1088/1
2023年、オーバーシーズ35mmのためにCal.1088を磁気シールド仕様へ発展させた自社製の小径自動巻
ヴァシュロン・コンスタンタン Cal. 1088/1は、2023年にオーバーシーズ・セルフワインディング34.5mm/35mmと共に登場した自社製自動巻である。直径20.80mm、厚さ3.83mm、毎時28,800振動 (4Hz)、約40時間のパワーリザーブを備える。22K金ローターにはオーバーシーズ象徴のコンパス・ローズ (風配図) が彫られ、軟鉄シールドケースが25,000 A/mまでの磁気耐性を確保する。基となるCal.1088は2020年エジェリ35mmで登場した婦人系小径自動巻で、/1派生型はオーバーシーズの実用要件に合わせ再構築されている。
| Maker | Vacheron Constantin |
|---|---|
| Reference | 1088/1 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 26 石 |
| Power reserve | 40 h |
| Movement ⌀ | 20.8 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. 小径自動巻きの空白を埋める
2010年代後半、ヴァシュロン・コンスタンタンが直面していた構造的課題のひとつは、35mm前後の小径ケースに搭載できる自社製自動巻きキャリバーの不足であった。同社は2005年以降、Cal.1400系列を中核とする手巻きの薄型キャリバー、オーバーシーズ41mmの中核となるCal.5100、複雑機構用のCal.2460系を整備してきた一方、サブ40mmの自動巻ベース機としては、自社製の選択肢が限定的であった。エジェリやオーバーシーズの小サイズ・モデルはクォーツに依存するか、より大型のキャリバーを流用するほかなかったと伝わる。
この空白を埋めるべく開発されたのが、2020年発表のCal.1088である。エジェリ・コレクションのセルフワインディング35mmへの初搭載を起点とし、ヴァシュロン・コンスタンタンとして久々の小径自動巻専用設計となった。直径20.80mm (9リーニュ) の地板は35mm前後の小径ケースに余裕をもって収まり、それまでクォーツ中心であった婦人系ラインに、自社製機械式の選択肢を恒常的にもたらすこととなる。
2. オーバーシーズへの転用と/1派生
Cal.1088/1は、2023年4月に発表されたオーバーシーズ・セルフワインディング34.5mmおよび35mmへの搭載を機に登場した派生型である。ブランド公式は、これらの新サイズについて「より小型を求める顧客の需要に応えるもので、女性および男性の手首により慎ましく収まる」と説明しており、小径オーバーシーズの自動巻化を実現する核として/1の存在がある。
基本的な機構と直径は基幹のCal.1088を踏襲しつつ、オーバーシーズに求められる実用要件 - 15気圧 (150m) 防水、軟鉄製の磁気シールドケースによる25,000 A/mまでの磁気耐性、外観上の整合性 - に合わせて再構築された。最も視覚的な相違は、サファイア・ガラスのバックを介して見える22K金ローターの意匠である。エジェリ用Cal.1088がコレクション固有の装飾を備えていたのに対し、/1ではオーバーシーズの象徴であるコンパス・ローズ (風配図) が彫られ、コレクション間で機構を共有しながら視覚的アイデンティティを分けている。
3. 同社の他キャリバーとの位置関係
Cal.1088/1の位置づけは、オーバーシーズ41mmの中核を担う自社製Cal.5100とは設計思想を異にする。Cal.5100は60時間のパワーリザーブとジュネーブ・シール (ポアンソン・ド・ジュネーヴ) 認定を備え、より大型のケースに最適化された汎用設計である。一方Cal.1088/1は、約40時間のパワーリザーブにとどまる代わりに、20.80mmという小径と3.83mmの薄さを優先しており、サブ40mmのケースに収まる機構として明確に役割が分担されている。
