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CALIBER · A. LANGE & SöHNE

L931.3

手巻 Handwound Analog

1997年デビュー、矩形ケースに同形のムーブメントを宿した、ランゲ・カバレ専用の手巻キャリバー

L931.3
movement · L931.3
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

Cal. L931.3は、A. Lange & Söhneが1997年にカバレ用として発表した、手巻のフォーム(矩形)ムーブメントである。1994年のアルカーデ用Cal. L911.4を基礎に、地板と3/4プレートを矩形へ再設計した派生にあたる。振動数21,600vph (3Hz)、パワーリザーブ42時間、石数30石。表示はアワー、ミニッツ、スモールセコンドと、ランゲ復興期を象徴する大型日付。未処理ジャーマンシルバー製の地板と手彫りの天輪受けが、グラスヒュッテ流の伝統的仕上げを体現する。同系統には月相表示を加えたCal. L931.5(カバレ・ムーンフェイズ用)がある。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerA. Lange & Söhne
ReferenceL931.3
TypeHandwound
DisplayAnalog
Frequency21,600 bph (3 Hz)
Jewels30 石
Power reserve42 h
HandsHours, Minutes, Small Seconds
DateBig Date
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. 1997年、矩形へのこだわり

A. Lange & Söhneは1994年、東独崩壊後の操業再開を象徴する4本のモデル — ランゲ1、サクソニア、トゥールビヨン・プール・ル・メリット、アルカーデ — を世に問うた。このうちアルカーデのみが非円形ケースを採用しており、長方形ながら端部が緩やかに丸まったピル状の形状を持つ。同モデルに搭載されたCal. L911は、ブランド復興後における初の矩形系ムーブメントであった。

1997年、バーゼル(現Watches and Wonders)でカバレが発表される。アルカーデの曲線を排し、より直線的な矩形へと振り切ったケースを纏うこのモデルに、新キャリバーCal. L931.3が搭載された。設計の出発点はCal. L911.4だが、地板と3/4プレートの形状をカバレのケース内寸に合わせて再設計し、文字盤側のレイアウトには大型日付窓を組み込んでいる。

2. 「真のフォーム・ムーブメント」という選択

矩形ケースを纏う時計の多くは、円形ムーブメントを矩形ケースの中央に据え、空隙をブランクで埋める構造を採る。これに対しCal. L931.3は、地板そのものを矩形へと加工した本格的なフォーム・ムーブメントである。文字盤裏側のレイアウトはケース形状と一体化し、サファイアバックから見える機械の輪郭そのものが矩形を成す。

このアプローチは、製造効率という観点では円形ムーブメントの転用に劣る。一方で、機械の意匠とケースの意匠を一致させる設計思想は、ランゲがブランド復興以降一貫して掲げてきた「機械の見せ方への執着」と整合的なものといえる。

3. 派生としてのL931.5

2004年、Cal. L931.3に月相表示を加えたCal. L931.5が登場し、カバレ・ムーンフェイズ(Ref. 118.021、118.032)に搭載された。月相車を追加するため石数は31石へ増え、スモールセコンドの位置に月相表示が同居する文字盤レイアウトが採られている。この月相は、毎日17時から19時の間に一日分が一気に送られる従来式の歩進方式であり、現行ランゲが採用する連続駆動方式以前の世代に属する。カバレ・ムーンフェイズは2009年、カバレ本体は2011年頃に生産を終え、L931系のキャリバーはランゲのカタログから姿を消した。

4. 矩形ムーブメントの系譜のなかで

矩形ケースに矩形ムーブメントを宿すという発想は、20世紀初頭の懐中時計から腕時計への移行期に各社が試みた古典的な構成である。現代において自社製の矩形ムーブメントを継続的に生産するメーカーは限られており、Cal. L931.3はその数少ない例の一つに数えられる。なお、2008年に登場したカバレ・トゥールビヨン、および2026年のカバレ・トゥールビヨン・ハニーゴールドに搭載されるCal. L042.1は、L931系列とは独立して開発された別系統のキャリバーであり、本機の直接の派生ではないとされる。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

構造の骨格 — 3/4プレートと素材

Cal. L931.3の機械は、グラスヒュッテ伝統の3/4プレート構造を骨格とする。3/4プレートとは、地板の上に被さる大型のブリッジが輪列の大半を一枚の板で覆う構成であり、各部品を個別ブリッジで支えるスイス式の構造と対比される。剛性とアッセンブリの統一感に優れる反面、組み立て時には複数の歯車を同時に位置決めする必要があり、熟練を要する。

素材は、未処理のジャーマンシルバー(ニッケル銀、Maillechortとも)である。表面処理を施さないため経年で渋い金色を帯びた銅色へと酸化進行する。鍍金処理を施した黄銅製プレートを用いる多くのスイス製ムーブメントとは異なる素材選択であり、ランゲがグラスヒュッテ復古主義を体現するために採用したものとされる。

振動と調整 — テンプとヒゲゼンマイ

テンプ(振動子)は、外周に金製の調整ねじを配したスクリューバランス(ねじ天輪)である。振動数は21,600vph (3Hz)で、現代の主流である28,800vph (4Hz)よりも一段低い。低振動数の選択は、衝撃時のリスク低減、エネルギー消費の抑制、そして古典的なクロノメータ調整との親和性に寄与すると伝わる。

調整はスワンネック式の緩急針機構(Schwanenhalsfeinregulierung)で行う。微調整ねじを締緩することで緩急針を白鳥の首状のバネに対し前後させ、ヒゲゼンマイの有効長を細かく変化させる構造である。

大型日付 — ランゲDNAの中核

文字盤12時位置の大型日付は、ランゲ復興期の象徴であり、特許を取得した二枚ディスク構造による。1の位を表示する小ディスクと、十の位を表示する環状クロスを組み合わせ、二つの開口を隣接させることで、通常の機械式日付窓の約三倍の視認サイズを得る。日付送りは深夜0時付近で瞬時に切り替わる瞬間日送り式である。

仕上げと装飾

機構を覆う3/4プレートには、グラスヒュッターシュトライフェン(Glashütter Streifen、独自流派のジュネーブ模様)が施される。地板の周縁および各橋脚部のエッジは、手作業による斜面磨き(アングラージュ)が施され、内角の鋭利な処理は熟練手作業の証である。

3つの石(動力香箱の受け石を含む)は、金製シャトンに焼戻しブルースクリューで固定される。シャトンとは石の周囲を装飾的な金属環で支える古典的な留め方で、量産機ではほぼ用いられない。脱進機のアンクルとガンギ車の上部キャップには黒磨き(ポリ・ノワール、ミラー仕上げ)が施される。

天輪受け(テンプブリッジ)には、ランゲ社の伝統に従い、各個体の組立担当者によるフリーハンド彫刻が施される。同社のキャリバーで標準仕様の装飾であり、模様は擬似ではなく実際の手彫りである。

パワーリザーブと機構効率

パワーリザーブは42時間。同時代の高性能手巻キャリバー(60〜72時間級)と比べれば短い水準にあるが、これは香箱容量の制約と、低振動数による消費エネルギーとのバランスに起因するものとみられる。矩形ケースの内寸は香箱の直径に物理的な上限を課すため、フォーム・ムーブメントとして円形機構と同等のリザーブを確保することは難しい。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 1 本のリファレンス

This caliber appears in 1 references