本文へ
COMPLICATION · WORLD TIME

ワールドタイム

World Time

世界24のタイムゾーンを文字盤上に同時表示する、ルイ・コティエが1931年に確立した旅行者のための機構

INVENTOR
ルイ・コティエ
YEAR
1931
CLASS
時刻表示 · 時間表示拡張
搭載モデル
10 本
01 — OVERVIEW

概要

ワールドタイム (World Time、別名 Heures Universelles) は、文字盤上で世界24のタイムゾーンを同時に表示する複雑機構である。1931年にジュネーヴの独立時計師ルイ・コティエ (Louis Cottier) が24のタイムゾーンを示すムーブメントを完成させ、1937年にはパテック フィリップと組んで最初の腕時計(Ref. 515 HU など)が作られた。中央指針が指す基準都市の時刻に対し、24時間ディスクと都市名リングの組み合わせで、各地の標準時を一目で読み取る仕組みを持つ。2地点間の比較に留まるGMT機構に対し、ワールドタイムは全世界を一望する点で性格を異にする、旅行者向けの代表的コンプリケーションである。

02 — PRINCIPLE

仕組み・原理

01基本原理

ワールドタイムは、地表を経度15度ごとに区切った24の標準時を、文字盤上に同時表示する機構である。中央には時針と分針があり、これが指すのは基準都市(ローカルタイム)の時刻である。文字盤の周縁には24都市の名前が並んだ都市名リング、その内側に0から23の数字が刻まれた24時間ディスクが配置される。

24時間ディスクは24時間で1回転、すなわち地球の自転と同じ周期で動く。地球の自転と同期したディスクの回転が、24都市の時差をそのまま盤面に投影する役目を果たす。基準都市の真横にディスクの12が来るとき、東に12時間離れた都市の真横にはディスクの0(=深夜0時)が示される。

02構造の詳細

コティエが完成させた原型は、都市名リングが文字盤に固定され、24時間ディスクが反時計回りに回転する方式だった。各都市の真横に位置するディスクの数字を読めば、その都市の時刻が得られる。中央指針が東京時間の正午を指すとき、東京の真横は12、ロンドンの真横は3、ニューヨークの真横は22(前日22時)というように、24都市の時刻が同時に視認できる。

24時間ディスクは多くの場合、昼夜を示すために二色で塗り分けられる。6時から18時に当たる帯を明色、18時から翌6時に当たる帯を暗色とすることで、各都市が昼か夜かを直感的に伝える設計である。

03基準都市の変更方式

旅先で基準都市を切り替える操作には、複数の方式が存在する。パテック フィリップの初期の実装では都市名リングが固定され、基準都市を容易には変更できなかった。Ref. 1415 HU では回転ベゼルを手で回して都市名を合わせ、1953年(資料によっては1954年)の Ref. 2523 HU では2つ目のリューズで都市名リングを回す方式が採られた。

2000年にパテック フィリップが Ref. 5110 で導入したプッシャー方式は、以後の同社のワールドタイムに受け継がれている。10時位置のプッシャーを1回押すごとに、時針、24時間ディスク、都市名リングが連動して1ステップ進む。分針と秒針は影響を受けないため、時刻の精度を保ったまま基準都市を変更できる。

04限界と派生

ワールドタイムが扱うのは標準時の差のみで、夏時間 (DST) を採用する都市では年に2回、表示と実態がずれる。インドの+5:30、ネパールの+5:45、ニューファンドランドの-3:30のような半端な時差を持つ地域も、24分割の盤面では正確に表現できない。ヴァシュロン・コンスタンタンの Cal. 2460 WT(2011年発表)が37タイムゾーンに対応するのは、こうした半端時差を持つ地域も含めるためである。

03 — HISTORY

歴史

01コティエ家とワールドタイムの誕生

ルイ・コティエ (Louis Cottier、1894–1966) は、オートマタ職人エマニュエル・コティエ (Emmanuel Cottier) の子としてジュネーヴに生まれ、幼い頃から時計とオートマタの製作に接した。1931年、コティエは24のタイムゾーンの時刻を一つの文字盤に示すムーブメントを完成させる。これがワールドタイマーの起点とされる。その後もコティエは、矩形ムーブメント(1937年)、女性用の小型時計(1938年)、クロノグラフとの組み合わせ(1940年)など、多くの派生を手がけた。

02パテック フィリップとの協業

1932年、ヴァシュロン・コンスタンタンはコティエの機構を用いた最初のワールドタイム(Ref. 3372、31都市表示)を発表する。1937年、コティエの機構はパテック フィリップによって腕時計用に小型化された。最初の腕時計版として知られるのが、矩形ケースの Ref. 515 HU(数個のみのプロトタイプ)と、カラトラバ系ラウンドケースの Ref. 96 HU である。96 HU の製作年は1937年とも1939年とも記される。HU は Heures Universelles の略である。

1939年に登場した Ref. 1415 は、シリーズ生産された最初のワールドタイマー腕時計と位置づけられる。1954年まで製造され、その間に都市名リングのデザインや表記が幾度か更新された。1953年(資料によっては1954年)には、2つ目のリューズで都市名リングを回す Ref. 2523 HU が登場した。

