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CALIBER · A. LANGE & SöHNE

L911.4

手巻 Handwound Analog

1994年デビュー、初代アーケードを駆動した手巻角形キャリバー。スワンネック式微調整装置と手彫りテンプ受けを擁する現代ランゲの嚆矢

L911.4
movement · L911.4
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

L911.4は、A.ランゲ&ゾーネが現代再興と同時の1994年に発表した手巻レクタンギュラーキャリバーである。25.6×17.6mm、厚さ4.6mmの矩形プレートに30石を擁し、毎時21,600振動(3Hz)、パワーリザーブは42時間。アウトサイズデイト(大型日付)とスモールセコンドを備える。ランゲ復興のデビュー4作のひとつ「アーケード」初代Ref.103.001を駆動するため設計され、後の角形モデル「カバレ」用Cal.L931の母体ともなった。3/4プレート、手彫りテンプ受け、スワンネック式微調整装置など、ランゲ伝統の意匠を継承する。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerA. Lange & Söhne
ReferenceL911.4
TypeHandwound
DisplayAnalog
Frequency21,600 bph (3 Hz)
Jewels30 石
Power reserve42 h
Movement ⌀25.6 mm
HandsHours, Minutes, Small Seconds
DateBig Date
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. 1994年、ランゲ復興と四つの試金石

東西ドイツ統一の翌1990年12月7日、ワルター・ランゲは曽祖父Ferdinand Adolph Langeが1845年に創業した時計工房の伝統をグラスヒュッテに再興すべく、新生「A.ランゲ&ゾーネ」を設立した。4年の準備期間を経た1994年10月24日、ドレスデン城の記者発表会において、ブランドは4作のタイムピースを世に問うた。トゥールビヨン プール・ル・メリット、ランゲ1、ザクソニア、そしてアーケードである。

これら4作それぞれに専用キャリバーが割り当てられ、L911はアーケードのために起こされた。ラウンド型ムーブメントが主流であった現代高級時計市場において、ケース形状そのものに合わせた専用ムーブメントを起こすという選択は、ブランドのアイデンティティを「妥協なき内製」の方角へと定めるものでもあった。

2. 矩形ムーブメントという挑戦

L911は、現代ランゲが手がけた初の矩形ムーブメントである。25.6×17.6mmという小型の矩形寸法に、ランゲ伝統の3/4プレート、手彫りテンプ受け、スワンネック式微調整装置、そしてアウトサイズデイトを統合する設計は、相応の難度を伴ったと推察される。とりわけアウトサイズデイトは、10桁と1桁を別ディスクで表示する独自機構で、十分なトルクと精度を要する。これを限られたプレート面積に組み込んだ点が、L911の設計上の見どころと言える。

ある収集家は、「最も小さく、最初に開発されたL911は、4種のキャリバーの中で最も洗練された一基と言える」との見方を残している。女性向けケース寸法という制約下でブランドの完成度を妥協なく示そうとした意志を、L911は具現化しているとも伝わる。

3. L911系の派生とL931への発展

L911は早い時期から複数のバリエーションを生んだ。最上位仕様がL911.4で、スモールセコンドとアウトサイズデイトを備える。L911.2はスモールセコンドを省いた簡素版であり、初期アーケードRef.104.001(印字インデックスとブルースチール針を採用)を駆動した。さらにL911.3は、初代ザクソニアRef.102.001/102.002に搭載され、矩形ムーブメントを丸型ケースに収めるという特異な構成となった。1997年に裏蓋を透明化する世代へとザクソニアが移行すると、L911.3はラウンド型のL941へと役目を譲ったとされる。

L911の系譜は、1997年バーゼルワールドで発表された角型モデル「カバレ」のキャリバーL931へと引き継がれた。L931は、L911.4のメインプレートと3/4プレートを、カバレのケース寸法(36.3×25.9mm)に合わせて再設計した直系の派生と説明される。型番のL93は1993年の開発開始を示すと推測され、復興期ランゲが矩形フォームに継続的な開発資源を投じていたことを示唆する。アーケードのために設計された小さな矩形プレートは、こうしてランゲ角形系譜の起点として記録されている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

