設計思想
角でも丸でもない第三の道
Bell & Rossは、角型ケースに丸い文字盤を収めた「四角の中の丸」で知られてきた。コックピット計器を出自とするBR 01・BR 03は、航空時計の文脈で支持を集めた造形である。しかし発表当時、46mmのBR 01が象徴した大径志向は退潮へ向かっていた。市場では、ケースとブレスを一体で設計した1970年代由来のスポーツウォッチが再評価されていた。BR 05は、その潮流に対するBell & Rossの応答である。角でも丸でもなく、角の稜線をやわらげたクッション型として、両者の中間を狙った造形だった。創業者で創作責任者のBruno Belamichは、これを一体型時計という新たな領域への展開と位置づけている。本Refは、その新領域の最初の世代に属する一本である。
初期三色のなかの濃紺
BR 05は2019年9月、まず鋼ケースの三色で世に出た。黒文字盤のBR05A-BL-ST、濃紺のBR05A-BLU-ST、そしてグレーのBR05A-GR-STである。本Refのうち末尾/SRBはラバーストラップ仕様を指し、鋼ブレス仕様の/SSTと一対で展開された。三色のなかで濃紺は、黒の道具的な直截さとも、グレーの一体的な静けさとも異なる性格を持つ。サンレイ仕上げが光を受けて表情を変え、都市的な装いへ寄せた一本となった。黒文字盤が分目盛りを全周に備える道具寄りの設計であるのに対し、濃紺は目盛りを簡素に整え、装飾性よりも面の静けさを優先している。同時に発表されたスケルトン仕様や18金モデルが上位を担うなか、本Refは時刻と日付に機能を絞った、コレクションの基層に位置づけられる。
派生が広がる起点として
BR 05はこの三色を起点に、その後数年で大きく枝を伸ばした。GMTやクロノグラフといった複雑機構、セラミックや金無垢の素材展開、そして2025年の36mm径まで、派生は機能と寸法の両面へ広がっている。複雑機構を備えた一部のモデルでは径が41mmや42mmへ拡大されており、40mmという寸法は三針日付モデルに与えられた原型としての値である。そうした拡張のなかで、40mm鋼の三針日付モデルは依然としてコレクションの基準点を保つ。本Refはその原型の一翼として、濃紺という選択でシリーズの色彩的な幅を担った。
意匠分析
本Refのケースは、丸い開口を角型の台座へ重ねた構成を採る。角の稜線は丸められ、BR 03の鋭い四角からクッション型へと和らげられている。ベゼルは中央のミッドケースの上にわずかに浮く一枚物で、四隅のビスで固定される。サテン仕上げの平面と研磨されたベベルが交互に置かれ、面の切り替えが立体感を生む。この対比は一体型ブレスレット仕様の/SSTでは金属側にも連続するが、本Refはラバーストラップ仕様のため、ケース側の仕上げの妙がより前面に出る。
文字盤は濃紺のサンレイ仕上げで、アプライドの数字とインデックスにSuper-LumiNovaが施される。初期三色のうち分目盛りを全周に持つのは黒文字盤のみであり、本Refを含む濃紺・グレーは5分刻みの目盛りにとどまる。この簡素な刻みが、濃紺の落ち着いた表情を強めている。日付窓は3時位置に置かれ、文字盤の対称性を崩さない範囲で機能を加える。
リューズはねじ込み式で、左右のガードのあいだに収まる。意匠を優先してあえて小ぶりに設計されたとされ、操作時の指がかりよりも面の連続を選んだ判断がうかがえる。ストラップは濃紺のラバーで、サテン仕上げの鋼製フォールディングバックルで留める。取り付け部はケースの輪郭へ沿うよう角度が与えられ、一体型の連続感を保つ。
ムーブメントBR-CAL.321は、Sellita SW300-1を基にした自社呼称の自動巻きである。ブリッジと地板はサンドブラストの暗色仕上げで、肉抜きされたローターが全面を覆う。このローターは片側に質量を残して非対称に抜かれ、巻き上げ効率と意匠を両立させている。サファイアの裏蓋を通して、その回転が眺められる。
系譜と歴史
BR 05は2019年3月のバーゼルワールドで、撮影を禁じたプロトタイプとして一部の関係者へ先行公開された。写真も文章も伴わない、外部へ出すことを許されない試作としての提示だった。正式な発表は同年9月6日で、鋼ケースの黒・濃紺・グレー三色と、500本限定のスケルトン、そして18金モデルが同時に披露された。本Ref BR05A-BLU-ST/SRBは、この濃紺モデルのラバーストラップ仕様にあたる。鋼ブレス仕様のBR05A-BLU-ST/SSTと並んで展開された。
発表後、BR 05はこの三色を足がかりに派生を増やしていく。2021年末にはホロルムなどの夜光を強めたモデル、2023年には銅色の文字盤を持つコッパー ブラウン、2024年のWatches and Wondersではセラミック仕様、そして2025年には径を抑えた36mmが加わった。そうした拡張のなかでも、40mm鋼の三針日付モデルは基幹の構成として残り、本Refを含む初期三色はコレクションの起点を示す存在であり続けている。本Refは、その後の世代交代を経てもなお現行カタログに継続して掲載される。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Bell & Ross Caliber BR-CAL.321-1 Watch Movement
- 02 専門メディア Bell & Ross caliber BR-CAL.321