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PATEK PHILIPPE · SERIES

Complications

コンプリカシオン

年次カレンダーと世界時計を二本の柱とする、パテック フィリップの実用複雑機構コレクション

掲載モデル 38 mm – 42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

「コンプリカシオン (Complications)」は、パテック フィリップが「グラン・コンプリカシオン」と区別して位置づける複雑時計コレクションである。日常使用に耐える実用的な機構を旨とし、1996年に同社が特許を取得した年次カレンダー、1937年以来の世界時計 (Heure Universelle) を二本の柱とする。年次カレンダー、世界時計、トラベルタイム、ウィークリーカレンダー、クロノグラフが連なり、いずれもカラトラバ由来の落ち着いた意匠を基調とする。

02 — STORY · 物語

Complications(コンプリカシオン)、これまでの軌跡

The story of this series
01

「実用に耐える複雑機構」という思想

1980年代末、機械式時計はクオーツショックからの恢復期にあった。1989年、パテック フィリップは創業150周年を期して33の機構を備えた懐中時計キャリバー89を発表する。この機械式の極北は業界全体に複雑機構復権の機運を生んだが、同時に一つの問いを残した。複雑機構は一握りの愛好家のための工芸品にとどまるのか、それとも日々腕に巻かれる道具となりうるのか。

当時の社長フィリップ・スターンは後者を選んだ。永久カレンダーは精密だが煩雑で、整備コストも高い。ミニッツリピーターは聴覚的快楽であって、日常的有用性とは別軸にある。スターンはこれら「達成」とは別に、扱いやすく、誤動作が少なく、所有者が実際に使い続ける複雑機構の系譜を確立しようとした。この思想が、後にコンプリカシオン・コレクションとして整理される機構群の出発点である。

02

1996年、年次カレンダーの発明

発端は1991年、すべての機能を回転部品だけで実現する年次カレンダー機構の設計を、パテック フィリップがジュネーブ工科学校の最終学年の学生たちに委ねたことにある。永久カレンダーが各月の日数差と閏年を機械的に判定するのに対し、年次カレンダーは30日と31日の月のみを区別し、2月末の年に一度のみ手動補正を要する。複雑さを意図的に下げた設計だが、その分だけ部品点数と整備性は改善される。

1996年バーゼルフェアで発表されたRef. 5035は、この設計思想を腕時計として具現化した最初の例である。37mm・厚さ11mmのイエローゴールドケース、3時位置に月、9時位置に曜日、6時位置の日付窓の上に24時間表示を配した文字盤。心臓部には、発明者としてセドリック・ファーグとフィリップ・バラの名が記された特許CH685585に基づくモジュールを、当時の主力自動巻315 Sに載せたキャリバー315 S QAが収まる。複雑時計としては手の届く価格もあって人気を集め、年次カレンダーは以後、A. ランゲ・アンド・ゾーネ、IWC、ロレックスら他社も追随する新カテゴリーとなった。

03

1937年から続く世界時計の系譜

コレクションのもう一本の柱は、年次カレンダーよりはるかに古い。1931年、カルージュの独立時計師ルイ・コティエ (1894–1966) は、24時間で反時計回りに回転する内側リングと、固定された都市表示を組み合わせる機構を完成させた。12時位置に置いた都市の現在時刻と、世界24時間帯の時刻が一つの文字盤上で同時に読み取れる構造である。

パテック フィリップは1937年、コティエの機構を載せた最初の腕時計群、Ref. 515 HU、Ref. 96 HU、Ref. 542 HUを製作する。いずれも数本単位の試作だが、1939年から1954年まで生産された31mmのRef. 1415 HUが、シリーズとして展開された最初の世界時計腕時計とされる。1953年に発表されたRef. 2523 HUは9時位置の第二リューズで都市ディスクを回転させる二リューズ構造を導入し、エマイユ・クロワゾネのセンターダイヤルとともに、世界時計の表現の高みを示した。

1966年のコティエ歿後、クオーツ危機を挟んで世界時計のラインは長く休止する。2000年、パテック フィリップはRef. 5110によって沈黙を解いた。5110は2006年にRef. 5130へ、2016年にRef. 5230へと引き継がれていく。10時位置のプッシャーを一度押すごとに時針と都市リングが連動して一時間帯ずつ進む機構が新たに加わり、超薄型自動巻キャリバー240 HUがこの伝統的複雑機構を現代に接続した。

04

21世紀、コレクションの拡張

2006年、コレクションは形を整える。Ref. 5396は、12時に曜日と月の窓を並べ、6時に日付窓、24時間表示付きのムーンフェイズを置く端正な構成で、347個の部品からなるキャリバー324 S QA LU 24H/303を積んだ。同年のRef. 5960Pは、年次カレンダーにフライバック・クロノグラフを組み合わせた40.5mmケースで、シリコン製のスピロマックス・ヒゲゼンマイを備えた、パテック フィリップ初の完全自社開発・自社製の自動巻クロノグラフ・キャリバーCH 28-520 IRM QA 24H(456部品)を初搭載した。

