設計思想
1. 創業260周年と新コレクションの登場
2015年、ヴァシュロン・コンスタンタンは創業260周年を迎えた。1755年にジャン-マルク・ヴァシュロンがジュネーブで工房を開いて以来、連続生産260年という履歴を持つ時計ブランドは同社のみとされる。節目の年に何を提示するかは業界の関心事であった。
その答えとして同社は、57の複雑機構を備える一点物の懐中時計Ref. 57260と並んで、新たなクッション型ケースを採用するコレクション「Harmony」を発表した。Harmonyは、極薄のグランドコンプリケーション・クロノグラフ、トゥールビヨン・クロノグラフ、新しい自社製Cal. 3300を積むクロノグラフ、デュアルタイム、クロノグラフとデュアルタイムの女性向け小型版などからなる7つの限定モデルで構成された。本Ref. 7810S/000R-B051はその中で、もっとも簡潔な構成のモデルとして位置づけられた。
2. 1928年のクロノグラフへの参照
Harmonyの意匠が依拠する原型は、1928年に同社が手がけたクッション型ケースのクロノグラフである。Harmonyのクッション型ケースは、この1920年代の作例を現代に置き直したものとされる。大ぶりの青いアラビア数字を中心とする文字盤の意匠も、同じ1920年代のクロノグラフに倣っている。
3. 兄弟Refとの関係
本Refはピンクゴールドケース仕様で625本限定。同時に発表された兄弟Refとして、ケース材をホワイトゴールドに替えたRef. 7810S/000G-B050(同じく625本限定)が存在する。両者は同一のCal. 2460DT、同一の文字盤レイアウト、同一の機能を共有しており、主な差異はケースとクラスプの貴金属に絞られる。本Refでは、シルバーオパリン文字盤とブルーのアラビア数字を18K 5Nピンクゴールドのケースが囲む。
加えて、ダイヤモンドをセットしたベゼルを持つ女性向けの37mm小型版「Dual Time Small Model」(ホワイトゴールド、500本限定)も同年に展開され、Harmonyのデュアルタイムはサイズと素材を変えて複数の選択肢を持つこととなった。
意匠分析
40mm × 49.3mmのクッション形状ケースは、1928年のヴァシュロン・コンスタンタン製クッション型クロノグラフを参照源とし、Harmonyコレクション共通の意匠言語を成す。本Refはこのケースを18K 5Nピンクゴールドで仕立てる仕様であり、ホワイトゴールド仕様の兄弟Ref. 7810S/000G-B050と対をなす。ケース厚は11.43mm、ラグ端までの縦寸は49.3mmである。
シルバーオパリン仕上げの文字盤には、ブルーペイントのアラビア数字が大ぶりに描かれる。時分針は金製のリーフ型で、4時位置に青焼きの針で示す第二時間帯のインダイヤル、8時位置に金製の太陽と月によるデイ/ナイト表示が配される。第二時間帯とデイ/ナイト表示はいずれもリューズで前後に設定できる。文字盤はオパーリンの銀色の地と濃いブルーの数字の対比でまとめられている。
ストラップは茶色のミシシッピアリゲーター(大鱗、サドル仕上げ、ハンドステッチ)、バックルはケース材と揃えた18K 5Nピンクゴールドのトリプルブレード・フォールディングクラスプとなる。クラスプにはマルタ十字をモチーフとした研磨仕上げが施される。
防水は30m。シースルーのサファイア裏蓋から覗くのは、22Kピンクゴールド製ローターに施された「フルリザンヌ」彫刻である。ケースバックには「260th Anniversary」の刻印が入る。フルリザンヌとは、地金を浮き彫りに削り出して文様を立体的に残す手作業の装飾技法を指す。本機のローターの意匠は、260周年記念モデル専用のものであり、1755年にジャン-マルク・ヴァシュロンが署名した同社最古の懐中時計のテンプ受けに見られるアラベスク文様に着想を得ているとされる。
系譜と歴史
Ref. 7810S/000R-B051は、2015年1月にジュネーブで開催されたSIHH(現Watches and Wonders Geneva)にて、ヴァシュロン・コンスタンタン創業260周年を記念した新コレクション「Harmony」の初年ラインナップとして発表された。同コレクションはグランドコンプリケーションからデュアルタイムまで7つの限定モデルで同時に披露され、本Refはその中でもっとも簡潔なモデルとして位置づけられた。
男性向けデュアルタイムは、本Ref. 7810S/000R-B051(18K 5Nピンクゴールド)と兄弟Ref. 7810S/000G-B050(18Kホワイトゴールド)の二型が同時発表され、いずれも625本限定で生産された。同年、女性向けの37mm小型版Dual Time Small Modelも展開され、Harmonyのデュアルタイムは複数バリエーションを揃える形となった。
WatchBaseの記録に基づけば、本Refの生産は2015年から2016年にかけて行われ、625本の納入完了後にカタログから外れたと伝わる。Harmonyのクッション型ケースは2016年から通常のコレクションに加わり、記念装飾のローターを持たないデュアルタイム(ホワイトゴールドのRef. 7810S/000G-B142など)が限定なしで展開されたとされる。これらは仕様の細部が異なるため、本Refの直接的な後継ではなく、Harmony内における発展形と見るのが適切である。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Vacheron Constantin
- 02 専門メディア La Cote des Montres: The Vacheron Constantin Harmony Dual Time Calibre 2460DT watch - Harmony is a contemporary collection par excellence
- 03 専門メディア Hands-On with the Vacheron Constantin Harmony Dual Time, the Entry-Level Anniversary Limited Edition
- 04 専門メディア SIHH 2015 Roundup: Vacheron Constantin – Everything Explained With Photos And Prices