03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 50周年が呼び込んだ新世代
エル・プリメロは、1969年に発表された最初期の自動巻クロノグラフのひとつである。毎時36,000振動 (5Hz) という当時例のない高振動を武器とした。以後はCal.400系として数十年にわたり生産が続き、多くのブランドへ供給される基幹ムーブメントとなる。その50周年にあたる2019年、ゼニスは3本組の記念セットを発表し、そこに新世代のエル・プリメロ3600をひっそりと初めて載せた。同じ年の11月には、チタンの42mmケースに3600を積んだクロノマスター2が通常のモデルとして加わっている。
Monochromeによれば、新しい機械の設計では、一体型の構成に水平クラッチ、コラムホイール、ボールベアリングで支えた中央ローターを組み合わせる点、毎時36,000振動、1/10秒のクロノグラフという初代の要素を守ることが前提とされた。そのうえで、モジュール性と量産の効率化、秒針停止機構、60時間のパワーリザーブが新たに求められた。SJXは、3600を一から設計し直された新しいムーブメントと位置づけている。
2. 「10分の1秒」という宿題
毎時36,000振動は、理論上10分の1秒の計測を可能にする。しかし、その極小の時間を文字盤上で読み取らせることは長く課題であった。3600は、中央のクロノグラフ針を10秒で文字盤を一周させることで、10分の1秒を連続的に表示する。針が指す目盛りは細かく区切られ、計測値をそのまま読める。記念セットでの限定的な搭載を経て、2021年のクロノマスター・スポートで通常生産のモデルへ展開された。同年には、38mmのクロノマスター・オリジナルもCal.400に代えて3600を積んでいる。
3. 派生と広がり
3600は単一の機構にとどまらず、用途に応じた派生を生んだ。2024年のクロノマスター・オリジナル・トリプルカレンダーには、曜日・月・日付と月齢を加えたCal.3610が載る。同じ年のデファイ・エクストリーム・ダイバーには、3600から派生した時刻と日付だけの自動巻Cal.3620-SCが使われ、中央秒針を持つ。スケルトン化したCal.3600 SKは、デファイ・スカイライン・クロノグラフ・スケルトンに続き、2026年のクロノマスター・スポート・スケルトンにも採用された。半世紀を超えるエル・プリメロの系譜は、この世代で新たな基盤を得たといえる。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
エル・プリメロ3600は、毎時36,000振動 (5Hz) で駆動する自動巻のコラムホイール式クロノグラフである。2026年のスケルトン版3600 SKの諸元では、直径30mm、厚さ6.6mm、35石、319部品とされる。テンプ(往復回転する調速輪)が毎秒10回刻むこの高振動は、計時針の滑らかな運針を生む。
高振動には精度上の利点がある。テンプの往復が速いほど、姿勢差や外乱に対する復元力が増し、歩度が安定しやすい。同時に、刻みが細かいほど短い時間を分解でき、これが10分の1秒という単位の理論的な裏付けとなる。
本機の核心は、10分の1秒を表示する輪列にある。SJXによれば、中央の計時針は、時計の輪列でもっとも速く回るガンギ車に連なる歯車列によって動き、通常の秒針の6倍の速さで回る。SJXは当初、この輪列が4番車につながると書き、後にガンギ車が正しいと訂正している。輪列の末端に近い速い車から動力を取り出すことで、10秒で一周する針の動きを得ている。
クロノグラフの制御はコラムホイール(操作を司る柱状の制御車)が担い、動力の伝達には水平クラッチを用いる。初代以来の一体型の構成で、クロノグラフ機構が別体のモジュールではなくムーブメントに組み込まれている。2026年の3600 SKでは、青いコラムホイールと水平クラッチ、シリコン製のガンギ車を文字盤側と裏蓋側の両方から眺められ、諸元にはシリコン製のガンギ車とアンクルが記される。Monochromeは2022年のクロノマスター・オープンの記事で、3600もシリコン製のガンギ車とアンクルを備えると書いている。
駆動方式の刷新は、文字盤側の構成にも及んだ。中央の計時針が10秒で一周して10分の1秒を指し示し、3時位置に60秒の積算計、6時位置に60分の積算計、9時位置に常時運針の秒を備える。重なり合う三つのサブダイヤルは、初代A386の意匠を受け継ぐ。
調速・操作系にも更新が及ぶ。初代エル・プリメロが持たなかった秒針停止機構を加え、時刻を秒まで正確に合わせられるようにした。巻き上げはボールベアリングで支持された中央ローターが担い、ローターは星形に透かし彫りされている。これらの効率化により、パワーリザーブは初代の約50時間から60時間へ延びた。SJXは、日常の使用でもっとも意味のある改良として、現代の標準である3日に近づいたこの延長を挙げている。2019年のクロノマスター2はクロノメーターの認定を受けている。再設計にあたっては組み立てと調整の効率、すなわちモジュール性が重視されており、将来の機能追加を見据えた基盤としても構想された。