03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 1/100秒という壁
エル・プリメロは1969年の登場以来、毎時36,000振動 (5Hz) という高い振動数を武器に、自動巻クロノグラフの精度を牽引してきた。だがその計測分解能は1/10秒にとどまり、SJXによれば、50年近くのあいだクロノグラフとしての中身は大きく変わっていなかった。
機械式で1/100秒を計測するには、計測針を1秒で一回転させねばならない。単一の調速機構でこれを担えば、振動数を50Hzまで引き上げる必要が生じ、時計本体の駆動には過大な負荷となる。50Hzという振動数自体は新しいものではなかったが、Monochromeが指摘するように、それまではコンセプトモデルや高価な時計に限られていた。
2. 二系統という先例
時計用とクロノグラフ用にテンプ・輪列・主ゼンマイを二組持つ構造は、ゼニスの発明ではない。SJXは、同じ「ダブルチェーン」の構成がすでにモンブランやタグ・ホイヤーで使われていたと書いている。ゼニスは9004を自社で開発した機械とし、同じLVMHグループのタグ・ホイヤー「マイクログラフ」の機械とは別物だと説明した。ただし両者は機能が似通い、サブダイヤルの配置まで同じである。当時タグ・ホイヤーとゼニスの双方を率いたジャン-クロード・ビバーは、スイスの新聞のインタビューで、この機械が両ブランドとユブロの技術者からなるチームで開発されたと明かしている。
3. デファイの再出発
9004を最初に積んだデファイ・エル・プリメロ21は、20世紀後半にゼニスがスポーツウォッチに使ったデファイの名をよみがえらせ、新しいデファイ・コレクションの最初の一本となった。ケースは44mmで、38mmの面取りされたラグを持つ従来のエル・プリメロとは趣を変えた。Monochromeは、50Hzの超高振動を、量産を前提とした時計で実現した点を大きな技術的成果と評している。時計側の伝統的な5Hzを残したことで、COSCのクロノメーター認定も受けられる。5Hzの伝統を時計側に残した点に、ゼニスがエル・プリメロの名を継いだ理由が見える。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
二系統構造
9004の核心は、時計とクロノグラフを分けた二系統構造にある。それぞれが独立した香箱、輪列、そしてテンプと脱進機(エネルギーを一定間隔で解放する調速機構)を持つ。時計側は毎時36,000振動 (5Hz)、クロノグラフ側は毎時360,000振動 (50Hz) で動作する。時計側の基本構成は中央ローター式の自動巻で、1969年のエル・プリメロに近い。50Hzの計測は時計側から切り離されているため、時計側は約50時間のパワーリザーブを保つ。
この二系統は、既存のムーブメントに計測モジュールをねじ留めしたものではない。SJXは、1/100秒の機構がエル・プリメロと一体に組み込まれた統合型であり、モジュールを後付けするより手間のかかる作り方だと指摘している。Monochromeによれば、部品数は標準的なエル・プリメロ400の278点に対して203点と少なく、厚さは6.50mmから7.9mmへ増えた。
クロノグラフ側の香箱
クロノグラフ側の香箱は時計側とは別で、リューズから手で巻き上げる。満巻きには25回転を要する。50Hzという振動数は消費が激しく、満巻きでも稼働は約50分にとどまる。SJXは、これが30万回分の1/100秒にあたると書いている。残量は文字盤12時位置の専用の表示で確かめられる。クロノグラフ側が止まっても、時計側は動き続ける。
1/100秒の表示と高速のテンプ
クロノグラフを作動させると、中央の計測針が1秒で文字盤を一周する。外周には100の目盛が刻まれ、針の停止位置がそのまま1/100秒を示す。6時位置の積算計が60秒、3時位置が30分を数え、9時位置には時計側の秒針が置かれる。一般的なクロノグラフ針が1分で一周するのに対し、9004の針は60倍の速さで回る。
50Hzのテンプは小さく、ヒゲゼンマイも非常に短い。通常の機械式時計のおよそ10倍の頻度でエネルギーを解放するため、従来の素材ではヒゲゼンマイが持たないとMonochromeは説明する。文字盤を開いた版では、時計側のテンプが8時位置に見える。
カーボン製ヒゲゼンマイ
両系統のヒゲゼンマイには、カーボン・マトリックス・カーボンナノチューブ複合材が用いられる。カーボンナノチューブで強化した炭素系の複合材で、軽く、摩耗に強く、温度と磁気の影響を受けにくい。LVMHが特許を持つ素材で、シリコンとも異なる点が9004の素材面での特色といえる。なおSJXの実機記事は、この素材をテンプに使うと書いており、発表記事や他誌の記述と食い違う。
仕上げ
仕上げは控えめで簡素であり、サンドブラストとストレートグレインの部品が多い。SJXは、文字盤を開いた版で多くが見えるのは仕上げのためではなく、技術的な構成によるものだと述べている。