設計思想
高精度クォーツという系譜
ロンジンにとってクォーツは、単なる安価な代替技術ではない。同社は1954年に競技計時用の電子計時機を手がけ、1969年には「ウルトラ・クォーツ」を世に出すなど、電子精度の分野で早くから実績を重ねてきた。その到達点のひとつが、1984年に登場した初代「Conquest V.H.P.」である。温度補正クォーツによって当時として傑出した年差を達成し、V.H.P. の名は高精度の代名詞となった。だが2000年代に入ると役目を終え、コレクションは2006年に姿を消す。L3.716.2.96.6 は、約10年の空白を経て2017年に復活したV.H.P. の一員である。
なぜ2017年に甦ったのか
復活の背景には、高精度クォーツ(HAQ)への静かな再評価があった。機械式が主流を取り戻す一方で、調整不要で年差数秒という実用精度を求める層は確実に存在していた。ロンジンはこの市場に、自社の歴史的資産であるV.H.P. の名を充てる。新世代の心臓部 Cal. L288.2 は、ETAとの共同開発による温度補正クォーツで、初代を上回る年差±5秒を掲げる。約5年の電池寿命と2400年まで補正不要の永久カレンダーを備え、機械式とは異なる価値軸を打ち出した。発表時の定価は41mm三針で950スイスフランとされ、機械式クロノメーターより手の届く水準に置かれた。
このRefが占める位置
L3.716.2.96.6 は、復活コレクションの中核をなす41mm三針モデルであり、青文字盤とブレスレットという最も汎用性の高い組み合わせを選んだ一本である。43mm(L3.726系)が手首の大きい層に向けたのに対し、41mmは標準的な選択肢として位置づけられた。黒・シルバーや革・ラバー仕様といった兄弟Refが揃うなかで、青文字盤は装いを選ばない中庸さを持つ。ケースを当時の自動巻きコンクエストと共有したことからも、この一本が記念モデルではなく、日々使うための実用機として構想されたことがうかがえる。クォーツでありながら手を抜かない仕上げを与えられた点に、ロンジンのV.H.P. に対する姿勢が表れている。
意匠分析
L3.716.2.96.6 のケースは、発表当時の自動巻きコンクエストと共通の設計を用いる。直径41mm、厚みのあるラグと張り出したリューズガードを持ち、側面へ広がるフランクがドレスよりもスポーツ寄りの印象を与える。仕上げはサテンを基調とし、研磨面を最小限に抑えることで、日常で気負わず使える質感にまとめられている。ベゼルは固定式で、風防にはサファイアクリスタルを備える。クォーツ機ゆえ裏蓋は密閉式で、刻印が施される。
文字盤は、このRefを特徴づける最大の要素である。青地には細かな同心円のテクスチャーが刻まれ、光の角度で表情を変える。アプリケーションのインデックスとアラビア数字(6時・12時)は黒く染めたスチール製で、内部にスーパールミノバの夜光が充填される。針も同じく黒染めスチールで、地の青に対して輪郭を立たせている。外周には印刷のミニッツトラックが走り、その外側のフランジはアンスラサイト(濃灰)で、秒および1秒未満を刻む目盛りが添えられる。三針・日付のみの構成でありながら、この微細な目盛りが V.H.P. の精度志向を視覚的に示している。日付は3時位置に開く。
リューズは「スマートクラウン」と呼ばれ、ねじ込み式ではなく引き出し操作で時刻・日付の設定やスリープモードの切り替えを行う。心臓部の Cal. L288.2 は、ロンジンとETAがスウォッチ・グループ内で共同開発した温度補正(サーモコンペンセイテッド)クォーツである。温度によるクォーツの周波数変動を補正し、年差±5秒を実現する。針の位置を常時記録し、衝撃や磁気でずれた際に自動で復帰させるGPD(ギア・ポジション・ディテクション)機構を備える点も、このムーブメントの設計思想を表している。
系譜と歴史
2017年3月、ロンジンはバーゼルワールドで「コンクエスト V.H.P.」を発表した。V.H.P. は「Very High Precision(超高精度)」の略で、1984年に登場した同名の高精度クォーツを約30年ぶりに復活させたものである。L3.716.2.96.6 は、この復活コレクションのうち41mm三針モデルにあたり、青文字盤とステンレススチール・ブレスレットを組み合わせた一本である。発売は同年夏以降とされ、実機の出荷は2017年11月頃から始まったと伝わる。
三針モデルは41mmと43mm(L3.726系)の2サイズで展開され、文字盤は青のほかに黒・シルバーが用意された。革ストラップ・ラバーストラップ仕様や、黒PVDケースにカーボン文字盤を合わせた派生も並行して存在した。2019年には、同じV.H.P. ムーブメントを基にしたGMTモデルがコレクションに加わっている。
その後、ロンジンは2023年以降にコンクエスト・コレクション全体を刷新し、機械式を軸とした新世代へ移行した。V.H.P. は新カタログに引き継がれず、現行ラインからは退いたとみられる。生産終了の正式な告知は確認できず、ディスコンの時期は明確でない。