設計思想
スティールへの転換という決断
2016年のピアジェは、岐路に立っていた。1874年創業以来、同社の主戦場は金無垢の超薄型ウォッチとハイジュエリーであり、スティール製スポーツウォッチの本格的なラインを持たなかった。一方、市場ではノーチラスやロイヤル オークに代表されるラグジュアリー・スポーツ分野が拡大を続け、リシュモン傘下の各社も参入を模索していた。同年7月、ピアジェはニューヨークで開催した独自イベントでポロSを発表する。発表地の選定には、1985年にピアジェ・ポロのチームが五番街をパレードしたという逸話への参照があったと伝わる。「S」はスティールを意味し、エントリー価格帯での勝負を明確に打ち出した。
「ポロ」という名の再定義
ポロの名は1979年、イヴ・ピアジェが生んだ金無垢一体型ブレスレットウォッチに由来する。ガドルーン(横溝装飾)がケースからブレスまでを貫く原型に対し、2016年のポロSは丸型ケースとクッション型文字盤という全く異なる造形を採用した。名を継ぎながら形を継がないこの選択は発表時に議論を呼び、既存のスポーツウォッチとの類似を指摘する声も少なくなかった。しかし価格・素材・機構の組み合わせは市場で受け入れられ、ポロSはブランドの新しい入口として定着していく。
ブルー文字盤が担った役割
発表時のラインアップは3針のシルバー(G0A41001)、ブルー(本機)、スレートグレー(G0A41003)と、クロノグラフ2型(G0A41004、G0A41006)で構成された。中でもブルーは、2010年代のスポーツウォッチ市場で支配的だった色であり、本機は広告・店頭の両面でコレクションの顔を務めた。WatchBase上でもポロ系で最も参照される番号であり、ポロSを語る際の事実上の代表機といえる。
「S」の消失と系譜の先
2021年、ピアジェは「S」の呼称を外し、本機を含む3針モデルをポロ デイトと改称した。同年の超薄型ポロ スケルトン投入、2024年のポロ79復刻、2026年のポロ シグネチャー デイト発表と、ラインは原型回帰の方向へ拡張を続けている。その出発点に位置するのが本機であり、10年に及ぶ現行ポロの設計言語はこの一本から始まった。
意匠分析
本機の造形の核は、丸型ケースの内側にクッション型の文字盤開口を切る二重構造にある。ベゼル外周は円、文字盤の輪郭は角の丸い四角形という不一致が、ありふれた丸型スポーツウォッチとの差異を生む。ピアジェはこの「形の中の形」を、エンペラドール等で培った造形語彙の延長と位置づける。
ブルー文字盤には水平方向のギヨシェが刻まれ、光の角度で青の濃淡が変化する。この横縞は1979年の初代ポロを覆ったガドルーンへの遠い参照だが、本機では文字盤内に限定され、彫りも浅い。植字インデックスとドーフィン型の時分針にはスーパールミノヴァが施され、6時位置に日付窓を置く。細身の秒針はカウンターウェイトを「P」字形に成形し、控えめにブランドを示す。
ケースは42mm径・9.4mm厚。同カテゴリーの競合と比べても薄く、超薄型を家芸とするピアジェらしい数値といえる。上面はポリッシュ、側面はサテンと仕上げを切り分け、ブレスレットもポリッシュとサテンのリンクを交互に並べて呼応させる。風防と裏蓋は共にサファイアで、10気圧(100m)防水を確保する。
搭載するCal.1110Pは毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブ約50時間の自動巻である。リシュモン・グループ内で共有されるカルティエ1904-PS系の設計を基盤としつつ、スレートグレーのローターにサーキュラー・コート・ド・ジュネーブとピアジェの紋章、ブリッジに青焼きネジを配し、独自の意匠で仕上げる。
系譜と歴史
2016年7月、ピアジェはニューヨークで開催した自社イベントでポロSコレクションを発表した。本機G0A41002はその初期ラインアップの一角で、シルバーのG0A41001、スレートグレーのG0A41003、クロノグラフのG0A41004・G0A41006と同時に登場した。店頭販売の開始は同年9月である。
以降、本機の基本仕様は変更されないまま、コレクション側が拡張を重ねる。2017年のSIHHではADLC加工の黒い限定版(888本)が、2019年のSIHHではグリーン文字盤の限定版G0A44001(500本)が加わった。
2021年、ピアジェは3針モデルの名称から「S」を外し、6時位置の日付表示にちなんでポロ デイトと改称した。本機の参照番号と仕様は維持され、呼称のみが変わった形である。同年には厚さ6.5mmのポロ スケルトンが加わり、2022年には非限定のグリーン文字盤と36mm径のポロ デイトが展開された。
2024年にはブランド創業150周年に合わせ、初代を復刻するポロ79と、ガドルーン装飾の文字盤を持つ記念版ポロ デイトが登場。2026年のWatches and Wondersでは、ガドルーン文字盤を恒常化したポロ シグネチャー デイトが発表された。水平ギヨシェ文字盤の本機は、2026年現在も公式サイトに現行品として掲載されており、発表から約10年にわたり生産が続く長寿リファレンスとなっている。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Piaget
- 02 専門メディア Piaget Polo S and Polo S Chronograph in steel