03約30年の空白とプッシャー方式

1966年のコティエ没後、ワールドタイマーはパテック フィリップのカタログから約30年にわたって姿を消した。

転機は2000年に訪れる。パテック フィリップが Ref. 5110 を発表し、10時位置のプッシャーで都市名リング、時針、24時間ディスクを連動させる方式を採用した。搭載される Cal. 240 HU は、同社の極薄自動巻キャリバー240を基にしている。この方式は後継の Ref. 5130、Ref. 5230 にも受け継がれている。

04派生と現代の到達点

2011年、ヴァシュロン・コンスタンタンはパトリモニー トラディショナル ワールドタイムで Cal. 2460 WT を発表し、半端時差を含む37タイムゾーン表示に対応した。2014年にはルイ・ヴィトンが エスカル ワールドタイム を発表、中央指針を持たない3枚ディスク方式の独創的な再解釈を提示した。

パテック フィリップは2023年、基準都市の変更と連動する日付表示を備えた Ref. 5330(Cal. 240 HU C)を東京の展示会で限定発表し、2024年に通常コレクションに加えた。クロノグラフやミニッツリピーターとの複合化も進み、ワールドタイマーは複雑時計の主要分野として発展を続けている。

04 — NOTABLE IMPLEMENTATIONS

代表的な実装

01

パテック フィリップ Ref. 5230 / 5330

コティエ方式の正統な末裔であり、現代ワールドタイマーの基準点として扱われる系譜である。Ref. 5230 は10時プッシャーによる基準都市切替と Cal. 240 HU を搭載した量産モデル。2023年に限定版として登場し、2024年に通常生産となった Ref. 5330 は、Cal. 240 HU C の中央差動機構によって、基準都市の切替や日付変更線の通過に連動して日付を合わせる。同社によれば、ローカルタイムと連動する日付表示は世界初である。

02

ヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニー トラディショナル ワールドタイム

2011年に発表された Cal. 2460 WT 搭載モデル。30分・45分単位の時差を含む37タイムゾーンを表示する。文字盤中央のランベルト図法による世界地図と、サファイア製の日夜表示ディスクの組み合わせが、機構の地球規模を視覚化している。後に同キャリバーはオーヴァーシーズ ワールドタイム(2016年)にも展開された。

03

ルイ・ヴィトン エスカル ワールドタイム

2014年のバーゼルワールドで発表された、La Fabrique du Temps Louis Vuitton 製の実装(Cal. LV 106)。針を使わず、3枚の回転ディスクの相対位置で24のタイムゾーンの時刻を読ませる。

04

フレデリック・コンスタント ワールドタイマー マニュファクチュール

2012年に初代が登場した自社製ワールドタイマー。Cal. FC-718 は、ワールドタイムと日付をリューズだけで設定でき、追加のプッシャーや修正ボタンを持たない。

05 — REFERENCES

この機構を搭載する 10 本のモデル

06 — SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Complications ref. 5330G-001 White Gold | Patek Philippe 公式 · Patek Philippe · 2026.10.10 閲覧 Patek Philippe · 2026.10.10
  2. 02 専門メディア A Brief History of the World (Time): Patek Philippe’s Beloved ‘Heure Universelle’ Watch - Collectability 専門メディア · Collectability · 2026.10.10 閲覧 Collectability · 2026.10.10
  3. 03 専門メディア World time: Patek Philippe and Louis Cottier 専門メディア · Europa Star · 2026.10.10 閲覧 Europa Star · 2026.10.10
  4. 04 専門メディア La Cote des Montres: The Vacheron Constantin Patrimony Traditionnelle World Time watch - Simultaneous reading of all world time zones 専門メディア · La Cote des Montres · 2026.10.10 閲覧 La Cote des Montres · 2026.10.10
  5. 05 専門メディア Patek Philippe Introduces the World Time with Date Ref. 5330G-001 | SJX Watches 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.10 閲覧 SJX Watches · 2026.10.10
  6. 06 専門メディア The History of The Patek Philippe World Time Watches - Swisswatches Magazine 専門メディア · Swisswatches Magazine · 2026.10.10 閲覧 Swisswatches Magazine · 2026.10.10
  7. 07 専門メディア Classic Worldtimer Manufacture | Worldtempus 専門メディア · Worldtempus · 2026.10.10 閲覧 Worldtempus · 2026.10.10
  8. 08 専門メディア Escale Worldtime Blue | Worldtempus 専門メディア · Worldtempus · 2026.10.10 閲覧 Worldtempus · 2026.10.10
  9. 09 専門メディア Vacheron Constantin Patrimony World Time: Around the World in 37 Hours | Worldtempus 専門メディア · Worldtempus · 2026.10.10 閲覧 Worldtempus · 2026.10.10
  10. 10 オークション Ref. 605 HU, Yellow Gold World Time Patek Philippe & Co. | Important Collector's Watches, Pocket Watches & Clocks | Geneva, 11th November 2007 オークション · Antiquorum · 2026.10.10 閲覧 Antiquorum · 2026.10.10
  11. 11 オークション Louis Vuitton Only Watch オークション · Phillips · 2026.10.10 閲覧 Phillips · 2026.10.10
  12. 12 オークション Patek Philippe The Geneva Watch Auction: XIX featuring the Guido Mondani Collection オークション · Phillips · 2026.10.10 閲覧 Phillips · 2026.10.10