設計思想
鋼のベゼルという選択
2021年1月に登場したChronomaster Sportは、黒のセラミックベゼルをまとうモダンなスポーツクロノグラフだった。光沢のあるセラミックは傷や紫外線に強く、現代的で大胆な印象を与える素材である。発表から2年余り、シリーズが定番として定着した頃合いに、Zenithは別の素材へと手を伸ばした。スティールベゼルの構想は当初から存在していたと開発陣は語っている。その構想が形になったのが、2023年10月に発表された本Ref 03.3114.3600/51.M3100である。同じ機会には、乳がん啓発を目的としたChronomaster Sport Pinkも公開された。
何が変わり、何が受け継がれたか
2021年版の白文字盤03.3100.3600/69.M3100、黒文字盤03.3100.3600/21.M3100と本Refを分けるのは、まずベゼルの素材である。セラミックからスティールへ。あわせて文字盤色も、シリーズになかったメタリックブルーが与えられた。一方で、41mmのケース、自社製El Primero 3600、3列ブレスといった土台は2021年の初出モデルと共通する。本Refは新しいモデルではなく、確立されたプラットフォームに別の表情を重ねたバリエーションと理解するのが正確だろう。ベゼルがセラミックからスティールへ替わったことで、わずかながら重量は軽くなり、手首の上での印象も穏やかになっている。
ヴィンテージへの目配せ
ブルー文字盤と磨き上げたスティールベゼルの取り合わせは、1980年代から90年代のZenithのEl Primeroスポーツモデル、「De Luca」や「Rainbow」を想起させるものだとされる。傷のつきにくいセラミック版が現代の道具という顔を持つとすれば、本Refはより軽く、より古典的で、往年のスポーツクロノに連なる装いを選んだ。同じ機構を共有しながら、シリーズの中で別の時間軸を指し示すRefである。
意匠分析
本Refを最も特徴づけるのは、ポリッシュ仕上げのスティールベゼルである。シリーズの定番モデルでセラミック以外のベゼルが採用されたのは、これが初めてとなる。ベゼル上には1/10秒を刻む目盛りが彫り込まれ、黒で墨入れされている。01から10までのこの目盛りは、中央のクロノグラフ針が10秒で一周する機構と対をなし、計測を読み取るための実用的な指標である。セラミックに比べれば傷はつきやすいが、軽く、輪郭の柔らかい表情が生まれている。
文字盤はサンレイ仕上げのメタリックブルー。光の角度で表情を変える地に、スネイル仕上げ(渦状の筋目)を施した3つのインダイヤルが沈む。グレー、アンスラサイト、ブルーの三色は、1969年のA386以来のEl Primeroの符牒であり、本Refでもその系譜を明示する。針と植字インデックスはロジウムめっきにファセットを立て、黒のラッカーとSuperLumiNova(夜光)を併用する。4時半の日付ディスクは地色と同系統のブルーで揃えられ、視覚的な統一が図られている。中央を走るクロノグラフ針は先端を赤く染め、星形のロゴをあしらう。
ケースは41mm径、厚さ13.6mm、ラグ間47mm。ブラッシュとポリッシュを切り替えた面構成と、円筒形のポンプ式プッシャーは2021年の初出モデルから受け継がれる。裏蓋はサファイアで、コラムホイール(クロノグラフの作動を制御する歯車)式のEl Primero 3600を望める。2023年のコレクションでムーブメントの装飾は見直され、星形の自動巻きローターが新たに採用された。3列のスティールブレスは折り畳み式クラスプを備える。
系譜と歴史
Chronomaster Sportのラインが発表されたのは2021年1月である。当初は白と黒の文字盤に黒のセラミックベゼルを組み合わせた構成で、いずれも自社製El Primero 3600を搭載していた。本Ref 03.3114.3600/51.M3100が加わったのは、それから2年半余りを経た2023年10月である。春のWatches and Wondersではなく、秋の単独発表という形をとった。スティールベゼルとメタリックブルー文字盤をまとうこのモデルは、定番コレクションの一員として登場した。同じ機会には、乳がん啓発を目的としたChronomaster Sport Pinkも公開されている。こちらは同系統のブルー基調の文字盤を持つが、慈善目的の特別版であり、本Refとは位置づけを異にする。本Refが属する2023年コレクションでは、搭載するEl Primero 3600の仕上げも見直され、星形の自動巻きローターが採用された。発表以降、本Ref自体に文字盤やベゼルの仕様変更は公表されておらず、登場時の構成のまま定番モデルとして供給が続いている。ライン全体では、2022年のツートーンやブティック限定のセラミックベゼル版、2024年のグリーンセラミック版へと派生が続き、本Refはその系譜の中で、シリーズ初のスティールベゼルという節目を担うRefとして位置づけられる。