03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 量産クロノグラフという課題
1969年前後、自動巻クロノグラフは複数の陣営から相次いで世に出た。ゼニスのエル・プリメロ、セイコーの6139、ホイヤーやブライトリングらが共同開発したキャリバー 11である。Monochromeによれば、技術革新で後れを取っていたヴァルジューは、これに追いつくため、ロレックスで働き始めたばかりの若い時計師で技術者のエドモン・カプトを迎えた。
1946年にル・ブラッシュで生まれたカプトは、24歳のとき、量産でき、コラムホイールを持つ6139やエル・プリメロ、モジュール式のキャリバー 11より費用を抑えられる自動巻クロノグラフの開発を任された。ジェラール・ガンデとドナルド・ロシャが彼を支え、ヴァルジューのヌーシャテルの事務所にあった巨大なコンピューターが、動作の模擬や動作順序の図面づくりを助けた。この技術的な強みで7750は比較的早く完成し、コンピューター支援設計で開発された最初の時計のムーブメントという称号を得た。
2. 7733とヴィーナスの系譜
7750の土台となったのは、手巻のヴァルジュー7733である。7733自体は、1924年に創業し1928年にエボーシュ社に買収されたヴィーナスのキャリバー188の流れをくむ。1966年にヴィーナスが独立した営業を終えると、ヴァルジューがこのキャリバー188を受け継いだ。
3. 中断、そして復活
Monochromeによれば、7750は登場当初に年10万個の生産を達成したとされる。しかしクォーツの台頭で販売が落ち込み、1975年までに生産は止まった。経営陣は機械式時計の時代が終わったと考え、7750のすべての機械、図面、治具の廃棄を命じた。カプトはこれに従わず、それらを保管した。ゼニスでエル・プリメロの設備を守ったシャルル・ベルモと重なる逸話である。
機械式時計の需要が戻り始めると、7750はすぐに生産できる状態にあった。1985年にETAがヴァルジューを引き継ぎ、強く後押しした。1984年に創業100周年を迎えたブライトリングのクロノマット、1980年代半ばのティソのPR、IWCのクルト・クラウスが7750を基に作ったダ・ヴィンチ永久カレンダー・クロノグラフ(1985年)などが、その復活を象徴する。1990年代末には、樹脂部品が金属に置き換えられ、石数も17石から25石に増えた。
4. 業界の基盤として
7750の派生は多い。1986年から作られる7751は、中央の日付針、12時位置の曜日と月、6時位置の月相を備えたフルカレンダーで、ほかに7753、7754なども生まれた。手巻の7760や7765などもある。セリタのSW500は7750の互換機で、タグ・ホイヤーのキャリバー 16は7750かSW500を使う。ラ・ジュー・ペレのL100は7750の構成にコラムホイールを加えた。ハミルトンが2011年に投入したH-21は、7750を改めてパワーリザーブを大きく延ばしている。Monochromeは、7750がこの50年間、手頃な時計から高級な時計まで幅広く使われてきたと書いている。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
カムとレバーによる切り替え
7750の核心は、クロノグラフの起動・停止・帰零をコラムホイールではなく、カムとレバーで切り替える点にある。Monochromeによれば、7750はプレスで打ち抜いた長円形のカムを介してレバーを動かし、クロノグラフの機能を操作する。この設計は、コラムホイールで操作する機械に比べて量産を容易にし、費用も抑えた。帰零の機構はカプトの設計で、1940年代に時計師アンリ・ジャコ=ギヨが特許を取った発明を基にしている。計時輪列の連結には、振りカナ(オシレーティング・ピニオン)を使う。Monochromeは別の記事で、頑丈で長持ちし費用を抑えたクロノグラフを作るという狙いからこの構成が選ばれたと説明している。
費用を抑える工夫はほかにもあった。当初はデルリン(ポリオキシメチレン)の樹脂部品や、簡素な止めばねとジャンパーばねが使われた。こうした妥協は見た目の美しさではエル・プリメロに及ばないものの、手頃な価格のクロノグラフを可能にした。樹脂部品は1990年代末に金属へ置き換えられている。
3枚の地板の構成
1973年から1974年の登場時、7750は、カムで制御するクロノグラフ、中央ローターによる一方向の自動巻き、受けではなく3枚の真鍮の板からなる簡素な構成を特徴としていた。カレンダーの板、時計の地板、上の板の3層である。クロノグラフの切り替え機構は機械の裏側にあり、自動巻の機構を外して初めて見える。
調速と表示
地板の裏側には、輪列、香箱、脱進機、テンプが並ぶ。香箱の主ゼンマイは約45時間のパワーリザーブを生み、テンプは毎時28,800振動 (4Hz)で振れる。テンプを止める秒針停止機構を備え、時刻を秒まで合わせられる。常時運針の秒針は、リューズと反対の9時位置に置かれる。これは7750がレピーヌ式の構成であることを示している。歩度の調整は、当初はヒゲゼンマイの有効長を変える方式で、現在の版ではエタクロンの方式に替わっている。
拡張の土台として
7750は、整備と改良がしやすい構造を持つため、さまざまな改造の土台となってきた。IWCは7750を基に、永久カレンダーとスプリット秒、トゥールビヨン、ミニッツ・リピーターなどを組み合わせた複雑なキャリバーを作った。リヒャルト・ハブリングは、7750を基に10時位置に追加のプッシャーを持つスプリット秒クロノグラフを設計し、IWCのドッペルクロノグラフに使われた。後年には、ラ・ジュー・ペレのL100のように、7750の構成にコラムホイールを加えた機械も現れている。
互換機と改良版
7750の設計は、互換機と改良版の母体にもなった。セリタのSW500は7750の互換機として多くのブランドに使われ、手巻やモノプッシャーの版も作られた。スウォッチ グループの内部では、ハミルトンのH-21が輪列を見直し主ゼンマイを改めて、パワーリザーブを大きく延ばしている。7750の基本構成が、半世紀を経てもなお改良の余地を残していることを示す例である。