2025年時点で確認される派生は、基幹のCal.1088 (エジェリ・セルフワインディング)、ムーンフェイズを追加したCal.1088 L (エジェリ・ムーンフェイズ、164部品)、そしてオーバーシーズ仕様のCal.1088/1の三系統である。いずれも直径20.80mm前後、毎時28,800振動 (4Hz)、約40時間のパワーリザーブという基幹仕様を共有し、コレクションごとの機能と意匠の差異を上層に重ねる構造が採られている。
技術解説
1. 基本仕様と寸法
Cal.1088/1は、地板直径20.80mm (9リーニュ)、厚さ3.83mmの小径自動巻きムーブメントである。9リーニュ (1リーニュ ≒ 2.256mm) という伝統表記が示すとおり、35mm前後のケースに余裕をもって収まる規模で設計される。基幹のCal.1088 (厚さ3.80mm) と比較すると0.03mmだけ厚みが増しており、これはオーバーシーズ仕様の磁気シールドおよび付帯機構の調整代として説明される。
部品点数は144、石数は26 (一部の公式製品ページでは24と表記されており、出典による差異が確認できる)。毎時28,800振動 (4Hz) で駆動し、約40時間のパワーリザーブを確保する。表示機能は時・分・中央秒・日付の4点であり、3時位置にデイト窓が設けられる。エジェリ用Cal.1088では2時位置のオフセンター・デイトが採られていたが、/1ではオーバーシーズ・コレクションの伝統的な3時位置に置き換えられている。
2. テンプとハッキング機構
テンプは両持ち式のバランス・ブリッジで支持される。一般に薄型・小径ムーブメントでは構造簡略化のため片持ちのバランス・コックが用いられる傾向にあるが、Cal.1088/1は両側でテンプ軸を支えることで、衝撃に対する軸受の安定性を高めている。日常使用と旅行を前提とするオーバーシーズの設計思想を、ムーブメント側でも担保する選択である。
精度面の機能として、ストップ・セコンド (ハッキング機構) が組み込まれている。リューズを引き出すと中央秒針が停止し、秒単位までの時刻合わせが可能となる。クロノメーター級の精度仕様は公表されていないが、ヴァシュロン・コンスタンタンの内部基準に則り複数姿勢で調整されると伝わる。
3. 軟鉄磁気シールドによる耐磁性
オーバーシーズ・コレクションの一貫した特徴である軟鉄製の磁気シールドケースは、Cal.1088/1にも適用される。ムーブメントを取り囲む軟鉄リングが外部磁場をバイパスし、25,000 A/m (約313ガウス相当) までの磁気耐性を確保する。これはISO 764規格 (4,800 A/m) の約5倍に相当する水準で、生活磁気環境下のほぼ全ての一般的曝露を上回る耐性である。
シリコン製ヒゲゼンマイのような素材レベルでの磁気対策ではなく、軟鉄シールドという古典的アプローチを採る点は、ヴァシュロン・コンスタンタンのオーバーシーズに対する設計傾向を反映している。シリコン部品を部分的に採用するブランドが増えるなか、本コレクションではケース側で磁場を逃がす方式が継承されている。
4. 仕上げとジュネーブ・シールの扱い
仕上げは、同社のオート・オルロジュリ標準に基づく。リヤ・ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ (ジュネーブ・ストライプ) が施され、各エッジには面取り (アネグラージュ) が、ネジ頭は鏡面に磨かれる。サファイア・ガラスのバックから露出する22K金ローターは、オーバーシーズの旅というモチーフを示すコンパス・ローズ (風配図) の彫りで装飾され、本キャリバーの最も視覚的な識別点となっている。
一方、Cal.1088/1はジュネーブ・シール (ポアンソン・ド・ジュネーヴ) の認定を受けていないと複数のメディアが指摘している。ヴァシュロン・コンスタンタンの主流マニュファクチュール・キャリバーの多くがジュネーブ・シールを冠していることと比較すると例外的な扱いであり、認定要件 (機械式・ジュネーブ州内での組立と調整・外装を含む技術基準) と本キャリバーおよびケースの位置づけとの関係について、明確な公式説明は確認できない。