2015年、創業260周年の年に部門は決定的な一作を世に出す。Reference 57260。57の複雑機構と260年の歴史を掛け合わせた名は、そのまま記録の宣言でもあった。
開発に8年を要した懐中時計は、ジャン=リュック・ペランとミッケ/ヤニック・ピンタス兄弟の3名の名匠の手による。2,826部品、98mm径、双面文字盤、Cal. 3750(2.5Hz、60時間PR)。ヘブライ暦永久カレンダー、3軸アーミラリー・トゥールビヨン、ウェストミンスター・カリヨンのソヌリなどを統合し、1989年のパテック・キャリバー89(33複雑)を大きく超える世界記録となった。匿名だった委託者は、後にアメリカの保険業実業家ウィリアム・R・バークリーであることが判明する。
2017年、ルイ・フェルラがCEOに就任すると、運営はさらに変容する。受注一本だった構造に、メゾン自らが年次テーマを掲げて生み出す一品物コレクションの軸が加わった。同年のCelestia Astronomical Grand Complication 3600(23複雑機構、Cal. 3600、GPHG機械的例外賞受賞)はその転換期の象徴である。以後、2018年Mécaniques Sauvages、2022年Royaumes Aquatiques、2023年Récits de Voyagesなど、テーマ別一品物群が毎年発表されるようになる。部門名としても総称のLes Cabinotiersが定着した。
2024年Watches & Wondersで発表されたThe Berkley Grand Complicationは、Ref. 57260と同じバークリー氏の発注による。11年の開発、Cal. 3752、2,877部品、63の複雑機構を擁し、世界初となる中国暦永久カレンダーを搭載した。自社の記録を、自社で更新したことになる。
2025年、創業270周年に合わせてSolaria Ultra Grand Complicationが続く。腕時計として41の複雑機構、Cal. 3655、1,521部品、8年の開発と13特許出願。腕時計部門の複雑機構世界記録もまた、ヴァシュロンの手中に収まった。