設計思想
スポーツウォッチに宝飾を重ねるという発想
1976年に生まれたノーチラスは、ステンレススチールの高級スポーツウォッチという逆説を出発点とした。しかし2000年代後半のパテック・フィリップは、このコレクションを貴金属と宝飾の領域へ静かに押し広げていく。ホワイトゴールドケースにレザーストラップを合わせた5712G-001はその象徴であり、スポーツウォッチの骨格をドレスウォッチの文脈へ翻訳する試みだった。5724G-001は、その延長線上で2010年頃に登場したとされる宝飾仕様である。
土台の5712系は、2005年の3712/1A-001で確立された非対称ダイヤルを受け継ぎ、2006年に世代交代したプチ・コンプリケーションの系統にあたる。ムーンフェイズ、指針式日付、パワーリザーブ表示、スモールセコンドを集積しながら、マイクロローター機構によって薄さを失わない。この「複雑だが薄い」性格こそ、重量感のある宝飾を載せてもノーチラスの輪郭が崩れない前提条件だった。
5712G-001との連続と非連続
5724G-001が5712G-001と共有するものは多い。ケースアーキテクチャ、ムーブメント、文字盤レイアウト、機能群は同一で、リファレンス体系上も独立した機種ではなく5712の宝飾派生として読める。変化は表層に集中しており、ベゼルとストラップ取り付け部に計44石のバゲットダイヤモンドが加わり、フォールドオーバー式クラスプにも6石が載った。文字盤はスレートグレーからブラック・ブルーへ転じ、ストラップも同系色のネイビーに改められている。機構に手を加えず、外装の素材と装飾だけで別の性格を生み出す手法は、宝飾部門を社内に抱えるパテック・フィリップらしい世代展開と言える。
宝飾ノーチラスの階層のなかで
同じ5712系には、ベゼルのみに宝石を施した5722G-001が存在し、5724はその一段上でケース側面の張り出しまでダイヤモンドを連続させる。さらに上には、5711系をブレスレットまでフルパヴェ化した5719/10G-010が控える。つまり5724G-001は、フルパヴェへ踏み込まない範囲でのプチ・コンプリケーション最上位宝飾仕様であり、機械式時計としての顔を保ったまま到達できる装飾の上限を示すリファレンスだった。素材違いとして、ローズゴールドケースにブラウン文字盤の5724R-001が並行して展開された。
生産終了と現在
WatchBaseは本機の生産期間を2010年から2020年までとし、現在のパテック・フィリップ公式カタログのノーチラスに5724系の記載はない。土台の革ストラップ仕様5712G-001と5712R-001も2024年頃までに生産を終えたとされ、ムーンフェイズ系はブレスレット仕様の5712/1R-001へ引き継がれた。現行ラインで宝飾ノーチラスの役割を担うのは5811/1460G-001などの新世代オート・ジョアイユリーであり、5724G-001の直接の後継と呼べるリファレンスは存在しない。
意匠分析
ケースは18Kホワイトゴールドで、径は10時-4時方向で40mm。厚さは8.71mmと、宝飾を持たない5712G-001の8.52mmからわずかに増すが、プチ・コンプリケーションらしい薄型の印象は保たれている。ねじ込み式リューズと60m防水も基準機から引き継がれ、宝飾仕様でありながらスポーツウォッチの構造を手放していない点に、このリファレンスの立ち位置が表れる。
主題はダイヤモンドセッティングである。ベゼルとストラップ取り付け部に計44石、約7.4ctのバゲットダイヤモンドが据えられる。内訳はベゼルに32石、ケースと革ベルトをつなぐ左右の張り出しに6石ずつとされ、丸みを帯びた八角形ベゼルの稜線に沿わせるため、1石ごとに寸法の異なる石を切り出して整列させる必要がある。ダイヤモンドの列がラグ相当部まで途切れずに続くことで、ストラップがケースと一体化して見える効果も生まれる。パテック・フィリップは使用するダイヤモンドをトップ・ウェッセルトン・ピュア(フローレス)級に限ると公表しており、石の選別基準は宝飾専業メゾンと同水準にある。
文字盤はブラック・ブルー。ノーチラスの記号である水平エンボスを残しつつ、5712G-001のスレートグレーより暗く青みの強い色調を採る。インデックスと針は夜光塗料を備えたゴールド植字仕様で、文字盤上に石を載せないのが公式仕様である。配置は10〜11時のパワーリザーブ表示、7〜8時のムーンフェイズと指針式日付、4〜5時のスモールセコンドという5712譲りの非対称構成で、宝飾化されてもダイヤル側の情報設計には一切手が加えられていない。
ムーブメントはCal.240 PS IRM C LU。1977年初出のCal.240を基礎とする22Kゴールド・マイクロローター機構で、毎時21,600振動(3Hz)、パワーリザーブは最大48時間。サファイアのシースルーバックから仕上げを確認できる。ストラップはシャイニー仕上げのネイビーブルー・アリゲーターで、クラスプの6石(約0.8ct)を合わせると、総計50石・約8.2ct相当の宝飾が手元で完結する構成となる。
系譜と歴史
5724G-001の発表時期を特定できる公式記録は確認しづらいが、WatchBaseは生産開始を2010年とし、2010年付の保証書を伴う初期個体が複数流通していることから、同年にはカタログへ加わっていたとみられる。ほぼ同時期に、ローズゴールドケースとブラウン文字盤の5724R-001が並行して展開され、WatchBaseは両リファレンスの生産期間をいずれも2010年から2020年までとしている。ベゼルのみに宝石を施した5722G-001も同じ系統に連なり、2011年付の国内保証書を持つ個体が確認される。
生産期間中に公式へ告知された仕様変更は確認されていない。市場には2010年、2012年、2015年、2017年前後の保証書を持つ個体が分布しており、約10年にわたり少量ずつ継続生産されたことがうかがえる。レギュラーコレクションの一員であり、限定本数は設けられていない。
WatchBaseの記載に従えば生産終了は2020年頃で、現在のパテック・フィリップ公式カタログのノーチラスに5724系の記載はない。その後、土台となった5712G-001と5712R-001も2024年頃までに生産を終えたとされ、プチ・コンプリケーション系統はブレスレット仕様の5712/1R-001のみが現行に残る。宝飾ノーチラスの系譜は5811/1460G-001などへ移っており、5724G-001は後継のないまま生産を終えたリファレンスとなっている。