設計思想
カリブルからロトンドへ
カルティエが自社製の自動巻クロノグラフ機構Cal.1904-CH MCを世に出したのは2012年、カリブル ドゥ カルティエ クロノグラフにおいてである。コラムホイールと垂直クラッチを備えたこの機構は、スポーティな42mmケースとタキメーターベゼル、ソード型の針と組み合わされ、カルティエが本格的な製造技術を持つことを示す一本となった。
2015年のSIHHで、カルティエは同じCal.1904-CH MCを、より古典的なロトンド ドゥ カルティエのケースに移した。ロトンドはまっすぐなラグを持つ円形ケースで、カルティエのなかでも端正な系譜に属する。スポーツ寄りだったカリブルの機構を、ドレスウォッチの文脈へ置き換える試みであった。
三つの素材と本機の位置
ロトンド ドゥ カルティエ クロノグラフは、発表時に三つの素材で用意された。スチール製のWSRO0002、ローズゴールド製のW1556238、そして白金製の本機W1556239である。前二者がシルバー基調の文字盤をまとうのに対し、W1556239だけがブルーの文字盤を持ち、世界限定300本として区別された。
スチール製が手の届きやすい実用機として位置づけられたのに対し、貴金属の二本は装いを変えた上位の選択肢であった。なかでも生産数を限ったのは本機だけであり、三本のなかで唯一の特別仕様として送り出された。
白金と限定が束ねたもの
カルティエは時計と宝飾の双方を手がける歴史を持つ。本機は、自社製クロノグラフという実用的な中身を、白金という素材と限定という形式で特別仕様にまとめ直したリファレンスといえる。カリブル ドゥ カルティエ クロノグラフが示した機構を、宝飾メゾンらしい素材と色彩で語り直す試みであった。
スチール製が量産の実用機、貴金属の二本が装いを変えた上位機という構図のなかで、本機は最も装飾性に振れた位置にある。実用機構と特別仕様という二つの性格を一本に束ねた点に、W1556239の固有の意味がある。
意匠分析
白金のケースは直径40mm、厚さ12.15mm。まっすぐなラグを持つ円形ケースは、ロトンド ドゥ カルティエに共通する端正な輪郭である。本機を他の二本から分けるのは、まず文字盤の色にある。ブルーのサンレイ・ギヨシェ仕上げの地に、白いローマ数字とミニッツトラックが置かれ、その上にシルバーのギヨシェ・サブダイヤルが沈む。青と銀の対比が、ドレスクロノグラフに明快な表情を与えている。
サブダイヤルは二つ。3時位置に30分計、9時位置に12時間計を備えるバイコンパックス構成で、ランニングセコンドの小針を持たない点が、この機構の特徴である。サブダイヤルの指針はブルースチール製で、銀地のなかで時間を読ませる。中央にはクロノグラフ秒針が走る。
針はカルティエらしいブレゲ型で、先端近くに円形を抱く意匠を持つ。カリブル ドゥ カルティエ クロノグラフのソード型に対し、より古典的で、ロトンドの端正さに沿った選択である。6時位置には台形のデイト窓が開く。枠のない開放的な日付表示は、カルティエが好んで用いる意匠で、好みの分かれる要素でもある。
リューズにはブルーのサファイア・カボションが据えられ、文字盤の青と呼応する。両脇には角型のクロノグラフ・プッシャーが配される。ケースバックはサファイアクリスタルの透視仕様で、8本のビスで留められ、内部のCal.1904-CH MCを見せる。269個の部品からなる機構には、コート・ド・ジュネーブ装飾とサーキュラーグレインが施され、二つの香箱で48時間を駆動する。ストラップはブルーのアリゲーターで、白金製の観音開きクラスプで留める。
系譜と歴史
ロトンド ドゥ カルティエ クロノグラフは、2015年1月にジュネーブで開かれたSIHH(国際高級時計サロン)で発表された。発表時の素材は三つで、スチール製のWSRO0002、ローズゴールド製のW1556238、そして白金製のW1556239である。本機W1556239は、このうち唯一ブルーのギヨシェ文字盤をまとい、世界限定300本として送り出された。各個体には限定の通し番号が与えられている。
搭載されるCal.1904-CH MCは、本機のために新規開発された機構ではない。2012年にカリブル ドゥ カルティエ クロノグラフ向けに発表された自社製のコラムホイール式クロノグラフであり、本機はそれをロトンドのケースに収めた形となる。
白金・ブルー文字盤・限定300本という仕様は発表時に確定しており、その後の生産期間中に文字盤色やムーブメント世代の変更は確認されていない。市場には2016年初頭に製造された個体も見られ、限定数の生産が翌年にかけて進められたことがうかがえる。
300本という限られた本数のため、本機の生産は早い段階で完結した。現在は通常生産されておらず、2015年に区切られた特別仕様のリファレンスとして扱われる。