03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
高振動クロノグラフの設計
Cal. F388Bの母体は、2014年(2015年とする資料もある)に登場したCal. F385である。F385は、フィフティ ファゾムス バチスカフ クロノグラフ フライバックに初搭載された、ブランパンの自動巻クロノグラフキャリバーである。毎時36,000振動 (5Hz) という高振動を採り、計測精度を1/10秒まで高めた点に特徴がある。同時代の汎用クロノグラフの多くが毎時28,800振動 (4Hz) であったなかで、高振動化はブランパンが選んだ明確な方向性であった。
高振動は精度面で有利な一方、部品への負荷や注油の維持といった課題を伴う。F385はシリコン製ヒゲゼンマイを備え、直径31.80mm・厚さ6.65mm、322部品・37石、パワーリザーブ50時間で構成される。
フレデリック・ピゲからの系譜
ブランパンのクロノグラフには長い背景がある。現在のムーブメント製造部門は、かつてのフレデリック・ピゲに連なる。同社が1988年に発表したCal. 1185は、コラムホイールと垂直クラッチを備える薄型自動巻クロノグラフで、オーデマ ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンにも供給された、高級クロノグラフの基準的存在であった。1996年にはフライバック機構を加えたCal. F185が続く。フレデリック・ピゲは2010年頃にブランパンへ統合されたとされる。
F385は、この1185以来の設計思想を受け継ぎつつ、高振動とシリコン部品で現代的に再構築したキャリバーと位置づけられる。
エア・コマンドへの展開
F385から派生したのがCal. F388Bである。2019年、1950年代のパイロットクロノグラフを再解釈した「エア・コマンド」の復刻モデルAC01-1130に初搭載された。F388Bは母体からカレンダー機構を省き、35石の構成を採る。初搭載のAC01では18Kレッドゴールドの自動巻錘がプロペラ形に造形され、航空時計としての主題を映す。
その後、2022年の36.2mmのエア・コマンド向けにCal. F188B(255部品・35石、シリコン製ヒゲゼンマイ)も用意され、二つのキャリバーが同一コレクションの二つのケースサイズを支える構成となっている。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
機構の核心は、毎時36,000振動 (5Hz) で動作する高振動テンプである。1秒間に10回振動するため、クロノグラフ秒針は1秒を10分割して進み、計測の最小単位は1/10秒に達する。母体のF385は、現代のフィフティ ファゾムス バチスカーフに最初に加わった複雑機構であるフライバック・クロノグラフのために用意されたキャリバーで、F388Bはその設計をエア・コマンドへ移したものにあたる。高い振動数は、テンプが外乱を受けても元の周期へ復帰しやすく、姿勢差や衝撃への安定性を高める。一方で輪列とテンプには大きな負荷がかかるため、軸受や注油、テンプ素材の設計に相応の配慮が求められる。
ヒゲゼンマイ(テンプの往復運動を司る渦巻きばね)にはシリコン製を採用する。シリコンは磁気の影響を受けず、温度変化による特性の変動も小さい。エッチングで成形するため、形状精度も高い。金属製のヒゲゼンマイは磁場で精度が乱れやすいが、シリコン製ではその懸念が小さい。軟鉄製の内ケースに頼らずとも、ムーブメント自体が一定の耐磁性を備える点に利点がある。
クロノグラフの制御は、コラムホイール(柱状歯車)とバーチカルクラッチ(垂直クラッチ)の組み合わせによる。コラムホイールは始動・停止・復帰の各操作を司る部品で、カム式に比べて操作感が滑らかで、機能の切り替えが正確とされる。バーチカルクラッチは、クロノグラフ秒針の連結を上下方向の摩擦で行う方式である。水平クラッチに見られる始動時の針飛びがなく、計測中の振幅低下も小さい。このため、クロノグラフを常時作動させても精度への影響が抑えられる。
フライバック機構を備える点も特徴である。作動中のクロノグラフを、4時位置のボタン一押しで瞬時に復帰・再始動できる。停止・復帰・始動の三動作を一動作にまとめる機構で、連続する事象の計測に適する。
F388Bは、母体であるCal. F385からカレンダー機構を省いた構成を採る。F385が37石・322部品で日付表示を備えるのに対し、F388Bは35石とされ、日付を持たない。F385の基本寸法は直径31.80mm、厚さ6.65mmである。パワーリザーブは約50時間である。
仕上げにも自社製らしい配慮がある。搭載モデルのエア・コマンドでは、2019年の AC01 でローターをプロペラ形に造形し、2021年以降のモデルではムーブメントの受けと同じ仕上げを施したスケルトン化したローターを用いる。