChronometer
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

ETA依存からの転換

1926年の創業以来、TudorはRolexの戦略的弟分として、Rolexの設計思想と部品供給を共有しつつ、汎用ムーブメントを採用することで価格競争力を保つ位置にあった。長年その心臓部を担ってきたのが、スイスETA社の自動巻きキャリバー、特に2824-2である。堅牢で整備性に優れ、世界中の時計師が扱えるこのキャリバーは、業界の事実上の標準であった。

しかし2000年代後半、SwatchグループがETA製ムーブメントのグループ外供給を段階的に絞る方針を打ち出すと、独立系メーカー各社は自社製ムーブメントの開発を急がざるを得なくなる。Tudorは2010年、自社製キャリバーの開発プロジェクトを立ち上げた。

2015年の登場と派生

プロジェクトの成果は2015年のバーゼルワールドで初公開された。最初の自社製キャリバーCal. MT5621はパワーリザーブ表示を備える機種としてNorth Flagに搭載され、ほぼ同時期に発表されたCal. MT5612はPelagosに採用された。「MT」はManufacture Tudor(マニュファクチュール・トゥーダー)を意味する。

翌2016年、Heritage Black Bayが新しいRef.79230としてアップデートされ、Cal. MT5602が搭載される。Cal. MT5612から日付機能を取り除き、Black Bayの3針意匠に合わせた派生型である。これによりBlack BayはETA 2824-2搭載モデル(Ref.79220)から、自社製クロノメーターを搭載する新世代へと進化した。パワーリザーブは38時間から70時間へ、未認定からCOSC認定へと、実用面の進化は明瞭であった。

Kenissiという仕組み

Cal. MT5602を語る上で欠かせないのが、製造実態を担うKenissi社の存在である。Tudorは2016年にKenissiを設立し、自社製ムーブメントの生産と、第三者ブランドへの供給を担う独立した会社として位置づけた。2018年にはル・ロックル(Le Locle)に工場が建設され、Chanelが20%出資するなど、資本構造も独自の形を取る。

KenissiはBreitling、Chanel、Norqain、Fortis、TAG Heuer、Bell & Rossなどに自動巻きムーブメントを供給しており、Cal. MT5602もこの「外販可能な高品質マニュファクチュール」という業界基盤としての性格を帯びる。ただし外販版は仕上げや刻印が変更され、Tudorブランドとしての固有性は維持されている。

METAS認定への進化

2021年にはBlack Bay Ceramicが登場し、黒色仕上げのCal. MT5602-1UがMETASマスタークロノメーター認定の派生型として導入される。続く2023年、Black Bayは大幅刷新を受け、新しいRef.7941系にはCal. MT5602-Uが搭載された。METAS認定により、耐磁性能15,000ガウス、ケーシング後の精度0/+5秒という、親会社Rolexと並ぶ精度基準が達成されている。

ETA時代から数えれば10年に満たない時間のうちに、Tudor Black Bayの心臓は汎用ムーブメントから業界最高水準のマスタークロノメーターへと進化した。Cal. MT5602とその派生群は、その進化の中核を担う基幹キャリバーである。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

構成と主要諸元

Cal. MT5602は直径31.8mm、厚さ6.5mmの中型自動巻きキャリバーである。振動数は28,800vph (4Hz)、石数は25、パワーリザーブは約70時間。日付機能を持たない時・分・秒の3針構成で、ハック機能(秒針停止)と手巻きを備える。香箱は単一で、両方向巻き上げ式の中央ローターを通じて巻き上げが行われる。

可変慣性テンプとシリコンヒゲゼンマイ

精度の核となるのが、可変慣性テンプ(variable inertia balance)である。テンプの内側に配された複数の調整ネジを回転させることで、テンプ自身の慣性モーメントを微調整できる構造で、緩急針(レギュレーター)を用いず精度を出すフリースプラング方式である。これは親会社ロレックスのマイクロステラ・テンプと同じ思想に立つもので、長期的な精度安定性に寄与する。

組み合わされるヒゲゼンマイは非磁性のシリコン製である。鉄・ニッケル合金製のヒゲゼンマイとは異なり磁界の影響を受けないため、生活磁場が常時存在する現代環境下でも巻き乱れによる精度低下を起こさない。シリコン部品は加工精度が極めて高く、温度変化や経年に対する形状安定性にも優れる。

横断ブリッジによる耐衝撃構造

テンプ周りで特筆すべきは、両端で固定された横断ブリッジ(traversing bridge)の採用である。一般的なETAやSellitaの汎用ムーブメントが片持ち梁状のテンプ受けを用いるのに対し、Cal. MT5602はテンプ軸の両側を地板に固定する全面支持型の橋を持つ。これにより軸のたわみが抑えられ、衝撃や振動に対する精度安定性が向上する。同形式はロレックス自社製キャリバーが一貫して採用してきた設計思想であり、Tudor自社製キャリバー群にも継承されている。

70時間パワーリザーブの背景

Cal. MT5602以前にBlack Bayが搭載していたETA 2824-2のパワーリザーブは約38時間。これを70時間まで延長したのが本キャリバーの最も実用的な進化点である。一般に振動数を上げると消費エネルギーが増えてパワーリザーブが短くなる傾向にあるが、Cal. MT5602は4Hzの振動数を維持したまま70時間を確保している。香箱内のゼンマイ容量と巻き上げ効率、輪列・脱進機の摩擦損失を総合的に最適化した結果である。「金曜の夜に外し、月曜の朝に巻き直さず装着できる」週末対応の実用性は、現代の腕時計設計におけるひとつの標準となった。

COSC認定とMETASグレードの派生

Cal. MT5602はスイス公式クロノメーター検査機関(COSC)の認定を受け、日差マイナス4秒からプラス6秒の範囲に収められる。さらにTudorは独自に日差マイナス2秒からプラス4秒の社内基準で調整しているとされる。

2023年に派生型のCal. MT5602-Uが登場した。METAS(スイス連邦計量・認定局)のマスタークロノメーター認定を受けたグレードで、ケーシング後の精度基準は0秒からプラス5秒、耐磁性能は15,000ガウスに達する。2021年のBlack Bay Ceramic向けCal. MT5602-1Uも同じくMETAS認定の派生型である。

仕上げ

Cal. MT5602はソリッドケースバックの内側に収まり、外観上は鑑賞の対象ではない。ただし派生型のCal. MT5602-1U・Cal. MT5602-Uではローターのレーザー装飾や、地板への代替的なサンドブラスト・ポリッシュ仕上げが施されており、信頼性と工業的合理性を主軸とする設計思想が一貫している。コートドジュネーブやペルラージュといった伝統装飾を最優先する高級ブランドとは異なる、ツール・ウォッチの哲学を体現する仕上げ方針である。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 3 本のリファレンス

This caliber appears in 3 references