レギュレーター
時、分、秒を独立した位置に分離配置する、18世紀の精密振り子時計に起源を持つ文字盤構成
- INVENTOR
- ジョージ・グラハム
- YEAR
- 1715
- CLASS
- 時刻表示 · 時間表示拡張
- 搭載モデル
- 2 本
概要
レギュレーター(Regulator、仏: Régulateur)は、時針・分針・秒針を中心軸上に重ねず、それぞれ独立した位置に分離配置する文字盤構成である。語源は18世紀の精密振り子時計「レギュレーター」で、時計工房や天文台の基準時計として用いられた個体に由来する。中央の大きな分針、12時位置の時表示、6時位置の秒表示という構成が伝統的で、針の相互干渉を避けた高い視認性を持つ。腕時計への量産化は1987年のクロノスイスが嚆矢とされる。
仕組み・原理
01基本配置
腕時計のレギュレーターは、時針・分針・秒針を中心軸上に重ねず、それぞれ独立した位置に分離配置する文字盤構成を指す。最も伝統的な構成は次の通りである。
- 分針: 文字盤中央。針は大きく描かれ、最も視認性が高い
- 時表示: 12時位置の小ダイヤル(2時位置の窓表示など派生もある)
- 秒表示: 6時位置の小ダイヤル(まれに中央配置の例も存在する)
通常の腕時計では時針・分針・秒針が中心の一点から伸び、長い分針が短針や秒針の前を横切るたびに表示がわずかに干渉する。レギュレーターでは各指針が独立した位置にあるため、視認のうえでの相互干渉が生じない。
02機構上の構造
表示の分離は、ムーブメント側で輪列(りんれつ)の再構成を伴う。一般的な腕時計では分針が二番車に、時針が時針車に同軸で取り付けられ、両者は文字盤中央の同一軸上で回転する。レギュレーター仕様では、時針を分針とは別の位置に表示するため、日の裏(文字盤側の輪列)を改造して時針の回転を独立した軸に伝達する必要がある。秒針もまた、四番車から得た秒の動きを別の位置に取り出す。
このため、レギュレーター用キャリバーは、既存ムーブメントに専用の日の裏モジュールを組み合わせる手法と、最初から専用設計とする手法のいずれかで構成される。
03効果と限界
しばしば誤解されるが、レギュレーターはそれ自体として時計の精度を向上させる機構ではない。あくまで表示の配置を変える設計選択であり、ムーブメントの精度はテンプ、ヒゲゼンマイ、脱進機など別の要素に依存する。レギュレーターが「精密」と結びつけられるのは、語源となった精密振り子時計が、時計の調整に使う都合からこの配置を採っていた歴史的経緯による。
表示分離の実用上の利点は二つに整理できる。第一に、分単位の読み取り精度が高まる。分針が中央に大きく描かれ、目盛の細分も施しやすいため、針位置の判読が容易となる。第二に、秒針の動きが他の指針に隠されない。秒小ダイヤルが独立しているため、時計工房の校正作業や天文観測のように秒単位の読み取りが重要な用途で利点があった。
ただし日常使用では、瞬時に「何時何分か」を把握する一般的な視認方法に対しては不向きな面もある。時表示と分表示が物理的に離れているため、視線を二箇所に移して合成する必要がある。慣れを要するレイアウトとされる所以である。
歴史
01レギュレーター時計の起源
「レギュレーター」という呼称は、もともと時計工房や天文台で使われた精密振り子時計に由来する。17世紀後半、クリスティアーン・ホイヘンスが振り子の理論を体系化し(1673年『Horologium Oscillatorium』)、振り子時計が当時として際立った精度を実現した。
精密な基準時計としてのレギュレーターは、1715年ごろに英国のジョージ・グラハムが生み出したとされる。グラハムはデッドビート脱進機(リチャード・タウンリーによる先行例があるとされる)や、温度による誤差を補う水銀振り子を手がけ、錘で駆動する大型の振り子時計は月差10秒ほどの精度に達した。当時の普通の時計が週に5分ほど狂ったことを思えば、桁違いの精度である。時計工房ではこれを基準時計として用い、製作した懐中時計をこれに合わせて調整した。こうした基準時計は鉄道駅や郵便局、天文台にも置かれた。「レギュレーター」とは「調律する者」「基準器」の意である。
02分離表示文字盤の確立
精密振り子時計に分離表示が採用されたのは、必要に迫られた設計判断であった。新しく作った懐中時計をまとめて合わせる際には、時の中で刻々と変わる分を読むことが最も重要で、そのため分針を中央に大きく置き、時針と秒針は小さな副文字盤へ移す文字盤が定着した。フランスではフェルディナン・ベルトゥらが精密な時計を手がけ、ベルトゥが1768年に作った海洋時計 H.M.8 も、時・分・秒を同じ軸に重ねないレギュレーター型の表示をとっている。
