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CARTIER · SERIES

Rotonde de Cartier

ロトンド ドゥ カルティエ

カルティエが自社製ムーブメントへ踏み出した転換期に、複雑機構を見せる舞台として整えられた円形のコレクション

01 — 概要 / SUMMARY

ロトンド ドゥ カルティエは、カルティエが自社製ムーブメントへ本格的に移行した2008年前後に、円形ケースを高級時計の舞台として位置づけたコレクションである。角型や異形を得意とする同社にあって、円という中立的な意匠は複雑機構そのものを主役へ立てる枠として選ばれた。文字盤を公転するアストロトゥールビヨン、ムーブメントが宙に浮かぶミステリュウズ系、三大複雑機構を束ねたグランドコンプリケーションなど、機構を視覚的な見せ場へ変える発想がこのシリーズを貫く。現在はマス ミステリュウズなど少数の複雑時計がその系譜を継いでいる。

02 — STORY · 物語

Rotonde de Cartier(ロトンド ドゥ カルティエ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

自社製ムーブメントへの転換

カルティエは長らく、ムーブメントを社外から調達する時計ブランドであった。1998年のSIHHで始まり2008年まで展開した上級ライン「コレクション プリヴェ カルティエ パリ」では、ジャガー・ルクルト、フレデリック・ピゲ、ピアジェ、ジラール・ペルゴ、オーデマ ピゲ系のルノー&パピなどから機械を得ていた。複数の供給元と各地の工房に依存する体制は工程を複雑にしていた。

そこでカルティエはラ・ショー・ド・フォンに3万平方メートルの製造拠点を、ジュネーブ・シールに沿った機械を作るための工房をジュネーブに整え、生産を自社の管理下へ移す。2008年のSIHHで華々しく発表された「ファインウォッチメイキング」コレクションは、その転換を世に示すものだった。最初に報道陣へ公開されたのはバロン ブルーのフライングトゥールビヨンで、ジュネーブの新工房で作られた自社製の手巻きCal. 9452 MCを搭載し、ジュネーブ・シールを帯びていた。円形のロトンドは、この新しい時計づくりを披露する中心的な器となっていく。

02

文字盤を回るトゥールビヨン

ロトンドが独自の言語を得たのは、ロトンド ドゥ カルティエ アストロトゥールビヨンである。通常のトゥールビヨンが小さなキャリッジの中で脱進機を自転させるのに対し、この機構はトゥールビヨンのキャリッジを文字盤の中心軸の周りで1分かけて公転させる、中央カルーセル式の構成をとった。橋を兼ねた矢形の部品が、そのまま秒針として盤面を回る。

重力の影響を平均化するというトゥールビヨン本来の目的は保ちつつ、その運動を時刻表示と一体の視覚効果へ変えた点に新しさがあった。原理はブレゲが構想したトゥールビヨンに連なるが、見せ方はカルティエ固有のものである。この機構はカルティエを代表するトゥールビヨンとなり、2015年にはムーブメントを極限まで透かした Cal. 9461 MC のアストロトゥールビヨン スケルトンも登場した。

03

アストロ三部作とジュネーブ・シール

カルティエはこの「アストロ」の発想を複数の複雑機構へ広げた。アストロレギュレーターは、脱進機と調速機構を回転錘の上に配し、重力に対して常に同じ姿勢へ戻る錘の性質を利用して姿勢差を抑える試みで、トゥールビヨンとは別の重力対策を提示した。アストロカレンダリエは、フライングトゥールビヨンと、橋の上で同心円状に月日を示す円形表示の永久カレンダーを組み合わせた。

2014年にはアース&ムーンも加わった。これらの複雑時計は、カルティエがどんな機構でも作れることを示す作品群として、シリーズの中核をなした。

04

ミステリークロックの継承

カルティエには、もう一つの源泉がある。1912年に発表された「ミステリークロック」は、針が水晶の中に浮かび、機械との接続が見えない置時計であった。時計師モーリス・クーエとルイ・カルティエの協働から生まれたとされるこの意匠を、同社は腕時計へ移し替える。

ミステリアスアワーやミステリアス ダブル トゥールビヨンは、透明なサファイアの円盤に針やトゥールビヨンを担わせ、宙に浮く表示を手首の上で再現した。2016年のSIHHで披露されたアストロミステリアスは両系統を統合する。香箱から脱進機までの輪列全体をキャリッジに収め、サファイア円盤に固定して、ムーブメントごと1時間で文字盤を公転させた。機構が天体のように盤面を巡る、カルティエらしい一本である。

05

グランドコンプリケーションという到達点

2015年、カルティエは自社製で最も複雑な腕時計を発表する。ロトンド ドゥ カルティエ グランドコンプリケーション スケルトンは、ミニッツリピーター、フライングトゥールビヨン、永久カレンダーを一つの自動巻ムーブメントへ束ねた。それ以前のカルティエの超複雑時計にはルノー&パピの機械を用いたものもあったが、Cal. 9406 MCは社内で開発された。

