設計思想
「使える複雑機構」への舵
2010年、CartierはSIHHで自社初の量産自動巻きCal.1904 MCを発表し、ムーブメントの内製化に本格的に踏み出した。それまで多くのモデルが汎用機を積んできたなかで、この一歩はブランドの時計づくりの重心を動かすものであった。以後Cartierは、トゥールビヨンや永久カレンダーといった大複雑だけでなく、日常で役立つ複雑機構をこのベース機から派生させていく。Rotonde de Cartier Second Time Zone Day/Nightは、その流れのなかで2014年に登場した。
新コレクションとして生まれる
本モデルは特定の前任Refを更新したものではなく、「スモール・コンプリケーション」と銘打つ新しい系列の一員として世に出た。Cartierはこのとき、セカンドタイムゾーンと昼夜表示、大型日付を組み合わせた旅行者向けの一本と、カレンダーとパワーリザーブを示す一本を同時に立ち上げている。継承されたのは意匠ではなく機構の血統であった。Cal.1904 MCを土台に第2時間帯機構を加えたCal.1904-FU MCが新たに起こされ、本機に積まれた。連続するのは技術の系譜であり、姿そのものは新しい。
ブルー文字盤が担う役割
3つの仕様のうち、ホワイトゴールドにブルー文字盤を合わせたW1556241だけが200本の限定とされた。広く流通したスティールやピンクゴールドと異なり、本Refはコレクション内で特別な位置を与えられた一本といえる。ブルーはCartierが限定の節目に選ぶことの多い色であり、ホワイトゴールドの白との取り合わせは、機能を主役に据えつつも華やぎを失わない。多機能でありながら派手に走らない構成は、「実用的な複雑時計」という当時のCartierの主張をよく体現している。
受け継がれた機構
Cal.1904-FU MCは本コレクションにとどまらなかった。2016年に登場したDrive de Cartierのセカンドタイムゾーン仕様にも同じ機構が積まれ、クッション型ケースという別の意匠のもとで再び用いられた。W1556241は、その機構が最初に世へ問われた一群のひとつとして、Cartierのスモール・コンプリケーション戦略の起点を今に伝えている。
意匠分析
ケースと装い
ケースは直径42mm、厚さ11.96mm。18Kホワイトゴールド製で、Rotondeらしい円形の端正な輪郭を持つ。4つの表示を抱える機構時計でありながら、厚みを12mmに満たない水準へ抑えた点は装着感に効いている。溝を刻んだリューズの頭にはブルーのカボションを冠する。Cartierの時計が長く受け継ぐ意匠であり、本Refでは文字盤の青と呼応する。純正ストラップにはアリゲーターを用い、ホワイトゴールドの観音開きバックルで留める。
ブルー文字盤とハンド
本仕様を最も特徴づけるのが、深いブルーのギヨシェ文字盤である。彫り込まれた幾何学模様は見る角度で陰影を変え、白いローマ数字との対比が視認性を支える。針はホワイトゴールド製のアップル型で、ケース素材と色調をそろえる。Cartierの慣例どおり、ローマ数字のなかにシークレットサインが忍ばせてあると伝わる。
レイアウトとムーブメント
4つの情報は文字盤上に分散して配される。12時の大型日付が上方の重心となり、6時のスモールセコンドがこれと釣り合う。10時のセカンドタイムゾーンは、1から12の数字を伴わないレトログラード目盛で示され、扇形の弧を描く針が第2時間帯を指す。4時の昼夜表示がこれを補う。数字を省いた目盛は読み取りに慣れを要する一方、多機能ダイヤルを煩雑に見せない効果を持つ。搭載するCal.1904-FU MCはCartierの自社開発で、ツインバレルにより48時間の動力を蓄え、毎時28,800振動 (4Hz) で時を刻む。セカンドタイムゾーン、昼夜、日付を含む全機構の調整がリューズひとつで完結し、リューズを押すごとに第2時間帯が1時間ずつ送られる。サファイアクリスタルのシースルーバックからは、ロジウム仕上げの機械を望める。
系譜と歴史
W1556241は、2014年に香港で開催されたWatches and Wondersで発表された。Cartierがこの催事で立ち上げた、男性向けの「スモール・コンプリケーション」と位置づける新コレクションの一員である。Rotonde de Cartier Second Time Zone Day/Nightと名付けられたこのモデルには、発表の時点でケースと文字盤の異なる3つの仕様が用意された。スティールにシルバー文字盤(Ref. W1556368)、ピンクゴールドにシルバー文字盤、そしてホワイトゴールドにブルー文字盤の3種である。
このうちW1556241は、ホワイトゴールドケースにブルーのギヨシェ文字盤を合わせた仕様にあたる。スティールとピンクゴールドが通常生産であったのに対し、ブルー文字盤のホワイトゴールドのみが200本の限定生産とされた。本数を限ったのはこの一本だけであり、そこに本仕様の特別な扱いがうかがえる。ブルーの文字盤はCartierが限定モデルに用いることの多い色であり、W1556241もその例に連なる。
発表ののち、文字盤の構成やケース仕様に変更が加えられた記録は確認できない。限定された本数の範囲で、当初の姿のまま生産が進められたとみられる。
W1556241は限定200本という性格上、所定の本数が市場へ行き渡った時点で供給を終えている。Rotonde de Cartierのスモール・コンプリケーション系は現在のカタログには見当たらず、本Refも現行品ではない。