03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
開発の背景
Cal. P.9010は、2016年5月にパネライが発表した新しいルミノール1950の一群とともに登場した自動巻キャリバーである。42mmのPAM01392・PAM01523と44mmのPAM01312・PAM01359・PAM01499の5本に、カーボテックのPAM00661を加えた新作がこの機械を積んだ。旧来の型番に「1」を足した4桁の番号は、ケースを薄く作り直した新世代であることを示している。
先代のCal. P.9000も、3日のパワーリザーブ、時針の単独調整、9時位置の小秒と3時位置の日付を備えた自社製の自動巻だった。ただし厚さ7.9mmはケースの全高に直接響き、ルミノールの重い印象の一因となっていた。P.9010は、この厚みを6.0mmまで抑えることを主眼に据えた改良版である。その結果、42mmのケースは13.2mm、44mmのケースは15.65mmまで薄くなり、シャツの袖口にも収まりやすくなったとMonochromeは評した。
構造の継承と刷新
基本的な機能は先代から受け継いだ。2つの香箱による3日のパワーリザーブ、両方向に巻き上げる自動巻ローター、小秒と日付の配置、そして時針の単独調整機構である。一方、構造面では手が入った。テンプを片側だけで支える受け(テンプ受け)から、両側で支える受けへ改めた点が最大の違いで、衝撃に対するテンプ軸の安定を高める狙いがある。石数は28石から31石へ、部品数は197点から200点へ、それぞれ3つずつ増えた。P.9010の登場後も、P.9000はしばらくコレクションに残った。
派生
P.9010は基盤キャリバーとして派生機を生んでいる。2024年のサブマーシブル・エラックス LAB-IDに載るP.9010/ELは、通常のP.9010に照明用のモジュールを加えたもので、照明用に独自の4つの香箱を持つ。照明を使っても時計側のパワーリザーブや振り角に影響しない構成である。このほか、GMT針を加えたP.9010/GMTなどがある。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
基本諸元
Cal. P.9010は、自動巻機構を備えた機械式キャリバーである。直径は13¾リーニュ(31.02mm)、厚さ6.0mm。200個の部品と31石で構成され、振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは3日(72時間)。3日のパワーリザーブは、パネライが自社製ムーブメントの基本としてきた仕様である。
ツインバレルと自動巻機構
長いパワーリザーブを支えるのが、2つの香箱を組み合わせるツインバレル構造である。先代Cal. P.9000から受け継いだ設計で、1つの香箱では届きにくい72時間を、無理のないトルクで実現する狙いをもつ。香箱の巻き上げは、両方向に作動する自動巻ローターが担う。ローターの回転は輪列を介して香箱へ伝わり、装着中の腕の動きで動力を蓄える。パワーリザーブ72時間は先代と同じで、薄型化はパワーリザーブを削らずに行われた。
テンプにはグリュシデュール製のものを使う。グリュシデュールはベリリウム銅合金の一種で、温度変化に対する寸法の安定性と硬度、耐食性に優れた素材として知られる。先代Cal. P.9000との大きな相違点は、テンプを支える受けにある。P.9000は片側だけで支えるテンプ受けだったが、P.9010では両側で固定する受けとし、片持ち式に比べて衝撃によるテンプ軸の倒れを抑える。受けはカモメの翼を思わせる形をしている。耐震装置にはインカブロックを備える。
脱進機と秒針停止
脱進機は伝統的なスイスレバー式である。28,800vph (4Hz)という振動数は、現代の機械式ムーブメントとして標準的な値で、衝撃や姿勢の変化に対する安定と摩耗の釣り合いを取った設定とされる。リューズを時刻合わせの位置まで引くとテンプが止まり、秒針も止まるため、基準となる時刻に秒単位で合わせられる。
時針の単独調整と日付連動
実用面でCal. P.9010を特徴づけるのが、時針の単独調整機構である。リューズの中間位置で時針だけを1時間単位で前後に動かせ、分針と秒針は動き続けたまま、時差や夏時間の切り替えに対応できる。この調整は日付と連動しており、時針を前後に送ると日付も進んだり戻ったりする。長距離の移動でも、合わせた分と秒を崩さずに現地の時刻と日付へ切り替えられる。
外観
サファイアクリスタルの裏蓋を持つモデルでは、ローターと受けの構成を眺められる。P.9010を載せた2016年以降のルミノール1950では、9時位置の小秒針が青く塗られ、新しい機械の目印となった。