Calibre 16
1974年登場のヴァルジュー7750を基盤に、タグ・ホイヤーが自社呼称で受け継ぐ自動巻クロノグラフ
キャリバー16は、タグ・ホイヤーが自動巻クロノグラフに与える呼称であり、その基盤はETA(旧ヴァルジュー)7750である。7750は1974年に量産が始まった汎用ムーブメントで、コラムホイールに代えてカムとレバーで制御する点に特徴がある。振動数28,800vph(4Hz)、25石、パワーリザーブは約42〜48時間。日付と曜日表示を備え、12-6-9配置のサブダイヤルを持つ。タグ・ホイヤーは2005年のカレラ刷新を機にこの呼称を本格採用し、後年はゼリッタSW500も基盤に加えた。カレラ、アクアレーサー、フォーミュラ1などが代表的な搭載シリーズである。
| Maker | TAG Heuer |
|---|---|
| Reference | Calibre 16 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 25 石 |
| Power reserve | 42 h |
| Movement ⌀ | 30 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph |
系譜と歴史
1. 量産を見据えた設計
1970年代初頭、ヴァルジューはエドモン・カプトに新型自動巻クロノグラフの開発を委ねた。基礎となったのは手巻のヴァルジュー7733であり、その系譜はヴィーナス188にさかのぼる。7750は計算機を用いて設計された初期の例のひとつとされ、1974年に時計へ搭載された。設計の核は、コラムホイールではなくカムとレバーで操作を制御する方式にある。打ち抜き加工で量産できるカムは、堅牢さと製造性を両立させる選択であった。クロノグラフの伝達には、調速側と計時側をつなぐオシレーティングピニオン(振動ピニオン)が採られた。
2. クォーツ危機を越えて
登場の翌年、業界はクォーツの波に呑まれた。1975年、7750は生産中止が決まり、設備の廃棄が指示される。だが現場はこれに従わず、金型や治具を隠したと伝わる。ゼニスのエル・プリメロと同じく、廃棄命令への不服従が後の復活を支えた。需要が戻り始めた1985年、生産は再開される。以後、2石・3石・ムーンフェイズなど派生が拡充され、7750は多くのブランドが選ぶ標準的なクロノグラフ機構となった。
3. ホイヤーと「キャリバー16」
ホイヤーは1977年のケンタッキーやパサデナで早くから7750を採用した。だが1982年、資本構成の変化のもとでいったん手を引く。再び迎えるのは1997年のS/elクロノグラフと2000クロノグラフである。2000年のLVMH傘下入りが、機械式回帰を後押しした。2005年、刷新されたカレラとともに、タグ・ホイヤーは7750に「キャリバー16」という自社呼称を与える。オシレーティングピニオンは、創業者エドゥアール・ホイヤーが1887年に特許を得た機構である。同社が2010年の自社製ムーブメントを「キャリバー1887」と名づけた背景にも、この史実がある。汎用の7750と自社製1887が、同じ機構の系譜で結ばれている点は興味深い。
4. グレードとゼリッタへの展開
ETA時代の7750には、Standard・Élaboré・Top・Chronometreという仕上げ等級が存在する。等級により、調整精度や部品の質に差が設けられた。最上位はCOSCクロノメーター認定に対応する。2010年代、スウォッチグループ外への供給縮小が見込まれるなか、タグ・ホイヤーはゼリッタSW500へと基盤を広げた。SW500は7750と互換性の高い構成を持ち、設計思想を共有する。現在のキャリバー16は、世代や個体によってETA系・ゼリッタ系のいずれかを基盤とする。
技術解説
キャリバー16の機構を理解する鍵は、クロノグラフの制御と伝達にある。多くの高級クロノグラフがコラムホイールで操作を切り替えるのに対し、7750系はカムとレバーを用いる。打ち抜きで成形される異形のカムが回転し、レバー群を押し引きして始動・停止・復針を司る。復針では、ハート形カムをハンマーが叩き、各針を瞬時に零へ戻す。コラムホイールに比べ部品点数を抑えやすく、量産と保守に適した構成である。操作の感触よりも、堅牢さと整備性に軸足を置いた設計といえる。
計時の伝達にはオシレーティングピニオンが用いられる。両端に歯車を持つ軸が傾くことで、4番車側とクロノグラフ秒側が噛み合う。この方式は咬合の応答が速く、秒針の飛びや振り角の低下を抑えやすい。垂直クラッチや水平クラッチとは異なる、簡潔で経済的な解法である。
表示面では、12時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドを配する。3時位置には日付と曜日の窓を備え、いわゆる12-6-9のトリコンパックス配置をなす。日付と曜日はリューズ操作で個別に早送りでき、曜日は二言語表示に対応する仕様も多い。中央のクロノグラフ秒針と合わせ、視認性の高い構成である。
調速はテンプ(振り子に相当する往復体)と脱進機が担い、振動数は28,800vph(4Hz)。1時間あたり28,800回の振動は運針を滑らかにし、外乱への復元力を高める。耐衝撃にはインカブロックが組み込まれる。動力源の香箱はひとつで、ぜんまいの巻き量がパワーリザーブを規定する。自動巻には片方向巻き上げのローターが用いられ、巻き上げ方向以外では自由に回る。ローターは比較的大型で重く、巻き上げ効率を確保する一方、回転時の存在感も生む。
石数は25石、パワーリザーブはおおむね42〜48時間である。仕上げ等級によりヒゲゼンマイや受石の質、注油と緩急の追い込みが変わり、日差の許容も異なる。最上位はCOSCクロノメーター認定に適合する。7750系は一部に合成樹脂(デルリン)製の部品を用い、製造性と整備性を両立させてきた。タグ・ホイヤーは基盤となるムーブメントに独自のローターや装飾を施し、自社の製品として仕立てる。クロノグラフ機構は一体で組まれ、計時部の調整には相応の熟練を要するとされる。部品供給と整備の体制に優れる点は、半世紀にわたり多くのブランドが採用してきた理由のひとつとされる。