69F9
2012年、フレデリック・ピゲの自動巻ラトラパンテを受け継ぐ、ブランパンL-Evolutionの基幹クロノグラフ
Cal.69F9は、2012年にブランパンが発表した自動巻クロノグラフである。コラムホイールと垂直クラッチを基盤に、フライバック、スプリットセコンド (ラトラパンテ)、ビッグデイトを統合する。409部品・44石で構成され、パワーリザーブは40時間。直径32mm、厚さ8.4mmに収まる。モータースポーツに着想したL-Evolution Chronographe Flyback a Rattrapante Grande Dateに初搭載され、ランボルギーニ・スーパートロフェオとの提携を背景に持つ。母体フレデリック・ピゲが築いた薄型クロノグラフの系譜上に立つ。
| Maker | Blancpain |
|---|---|
| Reference | 69F9 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Jewels | 44 石 |
| Power reserve | 40 h |
| Movement ⌀ | 32 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
| Date | Big Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel, Flyback, Rattrapante |
| Astronomical | Moonphase |
系譜と歴史
モータースポーツが生んだ複雑機構
ブランパンがCal.69F9を世に出したのは2012年である。搭載先はL-Evolution Chronographe Flyback a Rattrapante Grande Dateで、同社のモータースポーツ路線を象徴するモデルであった。背景には、ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオへの関与がある。世界最速のワンメイクレースとして知られるこのシリーズとの提携が、カーボンファイバーのダイヤルやレーシングホイールを模したローターといった造形を生んだ。当時の最高経営責任者マルク・エイエック自身がレースに親しむ人物であり、その嗜好も投影されている。8時位置のスプリットセコンド・プッシャーは給油口を、スモールセコンドの輪郭は盾形のエンブレムを想起させる意匠とされる。
フレデリック・ピゲが築いた薄型クロノの系譜
Cal.69F9の技術的系譜は、ブランパンの母体であるフレデリック・ピゲに遡る。同社は1988年に自動巻コラムホイール・クロノグラフCal.1185を発表した。厚さ5.5mmは当時の自動巻クロノグラフとして最薄級であり、垂直クラッチとボールベアリング・ローターを備えた先進的な設計であった。翌1989年には、その派生としてCal.1186が登場する。これは自動巻のスプリットセコンド機構を備えた最初のムーブメントとされ、ラトラパンテという複雑機構を自動巻で実現した点で画期的であった。フレデリック・ピゲは2010年にマニュファクチュール・ブランパンへ統合され、その技術資産は同社へ受け継がれた。Cal.69F9のスプリットセコンドとフライバックは、この蓄積の延長線上にある。
L-Evolutionファミリーの中での位置
L-Evolutionのクロノグラフには、複数の近縁キャリバーが存在する。ビッグデイト付きフライバック・クロノグラフのCal.68F5は、スプリットセコンドを持たない簡潔な構成である。これに対しCal.69F9は、ラトラパンテ機構を加えた最も複雑な一員に位置づけられる。両者を比べると、69F9は部品点数で約90点多く、直径も6mmほど大きい。レマンに搭載されたCal.69F8など、近縁のフライバック系キャリバーとも設計思想を共有する。69F9は、この一族の中で複雑機構の頂点を担う存在である。
技術解説
Cal.69F9は、コラムホイール式の自動巻クロノグラフである。クロノグラフの起動・停止・復帰を司る制御には、カム式ではなくコラムホイール (柱状歯車) を採用する。柱の高さで各レバーの動きを正確に振り分ける方式で、プッシャーの操作感と動作の精度に優れるとされる。動力を計時輪列へ伝える連結機構には、垂直クラッチを用いる。水平クラッチで生じやすい起動時の秒針の飛びを抑え、滑らかな始動を実現する機構である。クラッチが計時を切り離している間も主輪列への負荷が小さく、振幅の低下を抑えやすい点も利点とされる。
最大の特徴は、スプリットセコンド (ラトラパンテ) 機構である。中央のクロノグラフ秒針の上に、もう一本のスプリット針が重ねて配置される。8時位置のプッシャーを押すとスプリット針が静止し、走り続ける秒針との間で中間時間 (スプリットタイム) を読み取れる。再度押せば、静止していた針が走行中の秒針へ瞬時に追いつく。この追いつく動作が、ラトラパンテ (フランス語で追いつくの意) の名の由来である。二本の針を同調させ、また切り離す制御には、ハートカムと一対の挟み込みレバーが介在する。
フライバック機構も併せ持つ。計測中に4時位置のプッシャーを押すと、針が瞬時にゼロへ戻り、そのまま新たな計測を開始する。停止・復帰・再始動を一動作で行えるため、連続したラップ計測に適する。日付表示は、二つの窓を併用するビッグデイトである。二枚のディスクで二桁を分担して表示する方式で、単窓の日付よりも大きく明瞭な数字が得られる。
自動巻のローターはボールベアリングで支持され、L-Evolutionではレーシングホイールを模した造形が与えられている。計時系はスモールセコンドと30分積算計で構成され、スモールセコンドの小ダイヤルは盾形の輪郭を持つ。ムーブメントは409の部品と44石から成り、パワーリザーブは40時間に及ぶ。直径32mm、厚さ8.4mmという寸法は、ラトラパンテとビッグデイトを同居させた複雑機構としては、よくまとまった設計といえる。約409点という部品点数は、二つの複雑機構を一つの土台へ統合した密度を物語る。
脱進機の振動数は、母体フレデリック・ピゲに由来する薄型クロノグラフ系統が基調とする21,600vph (3Hz) を踏襲するとされる。低めの振動数は、薄型クロノグラフの伝統に連なる選択である。仕上げの面では、サファイアクリスタルのケースバックを通して機構を鑑賞できる。L-Evolutionでは部品にビーズブラストやコーティングを施し、伝統的な装飾とは異なる硬質で現代的な表情を与えているとされる。