設計思想
ガルフ・ストライプ50周年という文脈
1967年、英国のレーシングチームJWオートモーティブのマシンに、ライトブルーとオレンジのガルフカラーが初めて施されたと伝わる。この配色は1968年と1969年のル・マン24時間連覇、そしてポルシェ917の活躍を通じ、モータースポーツ史で最も知られたリバリーのひとつになった。
ホイヤーとガルフを結びつけたのは、1971年公開の映画『栄光のル・マン』である。主演のスティーブ・マックイーンは、ガルフカラーのポルシェ917Kを駆る撮影のあいだ、青文字盤のモナコ Ref.1133Bを着け続けた。当時の結びつきは非公式だったが、この映像が後のガルフ・モナコすべての原点となっている。2018年3月、ジュネーブ・モーターショーの会期中にTAG HeuerはGulfとの世界的な提携を発表し、同時に本作を国際発表した。
歴代ガルフ・モナコからの転換点
ガルフ調のモナコは、2005年のCW2118が文字盤にガルフ・ストライプを初めて載せたのに始まり、2000年代を通じていくつかのモデルが作られてきた。
CAW211Rは、2015年に定番化した左リューズのCAW211Pを土台とする。マックイーンが着けた1133Bの構成にガルフカラーを重ねたモデルであり、映画の中の組み合わせを、半世紀を経て一本にまとめた存在といえる。
限定ではないスペシャルエディション
本作は限定本数を持たない「スペシャルエディション」として企画され、通常のコレクションに加わった。正規の流通で手にできるガルフ・モナコという位置づけである。
兄弟機と後継
2018年6月にはル・マン24時間の開催に合わせ、50本限定の姉妹機CAW211T.FC6440が発表された。1968年のル・マンでのガルフ初勝利から50年を記念し、同じキャリバー11を積みつつ、青のストライプをヴィンテージのレースカーに近い淡い色に変え、ストラップを黒にした仕様である。そして2022年のWatches and Wondersで、自社製キャリバー・ホイヤー02を搭載し、リューズを右側に移した後継のCBL2115.FC6494が登場する。CAW211Rはこの世代交代を境にカタログから退いたとみられる。
意匠分析
ケースは39mmのスクエアで、ブラッシュとポリッシュを使い分けたステンレススチール製。基本骨格は通常のキャリバー11搭載モナコ(CAW211P)と共通であり、本作の固有性は文字盤とストラップにほぼ集約されている。
サンレイ仕上げのダークブルーの文字盤には、ライトブルーとオレンジの2本のストライプが縦に走る。レーシングカーのボディに引かれたラインをそのまま文字盤に移したような処理で、5時位置、日付窓の上にはGulfロゴが刷られる。インダイヤルは白いスクエア型の2つである。ケースは1998年以降の3ピース構造を受け継ぎ、風防にはサファイアクリスタルを用いる。ダイヤモンドポリッシュの水平バーインデックスに夜光ドットを添え、針と5分ごとのマーカーには鮮やかな赤のラッカーを差す。
左リューズは本作の核心である。現行のキャリバー11は、ETA系の自動巻きベースを反転させ、デュボア・デプラ製クロノグラフモジュールを重ねた構成で、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約40時間である。リューズを左に置くのは機構上の必然ではなく、1969年の初代が積んだ自動巻きクロノグラフ「クロノマチック」への意匠的オマージュである。2時・4時の角型プッシャー、ムーブメントを見せるシースルーバック、100m防水というモナコの定型は崩していない。
ストラップはブルーのパンチングカーフで、オレンジのステッチと裏地が差し色になる。ドライビンググローブを思わせる仕立てである。
系譜と歴史
WatchBaseは本Refの導入時期を2017年としている。国際的な発表は2018年3月で、ジュネーブ・モーターショーの会期中に、TAG HeuerとGulfの世界的な提携の公表とともに行われた。
同年6月にはル・マン24時間レースの開催に合わせ、姉妹機にあたる50本限定のCAW211T.FC6440が発表されている。1968年のガルフ初のル・マン制覇から50年を記念したモデルで、本作が通常流通版、CAW211Tが限定版という二段構えが揃った。
本作自体は限定数を設けないスペシャルエディションとして、その後も数年にわたり通常コレクションに留まった。生産期間中に仕様変更が行われたという公式情報は確認できない。2022年3月のWatches and Wonders Genevaで、自社製キャリバー・ホイヤー02を搭載し、リューズを3時側に移した後継のガルフ・モナコCBL2115.FC6494が発表されると、本作は世代交代の形で役目を終えた。正確な生産終了時期は公表されていないが、2022年前後にカタログから退いたとみられる。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Calibre 11 - History of an Iconic Movement
- 02 専門メディア Hands-On - TAG Heuer Monaco Gulf 2018 Special Edition CAW211R.FC6401 (Specs & Price)
- 03 専門メディア Introducing - TAG Heuer Monaco Gulf Special Edition Calibre Heuer 02
- 04 専門メディア TAG Heuer Monaco Calibre 11 Gulf 50th Anniversary CAW211T - Review (Specs & Price)
- 05 専門メディア The Evergreens: The Complete History of the TAG Heuer Monaco