F185
FP1185を母体に、コラムホイールと垂直クラッチでフライバックを成立させた、ブランパンの自動巻クロノグラフ機
F185は、ブランパンが擁する自動巻フライバック・クロノグラフ機である。母体は、1988年にフレデリック・ピゲが発表したCal. 1185。コラムホイールと垂直クラッチを統合し、当時最も薄い部類にあった高級クロノグラフの基幹設計を継ぐ。振動数は21,600vph (3Hz)、37石、パワーリザーブは40時間、部品点数は308。一体型のフライバック機構により、計測中のリセットと再スタートを単一操作で行える。現行機はシリコン製ヒゲゼンマイを採用し、耐磁性を高めた。フィフティ ファゾムス クロノグラフ フライバックやレマン フライバックに搭載される。
| Maker | Blancpain |
|---|---|
| Reference | F185 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Jewels | 37 石 |
| Power reserve | 50 h |
| Movement ⌀ | 26.2 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel, Flyback |
系譜と歴史
FP1185という母体
F185の物語は、1988年に発表されたフレデリック・ピゲのCal. 1185に始まる。設計を主導したのは、ヴァルジュー7750の父として知られるエドモン・カプトとされる。このムーブメントは、コラムホイール(操作を司る柱状の歯車)と垂直クラッチ(クロノグラフ秒針を滑らかに駆動する機構)を、薄い一枚の構造に統合した点に特徴がある。厚さは約5.5mmで、当時の自動巻クロノグラフとしては最も薄い部類にあたる。
この薄さと完成度ゆえに、Cal. 1185は高級時計界の共通基盤となった。ブランパンを筆頭に、オーデマ ピゲ(Cal. 2385)、ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲ、そして改修版を求めたオメガなどが採用している。汎用機でありながら高級機という、稀有な位置を占めたムーブメントである。
ブランパンのフライバックとして
このCal. 1185にフライバック機構を組み込んだ派生が、Cal. F185である。1996年頃に登場したと伝わり、日付表示をスモールセコンドの小秒針盤内へ移したのが外形上の特徴となる。フライバックは、作動中のクロノグラフを一押しで瞬時にゼロ復帰させ、そのまま再計測へ移す機能で、連続した時間計測の手数を省く。
1992年、ブランパンとフレデリック・ピゲはスウォッチ グループの傘下に入る。その後フレデリック・ピゲは2010年頃にブランパンへ統合され、F185は名実ともに同社の自社製機となった。型番の「F」は、その出自を今に伝える符牒である。
現代への継承
ブランパンは2014年、まったく新設計の高振動フライバック機Cal. F385(5Hz)を投入した。F385はF185の派生ではなく独立した世代であり、両者は現行ラインで併存する。45mm径のフィフティ ファゾムス クロノグラフ フライバックがF185を、43mm径のバチスカフ クロノグラフ フライバックがF385を担うという棲み分けである。
F185自体も初期から手が加えられ、後年の改良でヒゲゼンマイにシリコンが採用された。型番の古さを感じさせない現役機として、いまなお生産が続く。
技術解説
コラムホイールと垂直クラッチ
F185の心臓部は、コラムホイールと垂直クラッチの組み合わせにある。コラムホイールは、円筒状に並んだ柱の回転でクロノグラフの始動・停止・復帰を制御する歯車で、カム式に比べ操作感が滑らかとされる。垂直クラッチは、クロノグラフ秒針への動力を上下方向の摩擦で伝える方式である。水平クラッチに見られる始動時の針飛びがなく、計測を続けても精度や摩耗への影響が小さい。母体のCal. 1185は、この二つを薄型のうちに同居させた点で評価された。上部プレートはクロノグラフ機構の大半を覆い、外から見える可動部はコラムホイールにほぼ限られる。
一体型リセットハンマーとフライバック
リセット機構には、秒・分・時の3つの積算系を一本で同時にゼロへ戻す一体型のハンマーが用いられる。省スペースかつ確実な復帰を狙った設計である。フライバック作動時には、クロノグラフを止めずに針を瞬時にゼロへ戻し、ボタンを離すと同時に再計測へ移る。この一連の動作が、コラムホイールとハンマーの連携によって成立する。
構成とスペック
振動数は21,600vph (3Hz)。1秒を6分割する穏当な歩度で、薄型機構との両立を図った設定である。石数は37石、部品点数は308、厚さは5.48mmにとどまる。自動巻のローターはボールベアリングで支持され、片方向に巻き上げる。FP1185系の伝統に従い、ローターには金が用いられるとされる。緩急の微調整にはトリオビス機構を備える。5.48mmという薄さは、ダイバーズでありながら過度に厚くならないケース設計を支える。文字盤側は、6時位置にスモールセコンドと日付、3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計を配する。12時間積算計は、垂直クラッチの回転を受けて歩進する副列で駆動され、ムーブメント内に統合される。盤面に頼らず内部で時を積算する構成は、母体設計が備えた美点である。
耐磁と保護
現行機はヒゲゼンマイにシリコンを採用する。シリコンは非磁性ゆえ磁界の影響を受けにくく、温度変化にも強い。これにより、軟鉄インナーケースに頼らずに耐磁性を確保し、シースルーバックから機構を見せられる。耐衝撃機構にはKIFウルトラフレックスを備える。加えて、時刻合わせの際に過大な力が機構へ及ぶのを防ぐ「セキュアード ムーブメント」を採用し、日常使用での信頼性を高めている。仕上げには手作業を含む装飾が施され、薄型ながら見せる機構としての性格を併せ持つ。