本文へ
PATEK PHILIPPE · SERIES

Nautilus

ノーチラス

舷窓に着想した八角形のベゼル。1976年、ジェンタが描いたラグジュアリースポーツウォッチの古典

掲載モデル 40 mm – 40.5 mm
01 — 概要 / SUMMARY

ノーチラスは、1976年にパテック フィリップがバーゼル・ウォッチフェアで発表したラグジュアリースポーツウォッチである。船舶の舷窓に着想を得たジェラルド・ジェンタの設計により、ステンレススチールの腕時計が金製ドレスウォッチを上回る価格で成立しうるという主張を体現した。現行ラインは時分の5811、ムーンフェイズの5712、永久カレンダー5740、フライバッククロノグラフ5980・5990などへ枝分かれする。2026年に発表50周年を迎えた。

02 — STORY · 物語

Nautilus(ノーチラス)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1976年、鋼でつくられた高額時計

ノーチラスがバーゼル・ウォッチフェアで発表されたのは1976年、クォーツ危機の只中であった。1972年にオーデマ ピゲがジェラルド・ジェンタによるロイヤル オークでステンレススチール製の高級スポーツウォッチという新ジャンルを切り開くと、パテック フィリップにも応答が求められた。

ジェンタはホテルのレストランで夕食をとりながら、大西洋航路の客船の舷窓から着想を得て、短時間でスケッチを描いたと伝わる。本人がインタビューで繰り返した逸話で、結果として完成した設計の純度は確かに一気に書き切られた性質を持つ。船舶の舷窓を引いた角丸八角形のベゼル、ケース両側に張り出す二つの「耳」、一体型ブレスレット — 半世紀変わらない言語が、この一枚で確定した。

最初のリファレンスは3700/1A。ケース径は10時から4時方向で42mm、当時としては破格の大きさで、後に「ジャンボ」と通称される。キャリバーは厚さ2.8mmのジャガー・ルクルト920系をベースとした自動巻28-255 C。モノブロックのケースとベゼルの間のガスケットで120m防水を実現した。広告コピーは挑発的だった。「世界で最も高価な腕時計のひとつ、しかも鋼で作られた」。ステンレスでありながら金製ドレスウォッチを超える価格を提示するという主張そのものが、当時の高級時計の常識への反論であった。

02

80年代の派生と、ミッドサイズへの拡張

3700は発表直後にはセンセーションを起こさなかった。42mmという寸法は当時の腕には大きく、ステンレス製の高額時計に市場が追いついていなかった。パテック フィリップは1980年に女性向けRef. 4700を、1981年にはRef. 3800と3900を投入する。

Ref. 3800はサイズを37.5mmへ縮め、初の自社製スリムキャリバー335 SCを搭載した。3700がジャガー・ルクルト由来のムーブメントを使っていたのに対し、3800はセンターセコンドを備えた完全自社製となり、機械的にもノーチラスのアイデンティティを内製化する一歩となった。Ref. 4700は27mm径のクォーツで、Ref. 3900も小径の派生として加わった。シリーズはサイズ違いの4本構成となり、意匠言語を変えずに広い層へリーチを広げる手法が定着した。

03

ジャンボの再来 — 3710と複雑化への助走

オリジナルの3700は1990年に生産を終える。以降8年間、シリーズに「ジャンボ」サイズは不在だった。1998年に登場したRef. 3710/1Aは、42mmケースを取り戻すと同時に、12時位置にパワーリザーブインジケーターを配置した。続くRef. 3711/1Gはホワイトゴールド製ジャンボ、2005年のRef. 3712/1Aはムーンフェイズ・パワーリザーブ・ポインターデイトを非対称に配する一年限りの実験作で、いずれも翌年の世代交代へ向けた助走となった。

04

5711の時代 — 30周年と現代的アイコン化

ノーチラスの30周年にあたる2006年、パテック フィリップは現代シリーズ言語を一気に刷新する。2006年のバーゼルワールドで発表されたRef. 5711/1Aは40mm径、ケースはモノブロックの3700と異なりベゼル・ミドル・裏蓋の三分割構造となり、ねじ込みのサファイアシースルーバックを採用。耳の輪郭はわずかに丸みを帯び、文字盤は青から黒へのグラデーションが深まった。キャリバーは315 SCから324 SC、2019年前後には26-330 S Cへと静かに更新され、ハッキング秒や新世代ヒゲゼンマイ「スピロマックス」が加わった。

同年にはRef. 5712(ムーンフェイズ・パワーリザーブ)、フライバッククロノグラフのRef. 5980が並走発表され、ノーチラスは初めて本格的な複雑機構を備えたコレクションとなる。続く2010年のRef. 5726(アニュアルカレンダー)、2014年のRef. 5990(トラベルタイム・フライバック)、2018年のRef. 5740/1G(永久カレンダー)で、多機能複雑時計のシリーズへと広がっていった。

5711が単なる成功作からカルト的人気作へと変貌したのは2010年代後半である。正規店の入手待機リストは数年単位に膨張し、40周年の2016年にはプラチナのRef. 5711/1Pが700本限定で投入された。

05

生産終了と、5811への継承

2021年、パテック フィリップは5711/1Aの生産終了を発表する。最終モデルはオリーブグリーン文字盤のRef. 5711/1A-014と、170本限定のティファニーコラボレーション5711/1A-018で、後者はオークションで記録的な価格を呼んだ。

