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TAG HEUER · SERIES

Monaco

モナコ

1969年、四角い防水ケースに自動巻きクロノグラフを宿し、腕時計の文法を書き換えた異形のアイコン

39 mm
01 — 概要 / SUMMARY

1969年、Heuerが発表した世界初の防水スクエア自動巻きクロノグラフ。四角いケース、左側のリューズ、メタリックブルーの文字盤——どれも当時の時計の常識から外れた選択であり、その異形のまま50年以上を生き延びてきた。1971年公開の映画『ル・マン』でスティーブ・マックィーンが腕に巻いたRef. 1133Bにより、Monacoはモータースポーツと反骨の象徴となる。現行コレクションはマニュファクチュールのCalibre Heuer 02系を中心に、Monaco Chronograph、Monaco Split-Seconds、そして2026年に登場した革新機構のMonaco Evergraphで構成される。

02 — STORY · 物語

Monaco(モナコ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1969年、四角い革命

1960年代後半、自動巻きが時計の標準となるなか、手巻きしか持たないクロノグラフは置き去りにされつつあった。Heuer-Leonidas、Breitling、Hamilton-Buren、Dubois-Déprazの4社は1965年頃から自動巻きクロノグラフの共同開発に乗り出す。プロジェクト名は「Project 99」、完成品はChronomaticと名付けられた。

1969年1月、ゼニスがEl Primeroを先行発表。5月にはセイコーもCal. 6139を投入し、史上初の自動巻きクロノグラフを巡る三つ巴の競争となった。Heuer陣営は3月3日、ジュネーブとニューヨークで同時発表を行い、Calibre 11搭載のAutavia、Carrera、Monacoを世に問う。

Monacoのケースは、スイスの専門メーカーErwin Piquerezによる新設計だった。四角いケースで100m防水を実現したのは業界初の試みであり、Heuerはこのデザインを独占的に確保した。Buren社のベース機構の都合でリューズは左側に置かれたが、Jack Heuerはこれを「自動巻きで日々の巻き上げを要しない」ことの意匠的表現へと反転させた。最初期モデルRef. 1133が、Monacoの起点である。

02

マックィーンと『ル・マン』

Monacoの商業的な船出は思わしくなく、Jack Heuer自身、後年のインタビューで率直に失敗作だったと振り返っている。流れを変えたのは、一人のスイス人レーシングドライバーだった。

1969年、HeuerはF1ドライバーJo Siffertと、現役レーサーをアンバサダーに起用する最初期の広告契約を結ぶ。1970年、Siffertは映画『ル・マン』のテクニカル・アドバイザーを務め、主演のスティーブ・マックィーンと出会う。マックィーンは劇中で演じるマイケル・デラニーの造形にSiffertを参考とし、彼から借りたGulfカラーのレーシングスーツを着用した。胸の「Chronograph HEUER」エンブレムとともに、時計には四角いRef. 1133Bを選んだ。

1971年公開の『ル・マン』は興行的には不振だったが、マックィーンの腕に映ったMonacoは世界中の観客の記憶に刻まれた。後に「McQueen Monaco」と呼ばれるこの個体は、現在も最も象徴的なヴィンテージ・クロノグラフの一つに数えられる。

03

「Dark Lord」と一度目の終焉

1970年代のHeuerはMonacoを基点に色と素材の実験を続けた。Calibre 11はCalibre 12へと改良され、リューズは右側に戻る。なかでも記憶に残るのは、通称「Dark Lord」と呼ばれるRef. 74033Nである。黒いPVDケースに黒文字盤を組み合わせた個体は現存数が極めて少ないとされ、ミリタリー的な空気を漂わせていた。

しかしクォーツショックと為替変動がスイス時計産業を直撃する。Monacoは1970年代半ばに生産を終え、Heuer自身も1985年にTAGグループに買収されてTAG Heuerとなる。Monacoは一度、カタログから姿を消した。

04

1998年、再起動

1998年、TAG Heuerは「Re-Edition」シリーズを開始し、その第一弾としてRef. CS2110が登場する。38mmケースに黒文字盤、Heuer時代のシールドロゴを復刻した本機は5,000本限定で、マックィーンの長男Chadから肖像使用権を取得した広告とともに市場へ送り出された。

1999年、TAG HeuerはLVMHグループに買収される。2003年のRef. CW2113ではケースが本来のスクエアへと修正され、現代のTAG Heuerロゴが文字盤に戻った。Monacoは徐々に主力ラインへ育っていく。

05

V4とCalibre Heuer 02

2004年、TAG HeuerはMonaco V4をコンセプトとして発表する。歯車とピニオンの代わりにマイクロ・ベルトを用い、ローターの代わりにタングステン質量の直線運動で巻き上げる、前例のないムーブメントだった。Jean-François RuchonnetとPhilippe Dufourら独立時計師の協力を経て5年がかりで実用化し、2009年にプラチナ150本限定で市販版が登場する。

商業的により大きな転機は2019年に訪れる。50周年を機に、Monacoは初めて完全な自社製クロノグラフ・キャリバーCalibre Heuer 02を搭載した。コラムホイール、垂直クラッチ、毎時28,800振動 (4Hz)、80時間パワーリザーブを備えた本機は、Dubois-Déprazモジュールに依存してきたMonacoに自製ムーブメントの骨格を与えた。

