502.3 DR1
フレデリック・ピゲ70/71系を礎に、偏心ローターとシリコンで磨かれたBreguetの超薄型自動巻——Cal.502.3 DR1
Cal. 502.3 DR1は、Breguetの超薄型自動巻キャリバーである。1970年前後にフレデリック・ピゲが手がけたCal.70/71系をルーツとし、テンプ脇へ寄せた偏心ローターによって、ベース機で厚さ2.4mm級の薄さを実現した基幹機の派生にあたる。毎時21,600振動 (3Hz)、37石、パワーリザーブ約45時間。緩急針を持たないフリースプラングテンプと、シリコン製ヒゲゼンマイを備え、日付・パワーリザーブ表示・ムーンフェイズを担う。クラシック7137などのドレスウォッチに載り、オープン香箱と偏心ローターを通じて、薄型機構の構造をそのまま見せる設計が特徴である。
| Maker | Breguet |
|---|---|
| Reference | 502.3 DR1 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 35 石 |
| Power reserve | 45 h |
| Movement ⌀ | 27.1 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
| Date | Date |
| Astronomical | Moonphase |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
1. フレデリック・ピゲ70/71系という出自
Cal. 502.3 DR1の設計の核は、Breguet自身ではなく、エボーシュ専業のフレデリック・ピゲにさかのぼる。同社が1970年前後に世へ出したCal.70、およびその改良版であるCal.71は、直径27mm前後・厚さ2.4mmという超薄型の自動巻ムーブメントであった。当時、自動巻を薄く作るには構造上の壁があった。リューズから時刻合わせと巻き上げを伝えるキーレスワークまわりの歯車が厚みの下限を決めてしまい、その真上にローターを重ねると全体が厚くなる。ピゲはローターの径を小さくし、機構の中心からずらして配置することで、この壁を回避した。同時代には、薄型自動巻として知られるジャガー・ルクルトCal.920やオーデマ・ピゲCal.2120 (いずれも2.45mm前後) があり、設計思想の異なる超薄型機が併存していた。
2. ダニエル・ロスと「502」への昇華
Breguetは1980年代から、このピゲ系をCal.502として採用してきた。フレデリック・ピゲがSwatch Group傘下へ入る以前からの関係であり、後に両者は同じグループに属することになる。Breguetにおけるこのムーブメントの位置づけを決定づけたのが、1970年代後半に現代Breguetの様式を築いた時計師ダニエル・ロスである。彼が手がけたRef.3137は、自動巻と長いパワーリザーブを備えた18世紀の懐中時計「No.5」に着想を得た一本で、非対称の文字盤レイアウトは偏心ローターの構造とも呼応していた。この3137が、現行のRef.7137へと引き継がれていく。
3. 「.3」世代への更新とDR1
Cal.502は2000年代以降、調速機構を中心に手が入り、Cal.502.3となった。振動数は毎時18,000振動から21,600振動 (3Hz) へ引き上げられ、緩急針を持たないフリースプラングテンプと、シリコン製ヒゲゼンマイが導入された。Breguetは2006年、Cal.591Aを積むRef.5197でシリコン部品を早期に実用化したブランドの一つであり、この素材は薄型の古典機にも波及した。DR1は、その502.3を土台に、日付・パワーリザーブ・ムーンフェイズを加えた構成を指す呼称である。小秒針付きのSD、永久カレンダーのDRP1、曜日表示などを持つQSE1といった姉妹バリエーションが、同じ基盤を共有している。
技術解説
偏心ローターと薄型化の理屈
このキャリバーを一目で識別させるのが、機構の中心から外れた位置で回る偏心ローターである。自動巻ローターを通常より小径とし、リューズまわりのキーレスワーク(時刻合わせと巻き上げの歯車)の真上を通らないよう、片側へ寄せている。ローターの回転軸が、針を駆動する中心の輪列と重ならないため、自動巻機構ぶんの厚みを大きく削ることができる。この発想により、ベースのCal.502.3は厚さ2.4mmという薄さに収まる。マイクロローターという選択肢もあるなか、あえて中型のローターを偏心配置したのは、薄さと巻き上げ効率の両立を狙ったためとされる。
調速機構——21,600振動、フリースプラング、シリコン
テンプは毎時21,600振動 (3Hz) で時を刻む。4Hz (28,800振動) 機に比べ振動数は控えめで、消費エネルギーが小さく、薄型ゆえに小型となるテンプに無理がない。そのテンプには緩急針を持たないフリースプラング方式が採られ、テンプ側のネジで慣性モーメントを調整する。可動部が減るぶん、外乱に対する安定性が高まる。ヒゲゼンマイにはシリコンが用いられる。シリコンは磁気の影響を受けず、金属より軽く、温度変化や腐食にも強い。日常的な磁気環境に置かれてもヒゲが帯磁して精度を乱すおそれが小さく、薄型機の弱点になりやすい外乱耐性を底上げしている。Breguetは平ヒゲにとどまらず、シリコンで立体的なブレゲ巻き上げ(オーバーコイル)を成形する技術も育ててきた。この世代の精度は、特定の認定よりも、シリコンヒゲと緩急針を排したフリースプラング構造という調速機の素性に支えられている。
香箱・輪列・仕上げ
香箱はオープンバレル構造で、地板側から主ゼンマイの巻き締まりが見える。これがCal.502系の意匠的特徴の一つであり、パワーリザーブ約45時間という値は、この薄型の香箱容量と機構効率の釣り合いの上に成り立つ。DR1では、この土台に日付、パワーリザーブ表示、そして月相と月齢を示すムーンフェイズが組み合わされる。仕上げは、コートドジュネーブ、面取り(アングラージュ)、ギヨシェ装飾を施した金無垢ローターを基調とし、上位モデルでは地板やブリッジに手彫りのエングレービングが加えられる。37石という石数は、これらの輪列と複雑機構を支える軸受けの数を示している。これらの意匠は、サファイアシースルーバックを通して、薄型機の構造とともに鑑賞できるよう仕立てられている。