設計思想
1957年への回帰が始まった年
2013年4月、バーゼルワールドでオメガはスピードマスター '57 コーアクシャルを発表した。同年の主役はセラミック製の「ダーク サイド オブ ザ ムーン」だったが、'57はその対極にある提案だった。月へ行く前、1957年に生まれた初代スピードマスターCK 2915へ立ち返り、ストレートラグと金属ベゼルという原点の意匠を現代のケースに移し替えたのである。前年2012年の「ファースト オメガ イン スペース」が往年のプロポーションの再現に軸足を置いたのに対し、'57は自社最新ムーブメントを核に原点を再解釈する道を選んだ。
Cal.9300が規定したダイアル
'57の性格を決定づけたのは、2011年に登場した自社製クロノグラフムーブメントCal.9300である。コーアクシャル脱進機(部品間の摩擦を減らすオメガ独自の脱進機構)とSi14シリコン製ヒゲゼンマイを備え、コラムホイールと垂直クラッチでクロノグラフを制御する。3時位置のインダイアルに12時間計と60分計を同軸で重ね、9時位置にスモールセコンドを置く2カウンター構成は、このムーブメントの設計に由来する。3つの目盛りが並ぶムーンウォッチの顔とは異なる、左右対称のバイコンパックスこそが'57世代の識別点となった。
ブルーという例外、レザーという性格
ローンチ時のコレクションはスティール、ツートーン、ゴールド、チタンと素材の幅で構成され、文字盤は黒・シルバー・白が中心だった。その中で鮮やかな色を持つ数少ない存在が、本機のPVDブルーである。331.12.42.51.03.001はそのブルー文字盤をブラウンのカーフレザーで受けた仕様であり、ブレスレット仕様の331.10.42.51.03.001と対をなす。金属の連続感でまとまるブレス仕様に対し、レザー仕様は青と茶の対比により、スポーツクロノグラフよりも古典的なクロノグラフの趣へと表情を寄せている。
厚みとの対話、そして世代交代
一方で、垂直クラッチを持つCal.9300とシースルーバックの組み合わせはケースに厚みをもたらし、41.5mmの径とあわせて装着感への指摘が続いた。2022年3月、オメガは40.5mm径へ縮小し手巻きCal.9906を積む新世代を発表し、'57は大きく姿を変える。ブルー文字盤も332.12.41.51.03.001として引き継がれたが、自動巻きの初代世代はここで幕を下ろした。本機は、2カウンターという'57の文法を確立した第1世代における、色彩面での試みを示すリファレンスである。
意匠分析
1957年の初代CK 2915から引き継いだのは、ケースサイドへ直線的に伸びるストレートラグと、アルミインサートを持たない金属ベゼルである。ムーンウォッチを特徴づけるツイステッド(リラ)ラグ以前の意匠であり、サテン仕上げのスティールベゼルにはタキメーター目盛りが直接刻印される。ケース径は41.5mm。初代より明確に大きいこの寸法は復刻のためではなく、Cal.9300を収める現代機としての選択である。垂直クラッチを積む同ムーブメントとサファイアのシースルーバックが重なり、ケース厚は16mmを超える。ラグ幅は20mm。
文字盤はPVD(物理蒸着)による金属的な光沢を帯びたブルー。植字インデックスは夜光ドットを伴い、アルファ型の時分針にはスーパールミノバが施される。3時位置のインダイアルでは12時間計の針がアローヘッド(矢尻)形に作られており、初代のブロードアロー針への目配せとなっている。「Speedmaster」ロゴなどに差された赤が、青地に対する数少ない暖色として文字盤を引き締める。6時位置の日付窓は目盛りの内側に収められ、2カウンターの対称性を崩さない。
ストラップはブラウンのカーフレザー。ブレスレット仕様の331.10.42.51.03.001と比べ、ケースのポリッシュとサテンの切り分けが際立ち、手元の印象は金属の塊から古典的なクロノグラフへと寄る。100m防水はムーンウォッチの50mを上回る数値で、刻印式ベゼルとともに日常使用を前提とした設計がうかがえる。シースルーバックの内側には、アラベスク状のコート・ド・ジュネーブで装飾されたロジウム仕上げのCal.9300が覗く。
系譜と歴史
スピードマスター '57 コーアクシャルのコレクションは、2013年4月のバーゼルワールドで発表された。発表直前にオメガ公式サイトへ製品情報が一時掲載され、話題が先行したと伝わる。ブルー文字盤はローンチ時からラインアップに含まれ、本機331.12.42.51.03.001(レザーストラップ)とブレスレット仕様の331.10.42.51.03.001の2形態で展開された。同時に発表されたのは、ブラック文字盤のスティール、シルバー文字盤のツートーンとゴールド、ホワイト文字盤のチタンなどで、ブルーはコレクション内の色彩面での例外だった。
2015年3月のバーゼルワールドでは、ヴィンテージ調のスーパールミノバとブロードアロー針を持つブラック文字盤の派生(331.10.42.51.01.002ほか)がファミリーに追加された。一方、ブルー文字盤については生産期間を通じて大きな仕様変更は確認されていない。
WatchBaseの記録では、本機の生産期間は2013年から2021年。2022年3月7日、オメガは'57の新世代8型を発表した。ケースは40.5mm径・12.99mm厚へと縮小され、ムーブメントは手巻きのコーアクシャル マスター クロノメーター Cal.9906(METAS認定)に置き換えられた。ブルー文字盤はグラデーション仕上げの332.12.41.51.03.001(レザー)と332.10.41.51.03.001(ブレスレット)として再構成され、41.5mm・Cal.9300世代はカタログから退いた。本機は現在、生産終了モデルである。