設計思想
ピアジェがスティールに踏み出した2016年
2010年代半ば、ラグジュアリースポーツウォッチ市場はノーチラスやロイヤル オークを筆頭に拡大を続けていた。一方のピアジェは、金無垢の超薄型ドレスウォッチとジュエリーウォッチを主軸としており、スティール製の量産スポーツラインを持たなかった。顧客層の若返りを狙い、同社が用意した答えがポロSである。コレクション名の「S」はスティールを指すとされる。
発表の舞台はSIHHではなく、2016年7月14日にニューヨークで開かれた独自イベントだった。ジュネーブの見本市から切り離した夏の単独発表は、このコレクションに懸ける戦略的な比重の大きさを物語る。初出は5本構成で、3針モデル3色に加え、クロノグラフはシルバー文字盤のG0A41004と、本機ブルー文字盤のG0A41006が用意された。
賛否を呼んだ船出
発表直後の反応は穏やかではなかった。ラウンドベゼルと一体型ブレスレットの構成がノーチラスやアクアノートを想起させるとして、独創性を問う声が専門メディアやコレクターから相次いだのである。一方で、丸いベゼルの内側にクッション型のケースミドルを組み合わせる手法はエンペラドールに通じ、文字盤の水平ガドルーンは1979年の初代ポロから受け継いだ意匠でもある。批判と擁護が交錯するほどの注目自体が、ピアジェの新作としては異例だった。
クロノグラフという最上位仕様
ローンチ構成の頂点に置かれたのがクロノグラフである。搭載されるCal.1160Pは薄型自動巻クロノグラフ880Pから派生した自社製ムーブメントで、コラムホイールと垂直クラッチ、ダブルバレルを備える。3針と並ぶ構成のなかで、機構面の充実がコレクションの技術的な看板を担った。
ポロSからポロへ
2021年頃、コレクション名から「S」が外れ、本機は「ポロ クロノグラフ」として販売が続く。同年6月にはラバーストラップのパンダ文字盤限定G0A46013が888本で登場し、2024年にはブランド創立150周年に合わせてグリーン文字盤のクロノグラフが加わった。派生が増えるなかでも、ブルー文字盤にスティールブレスレットという本機の構成は、コレクション誕生時の姿を伝える基準点であり続けている。
意匠分析
本機のケースは、ラウンドベゼルの内側にクッション型のケースミドルを収める二重構造を持つ。円と緩やかな四角が重なる輪郭はピアジェがエンペラドールなどで培った手法の延長にあり、ノーチラス的と評された外観に同社の文脈を残す要素でもある。直径42mmに対し厚さは11.2mmに収まる。3針モデルの9.4mmより2mm弱増すものの、一体型クロノグラフとしては薄い部類であり、厚さ5.72mmのCal.1160Pが寸法を支えている。
ブルー文字盤には水平方向のギヨシェ彫りが施され、1979年の初代ポロを特徴づけたガドルーンの記憶を現代的に翻訳する。植字のバトンインデックスと針には夜光が施され、スポーツウォッチとしての視認性を確保した。レイアウトは3時に30分積算計、9時に12時間積算計を置くバイコンパックスで、6時位置に日付窓を配する。クロノグラフ秒針のカウンターウェイトには透かしの「P」があしらわれ、細部でブランドを主張する。
ケースとブレスレットはポリッシュとサテンの切り替えで陰影をつくり、Hリンクの一体型ブレスレットがケースの曲面に連続する。リューズはねじ込み式ではないプッシュプル式で、防水は100mを確保する。シースルーバックからはCal.1160Pが望め、スレートグレーのローターにはピアジェの紋章が刻まれる。コート・ド・ジュネーブや青焼きネジを備えるが、装飾は抑制的で、価格帯に応じた割り切りも読み取れる仕上げである。
系譜と歴史
G0A41006は、2016年7月14日にニューヨークで開催されたピアジェの単独イベントで、ポロSコレクションの一員として発表された。初出ラインアップは3針3色とクロノグラフ2色の計5本で、本機はクロノグラフのブルー文字盤仕様にあたる。店頭販売は2016年9月に始まった。
以後、本機自体の仕様は大きく変わらず生産が続く一方、コレクション側には動きが重なった。2019年には3針のグリーン文字盤限定が加わり、2021年頃にはコレクション名から「S」が外れて単に「ポロ」となり、本機の公式呼称もポロ クロノグラフへ改められた。2021年6月には同じCal.1160Pを積むパンダ文字盤・ラバーストラップの限定G0A46013が888本で発表され、クロノグラフ系統で初の本格的な派生となった。2024年にはブランド創立150周年の年にグリーン文字盤のクロノグラフが追加され、同年のポロ79復刻と合わせてコレクション全体が拡張された。
こうした派生の増加を経ても、本機は2026年6月時点でピアジェ公式サイトに掲載される現行リファレンスであり、発表から10年近くにわたりカタログに残る、コレクション最初期からの数少ない継続モデルとなっている。