19世紀には、オーストリアと南ドイツで「ウィーン・レギュレーター」と呼ばれる壁掛け式の精密振り子時計が普及したとされる。これらも分離表示文字盤を継承し、時計店や工房で標準時計として用いられた。
03腕時計への応用
レギュレーター配置の腕時計化は、20世紀後半に入ってからの試みである。1983年にゲルト=リューディガー・ラングがミュンヘンで創業したクロノスイスは、1987年に「Régulateur」を発表し、量産品としては初のレギュレーター腕時計となった。これ以前にも他社の一点物や試作はあったが、市販されたものはなかったとされる。中央の分針、12時位置の時、6時位置の秒という伝統的配置を腕時計サイズで実現し、以後レギュレーターは同社の代名詞となる。同社はドイツのブランドとして出発したが、ムーブメントは一貫してスイス製を用いた。
以後、ルイ・エラールやユンハンス、グラスヒュッテ・オリジナル、ショパール、英国のガーリック、オーストリアのハブリング²、独立時計師ラウル・パジェスなど、多くの作り手がレギュレーターを手掛けるようになる。パテック フィリップは2011年に、同社初のレギュレーター配置の腕時計 Ref. 5235「Annual Calendar Regulator」を発表した。2022年にはフェルディナン・ベルトゥが、H.M.8 に着想を得たトゥールビヨン・レギュレーター Chronomètre FB RSM を出している。
代表的な実装
クロノスイス Régulateur(1987)
腕時計レギュレーターを量産製品として確立した一本。中央の分針の外周に5から55のアラビア数字、12時の時の小ダイヤルにローマ数字を配した。刻みを入れたケースやオニオン形リューズとともに同社の意匠を定義し、レギュレーターは現在もコレクションの中心にある。2020年代には、時と秒を3時と9時に置く横向きのレギュレーター「Strike Two」も出している。
パテック フィリップ Ref. 5235(2011〜)
同社初のレギュレーター配置の腕時計で、ホワイトゴールドの40.5mmケースで登場した。12時の下に時の小ダイヤル、その左右に曜日と月の窓、6時の秒の小ダイヤルに日付の窓を組み込み、アニュアル・カレンダーと組み合わせる。調整用の精密時計に着想を得たとされる。自動巻きキャリバー 31-260 REG QA(23,040振動/時)は Advanced Research から生まれ、シリンバー製のスピロマックス・ヒゲゼンマイ、ジャイロマックス・テンプ、パルソマックス脱進機で日差-3〜+2秒の精度をうたう。
ハブリング² Josef(2024)
オーストリアの独立工房による解釈。自社キャリバー A11GSP は、レギュレーター配置にデッドビート秒(秒モルト)を組み合わせ、秒針が1秒ごとに針飛びする動きを文字盤上で見せる。脱進機を文字盤の下の12時側に置き、秒表示をその位置に配した数少ないレギュレーターである。
フェルディナン・ベルトゥ Chronomètre FB RSM(2022)
フェルディナン・ベルトゥの1768年の海洋時計 H.M.8 のレギュレーター型表示に着想を得たモデル。キャリバー FB-T.FC-RSM は、フュゼ&チェーン伝動を備えたトゥールビヨン・レギュレーターで、文字盤側に独立したデッドビート秒と、秒針を止める機構を初めて組み込んだ。開発には、卒業研究としてこの機構に取り組んだ若い時計師が加わっている。
ラウル・パジェス Régulateur à Détente RP1
独立時計師による稀少な実装。腕時計では衝撃への弱さから採用例の少ないデテント脱進機を、ピボテッド・デテントとして腕時計で実用化した点で、現代では数少ない試みである。表示は中央の分、12時の時、6時の小秒という古典的なレギュレーター配置をとる。
この機構を搭載する 2 本のモデル
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Ferdinand Berthoud, FB 2RSM.2-1 | GPHG
- 02 専門メディア Buying Guide: 6 Highly Original Takes on the Regulator Watch
- 03 専門メディア In-Depth: A Comprehensive Overview of Patek Philippe’s Annual Calendar
- 04 専門メディア Introducing: The Habring² Josef Regulator With Dead-Beat Seconds
- 05 専門メディア The ABCs of Time: Alternatives to Central Hands to Break Conventions
- 06 専門メディア Regulator