設計思想
マリンクロノメーターの名門と東京の名店
ユリス・ナルダンは1846年、スイス・ル・ロックルで創業した。19世紀後半にはマリンクロノメーターが世界50以上の海軍や海運会社に採用され、海と共に歩む名門としての地位を固めた。その伝統を現代に引き継ぐのが、300m防水のダイバー コレクションである。
一方のYOSHIDAは、東京・幡ヶ谷に本店を構える高級時計の正規販売店である。同店はパテック フィリップやウブロなど複数のブランドと別注モデルを企画してきた実績を持ち、「YOSHIDAスペシャルモデル」の名は日本の時計愛好家の間で一定の認知を得ている。本機は、この名門と名店の協業から生まれた1本である。
土台となった2018年のダイバー クロノメーター
ベースとなったのは、2018年に発表されたダイバー クロノメーター 44mmである。従来のマリン ダイバー系から意匠を全面的に見直した世代で、ケースはチタン製となり、ラグは細くテーパーし、波模様の文字盤は粒状のテクスチャーへ改められた。最大の識別点は、ドーム型サファイアと組み合わされた凹面の「インバーテッド」ベゼルである。搭載するCal.UN-118は、DIAMonSIL(ダイヤモンド被膜シリコン)製アンカー脱進機とシリシウム製ヒゲゼンマイを備えた自社製自動巻きで、クロノメーター認定を受ける。
3本同時に生まれた日本限定
本機は2021年4月、YOSHIDA公式サイトの特集で披露された。同時に登場したのは、レッド×ブラック仕様の1183-170LE-7M/92-J.2(50本限定)、そしてフライングトゥールビヨンを備えた1283-170LE-7M/92-J.1(10本限定)の計3本である。3本はいずれもチタン製のケースとブレスレットで統一され、通常コレクションにはない艶感の2トーンベゼルを共有する。
その中で本機J.1は、ブルー×ブラックの配色を受け持つ基準機にあたる。ユリス・ナルダンが海のブランドであることを思えば、青はもっとも正統な選択である。世界規模の限定ではなく、一国の一販売店のために50本だけ作られた本機は、ブランドと日本市場の関係の深さを示す記録としても読むことができる。
意匠分析
本機の設計は「2018年世代の1183-170をどこまで日本限定として磨き直すか」に集約される。44mmのチタンケースはサテン仕上げを基調とし、エッジにポリッシュの面取りを効かせる構成を踏襲する。ベゼルもチタン製で、逆回転防止のダイビングスケールはブルーとブラックに塗り分けられる。YOSHIDAによれば、この2トーンには通常コレクションに存在しない独特の艶感が与えられており、量産仕様との差はまずここに現れる。
文字盤は粒状のテクスチャーを持つブラックで、ベゼルと同じブルーをアクセントとして取り込む。6時位置の大型スモールセコンドの針は青く塗られ、黒地との対比で稼働がひと目で分かる。12時位置のパワーリザーブ表示、6時位置の日付という機能配置は1183-170系の標準どおりで、植字インデックスと針には夜光が入る。
外装でもっとも実用的な差分はブレスレットである。標準の1183-170がラバーストラップ仕様であるのに対し、本機はサテン仕上げのチタンブレスレットとプッシュ式フォールディングバックルを標準装備し、交換用のブラックラバーストラップが付属する。軽量金属ブレスの常用と、ラバーでの軽快な使い分けを1本で完結できる構成である。
シースルーバックからはCal.UN-118が見える。毎時28,800振動 (4Hz)、約60時間のパワーリザーブという数値以上に、DIAMonSILの脱進機やブルーのメダリオンを備えたローターの造形が本機の見どころとなる。ケースサイドには50本それぞれのリミテッドナンバーが刻印され、限定機であることを外装そのもので語る。
系譜と歴史
土台となるダイバー クロノメーター 44mm(1183-170系)は2018年に発表された。日本限定の本機が公の場に現れたのは2021年4月で、4月28日付のYOSHIDA公式サイト特集において、レッド×ブラックの姉妹機1183-170LE-7M/92-J.2、トゥールビヨン搭載の1283-170LE-7M/92-J.1と共に3本同時で紹介された。生産は50本で、各個体のケースサイドにはリミテッドナンバーが刻印される。販売はYOSHIDA東京本店と名古屋YOSHIDAの2店舗が担い、チタンブレスレット装着の本体に交換用ブラックラバーストラップを付属する形で出荷された。
その後、2023年9月公開の連載記事では姉妹機J.2が改めて取り上げられており、発売から2年を経てもYOSHIDAの取り扱いラインに位置づけられていたことが分かる。2026年現在もYOSHIDA公式サイトには本機の商品ページが残るが、同サイトは完売・生産中止後も参考資料としてページを掲載する旨を明記しており、50本限定という性格上、流通在庫は限られるとみられる。なお、トゥールビヨン搭載機の限定数は10本で、3本の中で最も少ない本数となった。生産終了に関する公式な告知は確認されていない。
出典
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