系譜と歴史
1. Harmony誕生と新ファミリーの構想
2015年、ヴァシュロン・コンスタンタンは創業260周年を迎えた。同社はSIHH 2015で、57の複雑機構を搭載した一点物Ref.57260を披露するとともに、まったく新しいコレクション「Harmony」を発表する。1928年に同社が手がけたモノプッシャークロノグラフのケース形状を源流とするクッション型のコレクションで、複数の新作キャリバーが用意された。クロノグラフ用のCal. 3500、Cal. 3300、Cal. 3200と並び、自動巻きデュアルタイム機構を担うために開発されたのがCal. 2460 DTである。
デュアルタイム機構は、出張や旅行の機会が広がる現代において、ニーズの高いコンプリケーションとされる。ヴァシュロン・コンスタンタンはHarmonyという新しい器に対し、独立サブダイヤル方式の第2時間帯を採用した。中央24時間針による表示ではなく、12時間制の小針で第2の時刻を読ませる方式である。これにより、現地時刻と参照時刻の双方を同じ視認感覚で確認できる構成となる。
2. 両方向リューズ操作という設計思想
Cal. 2460 DTを特徴づける最大の要素は、操作性にある。一般的な機械式時計のリューズには回転方向の制約があり、誤った方向へ回すと機構を傷める恐れがある。本キャリバーは、すべての設定操作をリューズで完結させながら、いずれの方向に回しても機構を傷めない構造を備える。デュアルタイム機構の調整や、第2時間帯の進退が、利用者の習慣的な所作に委ねられる設計である。
加えて、Chronomètre Royal系で重視されてきたストップセコンド機構を備え、秒単位の精密合わせを可能とする。Cal. 2460 SCCにも採用されていた装備で、同社の精度志向の流れを汲むものといえる。
3. 11¼リーニュ自動巻ファミリーの一員として
Cal. 2460 DTは、ヴァシュロン・コンスタンタンが2005年の創業250周年を契機に整備した自動巻きキャリバー群(2460系)の一員である。このファミリーは、基本のCal. 2460と、複雑機構別の派生から構成される。
派生は多岐にわたる。センターセコンド付きの2460 SC、Chronomètre RoyalのためのCOSC認定版2460 SCC、37タイムゾーンに対応するワールドタイムの2460 WT、Métiers d'Art Copernicusのために開発された天体機構の2460 RT、四つの窓で時分曜日日付を表示する2460 G4、レトログラード日付・曜日の2460 R31R7、ムーンフェイズ付きレトログラードの2460 R31L、コンプリートカレンダーの2460 QCL、そしてデュアルタイム機構の2460 DTである。共通基盤を持ちつつ、複雑機構ごとに部品数は異なり、Cal. 2460 DTは233点で構成される。
4. デュアルタイム表現の比較軸
腕時計のデュアルタイム機構には、概ね中央24時間針、サブダイヤル小針、回転ディスクという三つの方式がある。Cal. 2460 DTが採るサブダイヤル方式は、第2時間帯を主時刻表示と分離し、ダイヤルの視覚的階層と12時間制の連続性を維持する点に特徴がある。Harmonyのヴィンテージ志向のダイヤル設計に調和する選択である。
なお同社はOverseasコレクションのデュアルタイムには、より長時間パワーリザーブのCal. 5110 DT系を投入しており、コレクションの性格に応じて複数のデュアルタイム機構を並行展開している。