カルティエとしては珍しいマイクロローターを採用し、ムーブメントの厚みは5.49mmに収まる。45mmのプラチナケースに収められ、表からはトゥールビヨン、永久カレンダーの3つのサブダイヤル、リピーターのハンマーが、裏からはリピーターのレバーと歯車が見える。

06

戦略の転換と現在地

ファインウォッチメイキングの初期には、38mmのケースにも収まる小さな9452 MCを47mmのバロン ブルーや46mmのサントス100へ収めた製品もあり、均衡の点で議論を呼んだ。カルティエは2014年に39mmのバロン ブルー フライングトゥールビヨンを示し、寸法を見直していく。一方で、主にロトンドのケースで毎年多くの複雑時計が投入された結果、個々の作品への注目が分散したという指摘もある。

その後、カルティエは技術の誇示よりも意匠の歴史を軸とする方向へ舵を切り、2018年にはコレクション プリヴェの流れを汲むタンク サントレなど、シェイプドウォッチを前面に出していく。ファインウォッチメイキングという枠組みは2018年に役割を終えたが、円形の器は消えなかった。2022年のマス ミステリュウズは、ムーブメント自体が回転錘を兼ねる構造とされ、ミステリュウズの系譜を現在へつないでいる。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ロトンドの設計を貫くのは、円という形をあえて選んだという判断である。カルティエはタンクやサントス、クラッシュなど、輪郭そのものに個性を込めた角型・異形の時計で知られる。その同社が高級時計の舞台に円形を選んだのは、円が何も主張しないからだ。左右対称で方向を持たない盤面は、機構の運動を受け止める中立的な枠として働く。文字盤を公転するトゥールビヨンや、宙に浮くムーブメントといった見せ場は、円の中央に置かれてはじめて純粋な図形として立ち上がる。

この舞台の上で、カルティエは複雑機構を「精度のための装置」より「視覚的な出来事」として扱った。トゥールビヨンを文字盤いっぱいに公転させ、針を水晶の円盤に浮かせ、輪列ごと盤面を巡らせる。いずれも実用上の必然というより、機械を劇場の役者に変える演出である。伝統あるマニュファクチュールが仕上げや構造の正統性を前面に出すのに対し、ロトンドは機構の動き、すなわち見えることそのものを価値の中心に据えた。これは置時計の時代から続くミステリーの発想と地続きである。

意匠の細部には、円という匿名性の中でもカルティエと分かる記号が配される。リューズの先端に置かれたカボションのサファイアやルビー、青焼きのソード型針、ローマ数字、外周のレールウェイ分目盛り。数字の一つに社名を忍ばせる「シークレットサイン」や、文字盤で強調される12時位置のローマ数字も、複雑時計の盤面に共通する語彙として現れる。

変えなかったものと変えたものははっきりしている。ケースの円形と、カルティエらしい盤面の記号は保たれた。一方で、その内側に置かれる機構は世代ごとに自由に組み替えられた。輪郭が一定だからこそ、中身の冒険が際立つ。同時代のシェイプドウォッチが形で語るのに対し、ロトンドは形を抑えて中身で語るという、もう一つのカルティエの姿を示している。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1998-2008
調達キャリバー (JLC・FP・GP・APRP 系)
自社製造以前。社外供給に依存した時期。
2008-2010
Cal. 9452 MC
ジュネーブシールの手巻きフライングトゥールビヨン。
2010年代
アストロ系・ミステリー系(9461 MC ほか)
重力対策と浮遊表示を独自に再構想した複雑機構群。
2015
Cal. 9406 MC
三大複雑機構を自動巻で束ねた自社製キャリバー。
2022
Cal. 9801 MC
ムーブメントが回転錘を兼ねる自動巻機構。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2010年代

アストロトゥールビヨン

Rotonde de Cartier Astrotourbillon
トゥールビヨンが文字盤を1分で公転する中央カルーセル。
2010年代

アストロ系コンプリケーション

Astrorégulateur Earth and Moon ほか
回転錘式の調速や円形表示の永久暦へと展開。
2010年代

ミステリュウズの系譜

Mysterious Hour Astromystérieux ほか
針や機構が宙に浮かぶ表示を腕時計で再現。
2015

グランドコンプリケーション

Grande Complication Skeleton
9406 MC、ミニッツリピーター・トゥールビヨン・永久暦を統合。
2022-現在

マス・ミステリュウズ

Masse Mystérieuse
ムーブメントそのものが回転錘を兼ねる構造。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Watches - Cartier 公式 · Cartier · 2026.08.15 閲覧 Cartier · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア SIHH 2015 - Hands-on with the Rotonde de Cartier Grand Complication Calibre 9406MC (live photos & specs) - Monochrome Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  3. 03 専門メディア The Rise And Fall Of Fine Watchmaking At Cartier: It's Been Surprisingly Complicated - Quill & Pad 専門メディア · Quill & Pad · 2026.10.12 閲覧 Quill & Pad · 2026.10.12
  4. 04 専門メディア Pre-SIHH 2015: Introducing The Rotonde de Cartier Astrotourbillon Skeleton – A Floating, Orbital Tourbillon (With Specs And Pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive