L021.1
2010年、ランゲ1ファミリーに初の自動巻きをもたらした、中央ローター式の自社製キャリバー
L021.1は、2010年のSIHHでデビューしたランゲ1 デイマティックのために、A. ランゲ&ゾーネが開発した自社製自動巻きキャリバーである。直径31.6mm、厚さ6.1mm、振動数21,600vph (3Hz)、パワーリザーブ50時間、67石。最大の特徴は、ムーブメント全径におよぶ中央ローター方式の自動巻機構で、21Kゴールド (875) 製のローター中央部に950プラチナの遠心マスを組み合わせる。フリースプラング・テンプ、自社製ヒゲゼンマイ、4枚分割で3/4プレートを構成する独自設計を採用し、ザクセン時計製造の伝統を現代に継承する。
| Maker | A. Lange & Söhne |
|---|---|
| Reference | L021.1 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 67 石 |
| Power reserve | 50 h |
| Movement ⌀ | 31.6 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Big Date, Day |
系譜と歴史
1. 開発の背景:ランゲ1に自動巻きをもたらすという挑戦
A. ランゲ&ゾーネは1990年にドレスデン近郊グラスヒュッテで再興され、1994年発表の初代ランゲ1で世界の知るところとなった。1994年型ランゲ1のCal. L901.0は手巻きで、香箱2基 (ドッペルフェダーハウス) により72時間のパワーリザーブを得る設計であった。以後ランゲ1ファミリーは手巻きを中心に展開されてきた。しかし2000年代に入り、市場からは自動巻き仕様への要望が高まる。問題は、ランゲ1の本質である端正なケース寸法と、左右非対称の文字盤レイアウトを、ローターを内蔵しつつ保てるかにあった。
社内ではすでにラングマティック (Sax-O-Mat) 系統の自動巻Cal. L921系を有していたが、これはモジュール式の構造を採っていた。ランゲ1への搭載にあたっては、モジュール追加では妥協と判断され、ゼロから自動巻機構を組み込んだ専用設計が選ばれる。後年、ランゲのコンプリケーション部門担当者は、ランゲ1の佇まいを損なわない寸法に収めることが最大の課題であったと語っている。
2. 2010年デビューと「内側から設計する」思想
開発は2002年頃に始まったとされる。2010年のSIHHにおいて、初の自動巻ランゲ1としてランゲ1 デイマティックが発表され、その心臓部としてCal. L021.1が公開される。中央ローター方式の採用はA. ランゲ&ゾーネとして初の試みで、ローター中央部の21Kゴールドと外周の950プラチナを組み合わせた構造は、巻き上げ効率と意匠性を両立させる解として周到に設計された。
ケース寸法は直径39.5mm、厚さ10.4mmに収められ、手巻きランゲ1との差は直径で約1mm、厚さで約0.6mmにとどまる。これは、自動巻機構を後付けではなく設計の起点に据えた成果であった。一方で香箱は手巻きランゲ1のツインバレル72時間からシングルバレル50時間に短縮されており、自動巻きならではの設計判断が反映されている。
3. 派生キャリバーと現代における位置
Cal. L021.1は、後継となる派生キャリバー群の基盤ともなった。2021年に発表されたランゲ1 パーペチュアル・カレンダーにはCal. L021.3が搭載され、L021.1の構造をもとに永久カレンダー機構を新規追加した設計とされる。同系統にはランゲ1 トゥールビヨン・パーペチュアル・カレンダー用のCal. L082.1も連なる。ランゲ1ファミリーにおいて、手巻きの本流に対する「自動巻きの本流」を担う系譜が、L021.1から始まったと位置づけられる。
業界全体を見れば、ハイエンド製造工房の自動巻きキャリバーは1990〜2000年代に多数登場している。Cal. L021.1の独自性は、振動数21,600vphの伝統値、無処理洋銀の地板、ハンドエングレービングのテンプ橋といったザクセン的形式と、中央ローター・自動巻という現代的要件を、モジュールではなく一体設計で統合した点にある。
技術解説
構造と寸法
Cal. L021.1は、直径31.6mm、厚さ6.1mmの自動巻きキャリバーである。426点の部品から構成され、石数は67石、うち7石は金製のシャトン (chaton) に螺子止めされる。シャトンとは、軸受石を保持する金属製の枠で、ザクセン伝統の時計製造で用いられる装飾要素である。ムーブメント全体は4枚に分割された地板・ブリッジで構成されるが、組み上げると古典的なグラスヒュッテ式3/4プレートの意匠を呈する。
地板およびブリッジには、ニッケル銅亜鉛合金の洋銀 (ジャーマンシルバー) が無処理のまま用いられる。経年でわずかに金色を帯びるこの素材は、グラスヒュッテ時計製造の伝統的アイデンティティでもある。表面にはグラスヒュッテ・リブ (グラスヒュッテ・ストライプ) と呼ばれる縞模様の装飾が施され、各エッジには面取り (アンセラージュ) が手作業で入れられる。
中央ローターによる自動巻機構
最大の特徴は、ムーブメントの全径におよぶ中央ローターである。A. ランゲ&ゾーネ公式仕様によれば、ローター中央部は21Kゴールド (875) で、外周の遠心マスは950プラチナで構成される。比重の高いプラチナを外周に配することで、慣性モーメントを最大化し、わずかな手首の動きでも効率的に巻き上げる設計となる。巻き上げは単方向で、香箱はシングル構成。フル巻き状態で約50時間のパワーリザーブを得る。ローターは4本スポーク構造を採り、衝撃時の負荷を分散する役割を担う。
フリースプラング・テンプとヒゲゼンマイ
調速機構には、緩急針 (レギュレーター) を持たないフリースプラング方式が採用される。テンプ輪の周縁に取り付けた偏心錘 (エキセントリック・ポイジング・ウェイト) を回転させることで、慣性モーメントを微調整して精度を出す。ヒゲゼンマイはA. ランゲ&ゾーネが自社で開発・製造する。緩急針を排した構造は、外部からの摩擦干渉を受けにくく、長期的な精度安定に寄与するとされる。テンプ橋には伝統に従いハンドエングレービングが施され、各個体ごとに微妙に異なる文様となる。
振動数と精度調整
振動数は21,600vph (3Hz) で、これはグラスヒュッテをはじめとするドイツ伝統時計の典型値である。スイス系の28,800vph (4Hz) と比べやや低速だが、低振動はムーブメントへの負荷を抑え、保守性を高める利点を持つ。仕上げ後のCal. L021.1は5姿勢で調整され、A. ランゲ&ゾーネ社内のクロノメーター基準に準拠する。さらに同社の伝統に従い、組み上げ → 検査 → 分解 → 最終仕上げ → 再組み上げの2回組立 (twice-assembled) 工程を経る。
表示と機構
文字盤側にはランゲのアイデンティティであるアウトサイズ・デイト (大型日付表示) を搭載する。2枚の同心円ディスクで十の位と一の位を別個に表示する機構で、日付欄が広く視認性に優れる。さらに、レトログラード式の曜日表示を備える点がL021.1の特徴で、針が末日まで進んだ後、瞬時に基点へ戻る。リバーサル・ダイアル配置 (通常のランゲ1とは左右反転した表示) と組み合わさり、デイマティック固有の表情を形成する。