ムーブメント形状と寸法

L911.4は、25.6×17.6mm、厚さ4.6mmの矩形プレートを持つ。一般的なラウンド型キャリバーが直径で寸法を表すのに対し、L911.4は「フォームムーブメント」(case-shaped movement)としての設計思想を、ケース内寸に近い長方形プレートそのもので示している。サファイアシースルーバックから見える光景は、ケース形状とほぼ一致する矩形のムーブメントが視野いっぱいに広がるという、ラウンド型では得難い独特の構図となる。

3/4プレートと地板素材

ランゲの最大の意匠的アイコンである3/4プレートが、矩形へと翻案されている。プレート素材は、グラスヒュッテ時計製造の伝統的地金である未処理ジャーマンシルバー(銅・亜鉛・ニッケル合金)を用いる。ロジウム等のメッキを施さないため、組立から年月を経たムーブメントには独特の艶のあるパティナが生じる。この素材選択は、装飾性のみならず、19世紀のグラスヒュッテ製ポケットウォッチに通じる工芸的継承の意思表示でもある。

アウトサイズデイト機構

12時位置のアウトサイズデイト(Outsize Date、大型日付)は、ランゲのデザインアイコンの一つである。これは、ドレスデンのゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)に据えられた5分時計(Fünf-Minuten-Uhr)に着想を得た意匠と伝わる。10の位と1の位を別ディスクで表示し、両者の組み合わせで日付を読ませる構造は、視認性と意匠性の両立をもたらす。一方、機構面では2枚のディスクを駆動するため通常のカレンダーより高いトルクと切替精度を要し、これをコンパクトな矩形プレートに統合した設計はL911.4の技術的見どころとなる。

テンプ系と微調整機構

テンプは毎時21,600振動(3Hz)で動作する。これは現代の汎用ムーブメントが28,800vph(4Hz)を標準とするのに対して低めの設定で、衝撃耐性よりも仕上げと往年的調律を優先する選択と理解できる。歩度調整は、グラスヒュッテ時計師の伝統意匠であるスワンネック式微調整装置(独語Gänsehals=ガチョウ首)が担う。湾曲した板バネが緩急針を一定方向に押し付け、微細な調整ネジで反対方向へ押し引きする構造で、サブミクロン単位の歩度修正を可能にする。テンプ受けには手彫り彫金が施されており、一基ごとに異なる意匠が刻まれる。

石数とゴールドシャトン

総石数は30石である。このうち3石はランゲの伝統に従って、金製のシャトン(gold chaton)に固定されたうえで、青焼きビス(blued screw)によって地板に締結される。シャトンとブルースクリューの組み合わせは、19世紀の精密ポケットウォッチに由来する古典意匠の継承であり、現代の機能上は装飾的役割が主となる。仕上げ面では、プレート稜線への面取り(アンティロアジュ)、輪列受け表面のグレイン仕上げ、ガンギ車キャップの鏡面研磨など、ランゲがすべての自社製キャリバーに適用する仕上げ規範が、矩形フォームのまま貫かれている。

パワーリザーブと総合的評価

42時間のパワーリザーブは、25.6×17.6mmという小型の矩形寸法に、トルクを要するアウトサイズデイト機構を統合した上での数値である。同時期の小型矩形キャリバーとしては、ジャガー・ルクルトのCal.101(1929年発表、14×4.8mm)など極限的小型化を志向した先例があるが、L911.4はそれらとは異なる方向性に立つ。すなわち、矩形フォームの中に「ランゲの仕上げ規範と機構量」をどこまで詰め込めるかを問う設計であり、3/4プレートと手彫り彫金、スワンネック式微調整、アウトサイズデイト、ゴールドシャトンといった同社のアイコンを矩形に翻案したという点に、その本質的価値が宿る。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

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