設計思想
時を奏でる、四羽の鳥
2020年4月、ヴァシュロン・コンスタンタンはWatches and Wondersの場でLes Cabinotiers - The Singing Birdsを発表した。本来ジュネーヴで開催されるはずだった見本市は感染症の世界的拡大によりオンライン形式に切り替わり、新作は各メゾンの公式チャンネルから順次公開されることとなる。同年メゾンが提示した4本のピエス・ユニークが、この「歌う鳥」連作であった。
連作はカビノティエ部門が2019年から育てている主題「La Musique du Temps®」の延長線上にある。前年は時刻を音で告げるミニッツリピーター系の作品群でこの主題を提示したが、本連作は時計そのものの音ではなく、ダイヤル上に描かれた小鳥たちの「想像上の歌」へと象徴を移している。ハチドリ、アオガラ、アオカケス、コマドリ — 四羽の野鳥それぞれを主役に据えた、時計でありながら絵画でもある構成である。
連作のなかのアオカケス
本機Ref. 2010C/000R-B683は、その4本のうちアオカケスを描いた一点にあたる。ケースは18Kピンクゴールドで、ダイヤルの下層セクターは深い青に彩られ、ストラップにも同色のアリゲーターが用いられる。ハチドリ(B681、緑系)、アオガラ(B682、茶系)と共にピンクゴールドケースで仕立てられた3本のうち、青を主調とするのは本機のみである。一方、コマドリのバーガンディの羽根の発色を引き立てる目的で、B684だけが18Kホワイトゴールドケースで仕立てられている。
七宝と衛星時の系譜
ダイヤルに七宝を据え、空いた領域に衛星時表示で時刻を読ませる、という設計言語そのものはこの連作で初めて生まれたものではない。直接の前駆は、2015年に発表されたMétiers d'Art Savoirs Enluminésの3本である。クッション型ケースのなかに22Kゴールドの二層ダイヤルを納め、上層に中世写本の動物像をシャンルヴェとミニアチュール・エナメルで描き、下層に同じく1120 ATの衛星時を据えた構成は、2020年の本連作と明確に呼応する。連作はその設計言語を丸型40mmの現代的なケースに移し替え、限定20本という枠組みを離れて一点物として仕立て直したものだと位置づけられる。
意匠分析
ダイヤルは18Kゴールドの二層構造である。上(左)層にチャンプルヴェ・ペインティッド・エナメルで描かれたアオカケスが、下(右)層に120度のハンドギヨシェ・セクターが、それぞれ高さを変えて並ぶ。マスター・エナメラーは下地のゴールドを微細に彫り込み、その窪み(アルヴェオール)に約10色のヴィトレアス・エナメルを筆で置き、段階的に窯入れして色を定着させていく。羽根の濃淡、目元の光、嘴のくすみは、いずれも複数回の焼成を経て立ち上がってくる発色である。
下層の扇形セクターには手作業のギヨシェでバスケットウィーブ状の地紋が刻まれ、青で彩色されている。120度の弧に沿って18K 5Nピンクゴールドのアプライド・マーカーが分目盛として配される。
時刻表示はキャリバー1120 ATの衛星時(wandering hours)機構による。中心の三本のアームがそれぞれ4桁ずつの数字ディスクを担い、現在の時刻を示すディスクが120度セクターの分目盛上を弧を描くように移動する。針はなく、時と分は同一の動点で読まれる。ダイヤルの過半を絵画に明け渡すための、設計上の合理的な選択である。
ケースは40mm径、12.37mm厚の18K 5Nピンクゴールドで仕立てられる。ベゼルとラグは磨き仕上げを基本とし、ストラップは深い青のミシシッピアリゲーターを内革ごと同素材で組んだサドル仕上げ、バックルには同色ゴールドのハーフ・マルタクロス型ピンバックルが据えられる。
ケースバックはサファイアクリスタルで、内部には22Kゴールドのローターを花弁状のギヨシェで装飾し、フリースプラング・テンプを備えたキャリバー1120 ATの仕上げが見える。ベース1120は2.45mm厚という極薄設計で知られるが、衛星時モジュール(約3mm厚)を加えた1120 ATでも、ケース厚は12.37mmに留まっている。ジュネーヴ・シール認定を受ける一本である。
系譜と歴史
発表は2020年4月、Watches and Wondersの場で行われた。同見本市は感染症の世界的拡大により急遽オンライン形式へ切り替えられ、本機を含むLes Cabinotiers - The Singing Birds 4本のピエス・ユニークは、メゾンの公式チャンネル経由で同月のうちに順次公開された。
連作の構成は発表時点で固定されている。Ref. 2010C/000R-B681がハチドリ、B682がアオガラ、本機B683がアオカケス、そしてB684がコマドリで、本機を含む3本は18Kピンクゴールドケース、コマドリのみ18Kホワイトゴールドケースで仕立てられた。いずれも各1本のみの一点物であり、価格は公表されず、ブティック経由で取り扱われた。
本機は「La Musique du Temps®」と題されたカビノティエ部門の主題系列に連なる。同主題は2019年、時を音で告げるミニッツリピーター系の連作によって始められ、2020年の本連作で初めて時を打たない作品群へと展開した。
カビノティエ部門は2017年のルイ・フェルラCEO就任以降、受注待ちの形だけでなく能動的に年次でピエス・ユニーク群を発表する方針へ移行している。本機はその年次プログラムの初期に位置する一本である。製造後は単一の所有者に渡る性格上、メーカー側からの大規模な仕様変更や追加生産は構造的に発生しない。