2022年10月、後継のRef. 5811/1G-001がホワイトゴールドで発表される。直径は41mmへ拡大、バックルには微調整機構を持つ折り畳み式が新採用され、キャリバーは26-330 S Cが引き継がれた。最初の素材を貴金属としたこと自体が、5711の時代に区切りを入れる宣言でもあった。

06

50周年と、現在地

2026年のウォッチズ アンド ワンダーズで、パテック フィリップはノーチラス50周年記念として4本のリミテッドエディションを発表した。時分のみの3本は、同じく1970年代生まれの極薄マイクロローター・キャリバー240を積む。38mmプラチナのRef. 5610/1P-001が2,000本、41mmホワイトゴールドはブレスレット仕様のRef. 5810/1G-001が2,000本、ストラップ仕様のRef. 5810G-001が1,000本。さらにノーチラス初の懐中時計Ref. 958G-001を100本のみ製作した。鎖は付かず、ケースの構造を生かして置き時計にもなり、カバーの下の裏蓋には50周年の銘が刻まれる。

50年を経たノーチラスは、ジェンタが描いたスケッチをほぼそのまま引き継いでいる。ケースは厚みを増し、ムーブメントは入れ替わり、コレクションは複雑機構へ枝分かれしたが、舷窓のシルエットと水平のエンボスは依然として一目で識別できる。それが本シリーズの現在地である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ノーチラスの設計言語は、ジェラルド・ジェンタが描いたとされる一枚のスケッチに、ほぼすべて含まれている。船舶の舷窓から引いた角丸八角形のベゼル、ケース両側に張り出した二つの「耳」、ケース構造とブレスレットを連続した一枚の彫塑として扱う発想。これら三つの要素は50年を経てもほぼ変わっていない。

「耳」と呼ばれる左右の張り出しは、視覚的には水密ヒンジを思わせる装飾だが、構造的にはベゼルをミドルケースに固定するための機能要素として設計された。初期の3700はミドルケース一体型の二分割構造を採用し、ベゼルを横から圧入する。この組み立て方式が、ケースを薄く保ちながら高い防水性能を実現する鍵となった。2006年の5711では、シースルーバックを持つ三分割構造に切り替えられた。

文字盤の水平方向のエンボス加工は、舷窓の鋼板を抽象化したような触感を持つ。ロイヤル オークの「タピスリー」ガーランドのような立体的な突起ではなく、光を縞状に切り取る彫り。これによって文字盤は、角度を変えるたびに別の表情を見せる動的な面となる。グレーがかった青、群青、近年のグラデーションブルー — 色相は世代ごとに調整されたが、横線の構成は一貫している。

意匠の自制も特筆すべき点である。インデックスは細身のバトン、針はラウンドエッジのバトン、ロゴは控えめに12時方向へ。装飾要素を持ち込まない決断が、複雑機構を加えた派生モデルでもシリーズのアイデンティティを保たせている。同じジェンタが手がけた1972年のロイヤル オークが角張った直線で攻撃性を表現するのに対し、ノーチラスは曲線と水平線で穏やかな緊張感を作り出す。この対比は、ジェンタが二つのブランドへ描き分けた性格の違いそのものでもある。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1976-1990
Cal. 28-255 C
JLC Cal.920ベース、極薄3.05mm、3700用。
1981-2006
Cal. 335 SC / 330 SC
ミッドサイズ専用、335からのアップグレード版。
2006-2019
Cal. 324 S C
5711主力機、Spiromaxひげぜんまい搭載自動巻。
2019-現在
Cal. 26-330 SC
ハッキング機能、LIGA製第3輪、現行5811/5712用。
2006-現在
Cal. CH 28-520 C / FUS
5980 chrono用、5990はTravel Time付き。
2018-現在
Cal. 240 Q
Ref.5740用、マイクロローター式永久カレンダー機構。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1976-1990

Jumbo誕生

3700 1A
ジェンタ設計、42mm鋼ケース、Cal.28-255 C、スポーツ系の始祖機。
1981-2006

サイズ展開期

3800 4700
37.5mmのRef.3800と27mmのRef.4700でラインナップ拡張。
1998-2005

Jumbo復活と複雑化

3710 3711 3712
Jumboケース復活、パワーリザーブ表示、3712は一年限りの実験作。
2006-2021

30周年大刷新

5711 5712 5980
40mm Ref.5711と5712、5980クロノを投入、現代型確立。
2018-現在

初のPerpetual Calendar

5740
Cal.240 Q搭載、Nautilus初の永久カレンダー。
2022-現在

5711後継機

5811
41mm白金ケース、Cal.26-330 SC、5711生産終了の1年後登場。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Nautilus 公式 · Patek Philippe · 2026.08.15 閲覧 Patek Philippe · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア History of the Patek Philippe Nautilus, Part 1 - The Birth of an Icon, the 3700 (1976/1990) - Monochrome Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  3. 03 専門メディア History of the Patek Philippe Nautilus, Part 2 – The evolution of a collection (1980/2006) - Monochrome Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  4. 04 専門メディア History of the Patek Philippe Nautilus, Part 3 – The Modern Days (2006/present) - Monochrome Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  5. 05 専門メディア Recap: All the new Patek Philippe Presented at Watches and Wonders 2026 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 5 モデル

5 references in archive