2010年代に入ると、コンケーブベゼルと湾曲した肉抜きラグが本コレクションの現代的シグネチャーとなる。Ref. 5205、2016年のRef. 5230 (世界時計の再設計)、同2016年のRef. 5930G (世界時計とフライバック・クロノグラフの両立) がこの世代を代表する。クロノグラフ系ではRef. 5170・5172が手巻きの系譜を担い、2019年のRef. 5212Aはウィークリーカレンダーという新たな小複雑機構を加えた。手書き風の文字組は、紙の手帳に書き込む所作への参照と公式に説明されている。

2021年のRef. 4947/1Aにより、コレクション初のステンレススチール製年次カレンダーが登場する。翌2022年のRef. 5326Gは年次カレンダーとトラベルタイムを一つのケースに収めた最初のパテック フィリップとなり、コレクションが個別機構の集合から機構の組み合わせへと深化したことを示した。

05

現代の到達点

2023年の日本限定300本(紫のギヨシェ文字盤)を先駆けに、2024年のRef. 5330Gは世界時計の文脈に新たな一歩を加えた。ローカルタイムと連動して動く指針式の日付表示を、二つの星形歯車による中央の差動機構で実現した機能は特許を取得した世界初のもので、40mm径のケースに自動巻キャリバー240 HU Cが収まる。

2026年のウォッチズ&ワンダースでは、年次カレンダー誕生から30年の節目を期してRef. 5396R-016が発表された。ローズゴールドのカラトラバ型ケースにサンドベージュのサンレイ文字盤、12時の曜日・月二窓と6時の日付窓、ムーンフェイズ付24時間サブダイヤルという、コレクションの基本文法を高い純度で体現する一本である。同時に、2025年に登場した年次カレンダーRef. 4946Gの新しい仕様も加わった。

「複雑機構を日常で使う」という1990年代の問いに、パテック フィリップは30年をかけて複数の答えを並べてきた。コンプリカシオン・コレクションは、その思想史の同義語である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

「日常で使われる複雑機構」という思想が、コンプリカシオン・コレクションの設計言語を貫いている。グラン・コンプリカシオンが工芸性や聴覚的演出に向かうのに対し、本コレクションは複雑機構を、時を測る道具の自然な拡張として位置づける。

ケースはカラトラバ型を基調とする。直径は概ね38〜42mm、厚みは10mm前後に収まる。2010年のRef. 5205以降、コンケーブベゼルと湾曲して肉抜きされたラグが本コレクションの現代的シグネチャーとして定着した。素材はホワイトゴールド、ローズゴールド、プラチナを主軸とし、2021年のRef. 4947/1Aなどの登場によりステンレススチール製の年次カレンダーも加わっている。

文字盤の設計原則は、対称性と可読性の最優先である。年次カレンダーには3時・9時にサブダイヤルを置くRef. 5035系のレイアウトと、12時に曜日と月の二窓を集約するRef. 5396系のレイアウトが並存するが、いずれの形式も針と窓の配置に明確な軸対称を要求する。世界時計においては、中央の二針、明暗に塗り分けた24時間昼夜表示の回転リング、24都市の周縁リングという三層構造が、コティエの時代から現行Ref. 5330Gまで一貫している。

ムーブメントの選定にも明確な区分がある。世界時計には2.53mm厚の超薄型自動巻キャリバー240系、年次カレンダー単体には毎時28,800振動 (4Hz) の26-330系または324系、年次カレンダー・クロノグラフには2006年に登場した自社初の自動巻クロノグラフCH 28-520系が割り当てられる。いずれもジャイロマックス・テン輪、スピロマックス・ヒゲゼンマイを採用し、2009年以降は外装と機構の双方を律する「パテック フィリップ印」を共有する。

複雑機構を視覚的に強調するのではなく、誤読のない読み取りに帰着させること。これがコンプリカシオン・コレクションを区別する設計哲学である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1996-2000s
Cal. 315 S QA
315 Sに年次カレンダー・モジュールを追加。
2006-現在
Cal. CH 28-520 系
Patek初の自社製自動巻フライバック・クロノグラフ。
2010-現在
Cal. CH 29-535 PS
Patek初の自社製手巻クロノグラフ、コラムホイール式。
2015-現在
Cal. 324 S C FUS
Travel Time機構、独立調整可能な2タイムゾーン表示。
2018-現在
Cal. CH 28-520 QA 24H
AC+Flyback Chrono統合、5905系搭載。
2000-現在
Cal. 240 HU
World Time機構、240マイクロローター系の派生。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1996

Annual Calendar発明

5035
Patek発明の年次カレンダー、Cal.315 S QA搭載、シリーズの起点。
2006-現在

自社製クロノ投入

5960
Cal.CH 28-520 IRM QA 24H、初の完全自社製自動巻クロノ。
2010-現在

自社製手巻クロノ

5170 5172
Cal.CH 29-535 PS搭載、Patek初の自社製手巻クロノグラフを担う。
2006-現在

現代AC主力化

5396
12時に曜日・月の窓を並べた年次カレンダー、24時間付きムーンフェイズ。
2015-現在

Pilot Travel Time投入

5524 5924
パイロットウォッチ風意匠で2タイムゾーン、新分野として確立。
2024-現在

World Time Date

5330G
ローカル時刻と連動する指針式日付、特許の世界初、Cal.240 HU C。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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06 — ALL REFERENCES

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