設計思想
限定から定番へ
エア・コマンドは、2019年に500本限定のAC01-1130-63Aとして現代に蘇った。1950年代にブランパンが米空軍向けに試作したとされる希少なクロノグラフを下敷きにした復刻で、限定数は短期間で完売した。手応えを得たブランパンは、この系譜を一度きりの記念モデルで終わらせず、常設コレクションへと育てる道を選ぶ。2021年11月に発表されたのが、通常生産となる第一弾、チタンのAC02-12B40と18KレッドゴールドのAC02-36B40である。本機はその青文字盤・チタンモデルにあたる。
鋼の復刻から、現行の解釈へ
前任のAC01が目指したのは、退色した夜光や黒基調の文字盤による、ヴィンテージへの忠実な再現だった。対してAC02は、同じケース設計を保ちながら配色を一新する。サンバーストの青文字盤と青セラミックベゼルは、原型の軍用色とは別の、2020年代の感覚に寄せた選択である。素材もステンレススチールからグレード23チタンへ移り、装着時の軽さが性格を変えた。一方で、42.5mmというケース径、ボックス型サファイアクリスタル、フライバック機構と航空用のカウントダウンベゼルは引き継がれた。変えた部分と残した部分の線引きに、このRefの狙いが表れている。
「手の届くエア・コマンド」という位置
AC02-12B40-63Bの意味は、希少性ではなく入手しやすさの側にある。限定の枠を外れ、チタンによって日常的に着けやすくなったことで、エア・コマンドは収集対象から常用できる道具時計へと軸足を移した。末尾の-63Bはフォールディングクラスプ仕様を指し、ピンバックル仕様の-63Aと対になる。ケース素材違いの兄弟として、同時発表のレッドゴールド機AC02-36B40が並ぶ。
その後の展開
2022年には、ケース径を36.2mmに縮めた姉妹サイズのAC03が加わった。こちらは径の縮小に合わせて3HzのキャリバーF188Bを積み、42.5mmの本機が積む5HzのF388Bとは駆動系が異なる。2024年にはグレード23チタンのブレスレットが選択肢に加わり、革ストラップ前提だった本機の表情にもうひとつの方向を与えた。同年には軍用色を思わせる緑文字盤の限定モデルAC02-12B53も登場している。42.5mmチタン・青文字盤のAC02-12B40は、こうした派生が広がるなかでも、常設エア・コマンドの基準点であり続けている。
意匠分析
ケースはグレード23チタンの削り出しで、表面はサテンブラッシュ仕上げ、ラグの稜線にはポリッシュが入る。42.5mmという径は鋼のAC01から変わらないが、チタン化によって手首にかかる重さは目に見えて軽くなった。フライバック機構を収めながらケース厚は13.7mmに収まる。
ベゼルは両方向回転式で、青セラミックのインサートを持つ。数字は反時計回りに振られ、目的地到着までの残り時間を示すカウントダウン用途を想定する。経過時間を計るダイバーズベゼルとは逆の発想で、航空計器としての出自がここに残る。
文字盤はサンバースト仕上げの青。大ぶりのアラビア数字とインデックス、太い針には夜光が塗られ、視認性を確保する。前任AC01が退色を模した黄ばんだ夜光を用いたのに対し、本機は白い現行夜光を選び、青文字盤との対比を明快にした。クロノグラフは30分計と12時間計の2カウンター構成で、外周にはタキメーターを備える。風防は縁を盛り上げたボックス型サファイアで、原型のアクリル風防の膨らみを現代の素材で写し取っている。
シースルーバックから覗くキャリバーF388Bは、コラムホイールと垂直クラッチを併せ持つ自社製フライバックである。テンプとヒゲゼンマイにシリコンを用い、磁気の影響を受けにくい。毎時36,000振動 (5Hz) の高振動により、計測は1/10秒まで刻める。AC01が積んだプロペラ型ローターは姿を消し、本機では金色のローターに替わった。
ストラップは白ステッチの青カーフ。-63Bはチタン製フォールディングクラスプで留める仕様で、簡素なピンバックルの-63Aと履き心地が分かれる。2024年以降はチタンブレスレットも選べるが、革と尾錠の組み合わせは本機本来の姿に近い。
系譜と歴史
エア・コマンドの原型は、1950年代後半にブランパンが米空軍向けに試作したとされるフライバック・クロノグラフにさかのぼる。米代理人アレン・V・トルネックを通じて軍に提案され、製作は十数本程度にとどまったと伝わる。量産には至らず、現存数の少なさから収集家の間で語り継がれてきた。発表年は1956年とも1957年とも言われ、確定していない。
現代版の最初の一歩は2019年で、500本限定のAC01-1130-63A(ステンレススチール)として復刻された。これを受けて、2021年11月、ブランパンは通常生産モデルとしてエア・コマンドを再構成する。発表されたのはチタンのAC02-12B40と18KレッドゴールドのAC02-36B40の2型で、いずれも青文字盤・青セラミックベゼルを共有する。本機AC02-12B40-63Bは、このチタン型のうちフォールディングクラスプ仕様にあたり、ピンバックル仕様は-63Aの番号で区別される。なお発表は主要な時計見本市の会期外で、独自の発表として行われた。
その後、2022年には径を36.2mmに縮めた姉妹サイズのAC03が加わった。2024年10月にはグレード23チタンのブレスレットが選択肢として追加され、同年には42.5mm径で緑文字盤の限定モデルAC02-12B53(200本)も登場している。AC02-12B40は限定枠ではなく、2020年代半ば時点でも継続して現行カタログに掲載されている。