06

Evergraphへ——構造を問い直す

2024年、Vaucher Manufacture FleurierとともにCalibre TH81-00を開発し、これを搭載したMonaco Split-Seconds ChronographでMonaco初のラトラパンテを実現する。2025年にはカーボン製ヒゲゼンマイ「TH-Carbonspring」を採用したMonaco Flyback TH-Carbonspringが50本限定で発表される。

2026年のWatches and Wonders、Monacoは二つの方向へ同時に分岐した。一つはRef. 1133への回帰を志した新世代Monaco Chronograph(Calibre TH20-11)。グレード5チタンの39mmケース、左リューズ、ブルー/グリーン/ブラックの3色で、80時間パワーリザーブを持つ正統な後継機である。もう一つはMonaco Evergraph(Calibre TH80-00)。レバーとバネをほぼ廃し、LIGAで成形した双安定弾性部品でクロノグラフを制御する、コラムホイール以来の構造的転換を提示した一本である。発表から半世紀を経て、Monacoはなお「異形」を更新し続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Monacoの設計を貫くのは、「四角という選択を曲げない」という意思である。

1969年のRef. 1133が登場するまで、防水性能を備えた腕時計のケースは、ほぼ例外なく円形だった。シーリング上の不利を抱える四角いケースで100m防水を実現するには、Erwin Piquerezが開発した独自の張力ベースの密閉機構が必要だった。四つの突起がケースバックを引っ掛け、ガスケットに圧縮力を生む仕組みである。Heuerはこの方式の独占権を確保し、四角い防水ケースはMonacoの専有意匠となった。

ケースが四角であるという一点を変えない代わりに、Monacoは内側にあらゆる時計言語を畳み込んできた。文字盤中央には円形の分秒目盛り、その上下には角に丸みを持たせた四角いサブダイヤル、インデックスは水平方向の細いバトン——「円の中の四角、四角の中の円」という入れ子の幾何学が、Monacoの視覚的指紋となっている。プッシャーも初期から角型で、ケースのファセットと連続する造形を取る。

リューズの左配置は、当初はCalibre 11のベース機構(Buren製マイクロローター)の制約から生まれた偶然だった。しかしJack Heuerはこれを「自動巻きであり、日々の巻き上げを要しないことの可視化」と意味づけ、結果として左リューズはMcQueen Monacoから現行のMonaco Evergraphに至るまで、シリーズの揺るぎないアイデンティティとなった。1970年代のCalibre 12でリューズは一度右側に戻されたが、シリーズの正典としては左配置を維持する姿勢が貫かれている。

色彩設計においても自制が利いている。メタリックブルーの文字盤に白いサブダイヤル、赤いクロノグラフ針というRef. 1133Bの組み合わせは、シリーズの基準色として何度も回帰してきた。「Dark Lord」、Gulfカラー、レーシンググリーン、スケルトン化されたモダンな表情など派生は多いが、いずれも四角いケース、水平インデックス、タキメーターを持たない簡潔なダイヤル構成という骨格は崩していない。

非円形ケースを採用したアイコンには、Cartier Tank、Bell & Ross BR、Audemars Piguet Royal Oakなどがある。それぞれが独自の幾何学を持つが、Monacoが特異なのは、クロノグラフ機能と防水性の両立という工学的命題から四角が生まれた点である。装飾性ではなく機能から派生した四角——その出自が、半世紀以上を経ても容易に模倣を許さない理由でもある。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1969-1975
Cal. 11 / 12
Project 99のmicro-rotor自動巻、初代用。
1972-1977
Cal. 15 / Valjoux 7736 / 7740
Cal.12のコスト版と、手巻系の派生群。
2003-2018
Cal. 17
ETA 2894ベース、Re-edition期の主力機。
2009-2019
Cal. 11 (再生) / Cal. 12
Sellita+DDモジュール、左巻芯復活機。
2019-現在
Heuer 02
完全自社製インテグレーテッド、80時間PR。
2024-現在
Cal. TH81-00
Vaucher製、5Hzスプリットセコンド機。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1969-1975

初代Monaco誕生

1133B
世界初の角型自動巻クロノ、Cal.11搭載、McQueenがLe Mansで着用。
1972-1977

派生・手巻バリエーション

1533 73663 74033
Cal.15のコスト削減版や、Valjoux 7736/7740手巻系の派生展開。
1998-2008

Re-edition期

CS2111 CW2113
1998年限定5,000本で復活、2003年にCal.17で常設化、右巻芯仕様。
2009-2018

40周年と現代化

CAW2110 CAW211A
40周年でCal.12へ移行、39mm化、サファイア導入、Cal.11も復活。
2019-現在

Heuer 02搭載

Heuer 02 Monaco
50周年に5つの限定エディション展開、自社製Heuer 02搭載で技術刷新。
2024-現在

Split-Seconds投入

Monaco Split-Seconds
Cal.TH81-00(Vaucher製)搭載、初の量産スプリットセコンド機。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive