イヴ・ピアジェ
1979年に金無垢のポロを生み、色石の宝飾時計と社交でピアジェを世界へ広げた創業家4代目の経営者
- BORN
- 1942年
- DIED
- 存命
- BRAND
- ピアジェ — 1874年創業
- MODELS
- 2 本
概要
生涯
01ジュラの村から米国へ
イヴ・ピアジェは1942年、スイス・ジュラ山脈の村ラ・コート=オー=フェに生まれた。1874年に曾祖父ジョルジュ=エドゥアール・ピアジェが工房を開いた村である。家業は3代目にあたる父ジェラルドと叔父ヴァランタンが率いていた。
ヌーシャテル大学で時計工学の学位を得たのち、1964年、22歳でロサンゼルスへ渡り、米国宝石学会(GIA)で宝石学を学んだ。当時の受講生は15人ほどだったと本人は振り返っている。カリフォルニアの暮らしに惹かれて滞在を延ばしたかったが、家業に入るよう求める父に呼び戻されたとも語っている。
02販売の現場から経営へ
本人によれば、入社は1965年である。最初の持ち場は販売で、ジュネーブのローヌ通りにあったブティックを任された時期もある。グシュタードに滞在中のエリザベス・テイラーへ時計を届け、最初のピアジェを売ったという逸話も本人が語っている。
1970年代、スイスの時計産業はクォーツショックにさらされた。ピアジェは業界の共同研究機関CEH(電子時計センター)に加わり、電子化への備えを持っていた。イヴは創業100周年の1974年に経営陣へ迎えられ、叔父とともにこの時期を乗り切ったと語っている。1970年代の終わりには経営の中心に立ち、1979年のポロ発表時には経営と広報の双方を担っていたとされる。
031988年の決断
1980年代に入ると、独立経営のままでは会社の存続を保証できないことが明らかになった。2004年の取材でイヴは、必要なら一族抜きでも会社を存続させる立場をとったと振り返っている。
1988年、ピアジェは実業家アントン・ルパートが率いる高級品グループの傘下に入った。現在のリシュモンである。本人によれば、交渉は18か月に及び、そのうち15か月は一族との調整に費やされた。生産拠点を維持し、金・プラチナ・宝飾・極薄ムーブメントという4つの価値を守ることを、合意の記録に残させたとも語っている。
04会長として
売却後もイヴはメゾンにとどまった。2010年前後にはピアジェSAの会長として、2015年の取材でも会長として紹介されている。自らを「神殿の守り手」と称してきたとされ、大使として各地を回り続けた。
2010年には、ジャン・オリゼとの対話形式で半生をたどる著書『Orfèvre du temps』が刊行された。近年も専門誌の取材に応じ、ポロの誕生や顧客との交友の記憶を語っている。
業績・代表作
01ポロ ― 金で応えたスポーツウォッチ
イヴの業績として最もよく知られるのが、1979年のポロである。1970年代には、ジェラルド・ジェンタが手がけたロイヤルオークなどが、鋼の一体型ブレスレットという新しい語法を広めていた。イヴはこの流れに、鋼ではなく18金無垢で応えた。
本人によれば、出発点は、豪華で洗練されたスポーツウォッチを求めた米国の販売代理店の要望だった。駆動には、伝統の極薄機械式ではなく自社の極薄クォーツ・キャリバー7Pを選んだ。精度と耐衝撃性を優先したこの選択を、イヴは「アンチ・ロレックス」の発想になぞらえたとされる。
ゴドロンと呼ばれる畝模様は、ブレスレットの各片からケース、文字盤までを一続きに覆う。イヴはその思想を「時計の付いたブレスレットであって、ブレスレットの付いた時計ではない」と語ってきた。ポロはピアジェで初めて固有の名を持った製品でもあり、名はイヴ自身が親しんだ馬術とポロ競技に由来する。1980年からは女優ウルスラ・アンドレスがポロの顔となり、ピアジェはポロ競技の大会を後援した。
02宝飾時計と色石の時代
ポロに先立つ1960年代後半、イヴは時計を宝飾として見せる路線を推し進めた。1967年には、サルバドール・ダリとの協業で、ダリ・ドール金貨を組み込んだ時計と宝飾のコレクションが生まれた。芸術家との交わりを通じて、自社の作品を同時代の芸術として示そうとしたのである。
1969年のバーゼル見本市では21世紀コレクションを発表した。長い金鎖に下げるペンダントウォッチや、大胆なカフウォッチを揃えたシリーズである。アフガニスタンのラピスラズリや地中海の珊瑚を用いた色石ダイヤルは、この時代のピアジェの看板となった。米国での体験がこの冒険を後押ししたと、イヴは振り返っている。
意匠を担う人材も外から得た。1969年には、ケース・ブレスレット工房ポンティ・ジェナーリを買収した。そこからデザイナーのジャン=クロード・ゲイを迎えたと、本人は語っている。ゲイの仕事によってムーブメントに装いを与えられた、というのがイヴの評価である。
03関係で築くブランド
イヴは、広告だけではブランドは育たないと考えた。世界を旅し、顧客をその土地に訪ねて関係を結んだ。著名人、芸術家、実業家が交わるこの輪は「ピアジェ・ソサエティ」と呼ばれる。1979年にニューヨークで出会ったアンディ・ウォーホルも、もとはピアジェの顧客だった。
マンハッタンのブティックでは、ケースの形や文字盤の石を客が選んで組み合わせる「スタイル・セレクター」を導入したとされる。「私たちは時計を創るのであって、生産するのではない」という言葉には、職人の手を前に出す姿勢が表れている。
04バラとの関わり
時計の外では、バラとの関わりが知られる。ジュネーブ国際新品種バラ・コンクールでは審査員を務めた。1970年代半ばからの関わりとされ、優勝品種にはピアジェ製の金のバラが贈られたと伝わる。1982年、メイアン社が作出したその年の優勝品種に「イヴ・ピアジェ」の名が与えられた。
評価・後世への影響
イヴは存命であるため、ここでは没後の評価ではなく、経営の第一線を退いたのちのピアジェが彼の業績をどう受け継いでいるかを記す。
最もはっきりした例はポロである。1980年代末に生産を終えたのち、ポロは2001年に機械式で復活し、2016年にはスティール製の新世代へ移った。創業150周年の2024年には、初代の意匠に立ち返った金無垢のポロ79が加わり、イヴも取材に応じて初代の構想を語った。2026年にはソーダライトの文字盤を備えた版が登場し、彼の時代の色石ダイヤルが再び組み合わされている。
交友の記憶も製品に形を変えた。2024年、ピアジェはアンディ・ウォーホル財団と正式に提携した。ウォーホルが愛用した時計を源とする「アンディ・ウォーホル」コレクションの展開である。ウォーホルが所有したピアジェのうち4本は、メゾンのプライベート・コレクションに収められている。
バラも意匠の源になった。命名から30年後の2012年、メゾンはこのバラにちなむ初の宝飾コレクションを発表した。以後、「ピアジェ ローズ」の名で展開している。2026年には1969年のペンダントウォッチに連なる新作も登場し、色石を用いた宝飾時計の系譜が改めて示された。男女一対のペアウォッチも、イヴが好んだ伝統として近年のポロに受け継がれているとされる。
売却の際に、金・宝飾・極薄という価値を守らせたという本人の証言がある。それは、極薄のアルティプラノと宝飾時計を併せ持つ現在の製品群とも重なっている。
この人物が関わったモデル
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Andy Warhol Watches
- 02 公式 House of Gold
- 03 公式 Maison of Extraleganza
- 04 公式 Piaget Rose - Piaget High Jewellery
- 05 報道 Bangkok Post
- 06 報道 130 Jahre Piaget: Platin, Gold und edle Steine
- 07 報道 Yves G. Piaget en pages et en images
- 08 報道 In deep conversation with watch legend Yves Piaget
- 09 専門メディア Notice de personne « Piaget, Yves G. (1942-....) »
- 10 専門メディア WWG26: Highlights from Piaget's new releases
- 11 専門メディア From la Côte-aux-Fées to celebrity circles: a conversation with Yves G. Piaget
- 12 専門メディア Piaget debuts the Andy Warhol Clou de Paris watch
- 13 専門メディア The Piaget Polo Then And Now: From Vintage To Vogue
- 14 専門メディア Haute Jewelry: Piaget Rose Collection
- 15 専門メディア The Piaget Polo 79 Returns in White Gold with a Blue Sodalite Dial
- 16 専門メディア Piaget's Duo of 2026 Limelight Galas
- 17 専門メディア Piaget Polo: The Evolution And Revolution of a Watch Classic
- 18 専門メディア Meeting MR PIAGET! Yves Piaget on the return of Polo
- 19 専門メディア Watches and Wonders 2026: Piaget releases pebble watches
- 20 専門メディア Piaget Rose Collection: Craftsmanship Meets Beauty
- 21 専門メディア Yves Piaget